卒業式
ぼちぼち更新します
[卒業生代表挨拶騎士学科主席、ティッシ・ウメイン」
「はっ」
前方でティッシーが大きな声で返事をし壇上に上がっていく。
ほんとよくやる。
ティッシーは努力家で頭も良く背も高く家柄も良くそしてなによりイケメンだ。
学園に入った時は背も小さくオーリーにもよく泣かされてたのにな。
泣き虫ティッシーって。
六年という月日は人を成長させるには十分すぎる期間だったって事だな。
今や生徒会長でもあり、実力もある。
そしてその容姿から彼の英雄「黄金の獅子」の再来とまで期待されている。
泣き虫ティッシーを知ってる俺からすれば金髪だからって王国の英雄、故レオン・クロフォード卿に例えられるなんて出来すぎも良い所だ。
といっても確かに、ティッシーは強いからな。
「答辞、卒業生代表ティッシ・ウメイン。本日はお忙しい中私たちの卒業生のためにこのような盛大な式典を催して下さり誠に有り難うございます。ご臨席を賜りましたジェイダス王子殿下、並びにご来席くださった皆様方に卒業生一同を代表し厚く御礼申し上げます」
それにしても、なんでこう固いのだろうな。
卒業式なんてそんな物って言えばそうなのかもしれないけど、もっと音楽ならして皆でダンシング的なのでもいいと思うんだけどな。
きっと卒業生が用意した式典じゃないからこんな古めかしい感じになっちゃうんだろうな。
「あの春の木漏れ日の中、栄えある帝国立アルバン高位修学院の門を初めて皆で潜ったのを昨日のように覚えております。」
嘘つけ。
何が木漏れ日だ。
入学式は晴れてたけど、寮生の俺達は寮に泊まるため事前に乗り込んできている。
しかも俺の記憶が正しければ結構な嵐だった。
テシーは隣の領地の三男坊で親は子爵で家よりは爵位は高いが、昔から親同士が仲が良いことから良くお互いの領地を行き来し俺達は親戚みたいな関係で育てられている。
同じ年の俺達はそんなわけで一緒に入寮するために同じ馬車で来た。
初めて門を潜ったのも一緒だ。
まぁ栄えある主席様が挨拶するんだ。
土砂降りの中おかーさーんって泣きながら門を潜りましたじゃ格好付かないもんな。
今でも思い出すな。
鼻水垂らしながらおがぁーちゃーんって言ってたテシー。
結局お付きのメイドさんのデレフォさんに、「そんな事では、お父様に笑われますよ」って言われ無理矢理手を引かれて本当に泣く泣く門を潜ってたな。
同室だったから毎夜毎夜グスグスティッシーが泣いて中々寝付けなかったのも今と成っては良い思い出だ。
ふと顔を上げるとテシーがめっちゃ俺を視てる。
イケメンがそんなに俺を視るな。
後輩達の創作本で黒×金って言うかなり際どい女性専用の本が売られてるのお前知ってるのか?
そうやって偶に俺を見つめるからそんな本が作られるんだ。
俺が攻めでお前が受けらしいぞ。
どうせ今日が最後だし後で教えてやろう。
「 最後になりますが、未熟な私たちにいつも適切な助言を与えて下さった諸先生方、また様々な場面で私たちを支えて下さった職員の皆様に、改めて御礼申し上げるとともに、この栄えある帝国立アルバン高位修学院卒業まで、私たちの成長を見守り続けてくれた家族に感謝します。そして、帝国立アルバン高位修学院の一層の発展を願い、答辞とさせていただきます。」
盛大な拍手の中瞳を潤ましながらテシーが壇上から降りていく。
それから在校生代表挨拶等、つつがなく式典は終わり俺達卒業生はばらばらと講堂の外へと出て行く。
教室に寄る奴もいれば俺達みたいにさっくりそのまま帰る奴もいる。
まぁ俺達の私物やらなんやらは基本全て執事やメイド達が式典中に片付けているからってのもあるけど。
「ほんとに今日で終わりだな」
校舎を眺めながら俺は隣を歩くオーリーに話しかける。
「そうねぇ~。そう言えばアーチは騎士団通ったの?最後まで教えてくれなかったけど」
「え?ああ。まぁな」
ちょっと曖昧な返事になってしまった。
そういやオーリーには言って無かったな。
心配すると思って、嫌、違うな。
きっと俺があそこに入隊するって言ったらオーリーは間違いなくあの手この手で妨害したはずだからな。
それに俺が《《折れて》》しまったかもしれないから。
「何々~まぁなって。希望どうりじゃなかったの?あ、分かった『第Ⅲ』だったでしょ?」
確かに第Ⅲ騎士団はあまり帝国騎士団の中でも人気が無い。
幻想鎧がちょっと個性的で女子からの人気は低い。
頭部が無い事から第Ⅲの幻想鎧は「首無し」とか言われているのは知っている。
俺はごつくて結構カッコいいと思っている。
多少格好悪いとしても第Ⅲ騎士団はエリートだ。
嫌なわけが無い。
普通の人なら。
「オーリ、あんまり聞いてやるな」
後ろから聞き慣れた声がする。
「お、テシー卒業生代表様じゃないの?挨拶なかなか格好良かったよ」
「え?ああそうかい。有り難う。じゃぁ今夜その卒業生代表様とデートでもしてみない?」
テシーは金髪の髪をさらりと掻上げながら何時ものようにオーリーを誘う。
「あら、おあいにく様。私異性間の交際ってまだ興味ないの。それで?どういう事?聞いてやるなって?」
そしてオーリーが何時もの様に上手に躱す。
ほんとテシーも飽きずに良くやるな。
毎回間違いなく断られるのにめげない奴だな。
確かにオーリーは見た目も綺麗だし、頭の回転も早い。
そして公爵令嬢であり魔導の才能も豊かだ。
「何でも有り」の戦闘だと勝てる同級生はほぼ居ない。
戦闘開始の合図と共に30程の魔弾が展開されるって相手にとっては悪夢そのものだからな。
「酷いな~オーリ今日ぐらいオーケーしてくれても良いじゃ無いか。卒業という特別なイベントなのに」
「嫌よ。卒業と同時に妊娠させられたらたまったもんじゃ無いわよ。聞いてるわよ3組の娘の事」
「やだなオーリー誤解だよ、誤解。あ、そうそうコイツな、何故そう成ったのか全く分からないけど、あの第「テシー」」
全く、男の喋りはみっともないって習わなかったのか?
何でもかんでも喋れば良いってもんじゃない。
それに俺の事をネタに話しを逃れようとしやがったな。
俺のキツめの呼びかけに肩を竦めるテシー。
「ああ、ごめんごめん。うん。そうだね自分で言うよね。凄いから。聞いたらきっとオーリー吃驚するよ」
「全く、なんで話す事前提なんだよ。ふー・・・・」
何だよ吃驚するって。
人の進路をびっくり箱みたいに言うなよ。
「ふ~ん、別に吃驚なんかしないわよ。それで・・あ、ちょっと待って当てるわ。流石に『第Ⅳ』は違うよね?確かアーチそこまで魔導適正高くないしね。『第Ⅲ』も無いって言ってたし・・・『第Ⅷ』は特殊過ぎるし、普通に入れないって言うもんね・・・『第一』は推薦が必要だし、そもそも同僚になるんだったら私が知らないわけ無いしね。もしかして・・・分かった!『第Ⅱ』!?確かにあの翼で大空を駆けるのは憧れるよね。でもあそこはエリートだらけだし《《待ち》》が長いから中々活躍出来ないよ?」
目を輝かせながらオーリーは名探偵よろしく顎に指を当てながら推理してくれている。
栗色の髪があれやこれやとせわしなく動くオーリーの動きと共に揺れている。
「オーリー違うんだ。俺が望むのは『第一』でもましてや『第Ⅱ』でもないんだ」
「え?もしかして『第Ⅴ以下』って言うんじゃ・・・?」
第Ⅰ~第Ⅸまである帝国騎士団だが『第Ⅴ以下』の言葉で分かるように、第Ⅴより下は騎士団と言いつつも使い潰しの効く一般人や傭兵などで構成されており事実上下級騎士団とされている。
特に上位騎士団とされる『第Ⅰ騎馬騎士団』『第Ⅱ空挺騎士団』『第Ⅲ巨兵騎士団』『第Ⅳ魔導騎士団』は特権階級で基本的に貴族の子弟や帝国立アルバン高位修学院で高位の成績を収めた者のみが入隊を許されている。
故に基本貴族で騎士を目指す者は皆第Ⅳより上に入隊する事になる。
「ああ、そのまさかだよ」
「えーーーーー!嘘でしょ?なんの為に騎士学科高位で卒業したのよ。そりゃ第Ⅰ~第Ⅲとかは直ぐには幻想鎧は貰えないかもだけど、それでも男爵の息子が第Ⅴ以下って・・・・今から変えに行きましょ。ええ、大丈夫。大体の事はお父様に言えば通るから」
オーリーが俺の手首をむんずと掴み歩き出そうとする。
「待て待て待て待て。・・・・良いんだよオーリー。俺が望んだんだ。それにそこには俺の目指す人がいるんだ」
「え?まさか・・・・」
「ああ『第Ⅸ遊撃騎士団』に入る事になった」
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「ほらね吃驚したでしょ?」
テシーが自慢げに呟いた。
最後までよんでくださって有り難うございます