表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
偏愛ハートボーダーライン  作者: 輪廻
序章
2/10

幼少期1

優が伯父夫婦と暮らし始めて三ヶ月ほど経ったある日のこと。

台風が来て、外は大雨が降っていた。


伯父夫婦は、こんな日は家にいるのがいいだろうと思いのんびりしていた。


雨はどんどん勢いを増していき、雷が鳴りはじめる。

雷が落ちる音が聞こえるたび優が異様に怯えているのに、伯母が気付いた。


伯母は優の頭を撫で、尋ねた。


「雷、怖いの?」


上目遣いに伯母の顔を見て、優は頷いた。


「うん…雷は、きらい。だって…」


だって、の後を続けようとした時、ひときわ大きな雷が近くに落ちた。

鮮烈な光が網膜を焦がし、轟音が響き渡る。

ついていた明かりが全て消えた。

停電だろう。


伯母はとりあえず優に話しかけようとした。

小さな子どもが雷を怖がることは大いにあり得るが、それにしても優の様子は尋常ではなかったからだ。


話しかけようとした直前、伯母は優の違和感に気づいた。

いつのまにか優は窓に近寄り、外を見ていた。薄暗い中浮かび上がる横顔は、妙に大人びている。


外はまだ大雨が降り続き、轟音も時折聞こえてきている。

先程まであんなに怖がっていたのに、何故急に静かになったのだろうか?

不思議に思い、顔を覗き込む。


「優?どうした…」


の、と言いかけて伯母は息を飲んだ。

幼児らしくない冷静な眼差しに射竦められて。

優は笑顔で口を開いた。


「どうも久しぶりだね、伯母さん。伯父さんもね。会えて嬉しいよ」


その言葉に伯母だけでなく伯父も、呆気にとられた。

共に暮らしているのだから、優とは必然的に毎日顔を合わせている。

久しぶりなわけがない。


「久しぶりって…私達は一緒に暮らしているでしょう?」


伯母は眉をひそめた。

訝しげな伯父夫婦に、優であるはずの子どもは当然のように言う。


「久しぶりだよ。だって僕は優じゃないからね」


途中からいつもの優と違っていることには薄々気づいていたが、本当にそうだとは。

驚いて言葉の出ない伯母に代わり、今度は伯父が尋ねた。


「優じゃないなら、君は誰だい?」


優と同じ顔なのにどこか違う子どもは、嬉しそうに答えた。


「僕はノゾミ。希望の希。あれ、伯父さん達、僕のこと覚えてないの?」


それを聞いて伯父夫婦ははっとした。

優には三歳上の兄がいた。

その兄の名前が希だったのだ。

たった三歳しか違わないのに、優と比べると落ち着いた子どもだった。

伯父夫婦はもちろん希も可愛がっていた。


だが、今希がいるのはどう考えてもおかしい。

伯父は慎重に口を開いた。


「希は、死んだはずだろう?」


そう、希はもう死んでいる。

優が三歳の時、交通事故にあったのだ。

伯父夫婦は葬式にも出席した。

間違いなく、優の兄の『希』はもういない。


希はけらけらと笑って、それを肯定した。


「うん、僕の体はとっくに死んでるよ。今喋ってるのは優の体」


伯父は衝撃を隠せないまま、再度問いかけた。


「どうして話せているんだい?その体は優のものなんだろう」


「そうだよ。優はね」


希は伯父から目をそらし、窓ガラスに映る自分の顔を見つめた。


「ボーダーラインにいるんだよ」


その言葉の意味がわからず、伯父夫婦は顔を見合わせた。

ボーダーライン?なんのことだろう。

首をかしげていると、希は慌てたように伯父の方に向き直った。


「そろそろ時間切れかな、優が起きちゃう。伯父さん、伯母さん、またね」


そう言って笑うと、希はふっと気絶した。

ついでに顔面から倒れた。


伯母は驚きすぎてあんぐり口を開けたまま固まっている。

がつーん!と優の額が床に激突する音が響き、ものすごく痛そうだ…と伯父は他人事のように思った。


伯父が抱え上げようとした直後、優は自力で起き上がった。

…もちろん、額には巨大なコブができている。幸いというべきか、割れてはいなかった。


「あれ…伯父さん。優、なにしてたっけ…」


目をこすりながら、寝起きのようなぼんやりとした声で優は呟いた。

目の前には何故か口を開けたまま動かない伯母がいて、さっきまで伯母にしがみついていたはずの自分は窓の前に移動している。

不思議に思ったが、今はそれどころではなかった。額のコブがとにかくひたすら痛い。


雨は相変わらず降り続いていたが、雷は収まっていた。

停電もそのうち復旧するだろう。

ようやく正気に返った伯母は優の額を見てあたふたしている。

伯父は優のコブを冷やすべく、タオルと氷を取りに行こうと立ち上がった。


ちらりと優を見やる。

半分パニック状態の伯母の腕の中で、優はいつもと変わらない様子に戻っていた。


さっきのは一体、なんだったんだろう。

自分を優ではなく希だと言った、さっきの優は。

豹変の理由は二人とも分からないし知らなかった。


首をかしげながら、タオルを氷水に浸す。

コブの手当てのことを考えているうちに、さっきまでのことは伯父の脳内から次第に消えていく。


そのうちわかればいいや、くらいに思いながら、伯父は濡らしたタオルを持って優のもとに歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ