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いつもの朝

 朝の慌ただしい時間の中、わたしは半分眠ったままトーストをモソモソと頬張る。

 食事が終わるころに、ようやく目が覚めてきた。


 テレビを見ると時間がけっこう過ぎていて、あの大切なコーナーが始まろうとしていた。

 それは『1分でマスターできる関西弁講座』というコーナーだ。


 いつもの時間になり、アナウンサーのお姉さんが定番のテロップを出す。


「今日の関西弁講座の内容はコレです」

 そこには『もうかりまっか?』と書かれていた。


「みなさんは街中で突然『もうかりまっか?』と聞かれたときどうしますか?

 これは関西では挨拶のようなものです」


 なるほど、関西では少し変わった挨拶があるみたいだ。


「この挨拶に応じるときは『ボチボチでんがな』と答えましょう。

 良いですかみなさん『ボチボチでんがな』ですよ。

 それではリピート、アフター、ミー」


 天気のお姉さんが耳に手を当て、視聴者に発音を促す。

 そこまで分かりやすいリアクションを取られては、それに答えない訳にはいかない。


「ボチボチでんがな」


 わたしは、ハッキリと大きな声で答える。

 きょうもひとつ、関西弁をマスターした。このコーナーを見だしておよそ3ヶ月が経つ。

 今のわたしの関西弁のレベルは、控えめに言ってもマスタークラスといった所だろう。


 テレビの時計を確認すると、けっこういい時間になっていた。


「そろそろ準備をしないと」


 せかされるように身支度をする。


 お母さんがアイロンを掛けてくれたシャツを着て、まだ新しい制服を袖を通す。

 廊下にある大きな鏡で確認をしながら髪を整えると、色付きのリップクリームを唇につけた。

挿絵(By みてみん)


 わたしの名前は霜沢(しもざわ)綾子(あやこ)、高校一年生でちょっと人とは違う特徴があったりする。

 それは人様より耳が長い。


「耳が長いのは、ほんの少しだけですよ~」と言い切りたいが、こうして鏡で確認して見るとかなーり長い。

 その耳の長さはゲームとかお話などに出てくるエルフのよう。


 外出すると、この耳はイヤでも目立ってしまう。

 一時期、この耳を髪で隠せないかと、いろいろと試したがダメでした。

 もし隠そうとするなら、超特大のアフロヘアーにでもしないと無理だと思う。


 普通のアフロなどではダメです、超特大のヤツでないとダメなのです。

 なぜそう言い切れるのか。

 ……やりました。

 ええ、じっさいにアフロをやってみたことがあるんです。


 あれは中学1年の頃、あの当時のわたしは何を考えていたのかお年玉を握りしめ、町一番と言われるパーマ屋にいきました。

 店に入ってから、およそ2時間後。かなり立派なアフロヘアーのわたしがそこにはおりました。


 そして立派なアフロから飛び出る、エルフ耳。

 わたしの耳はアフロごときで隠せるほどヤワではないのです。


 この事はわたしにとっての黒歴史となりました。

 ……消したい。できるなら、あの時の記憶を消し去りたい。



 鏡の中のわたしとにらめっこをしていたら、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。

 友達が迎えにきた。わたしは鞄を手に取ると、「いってきますー」と言って外へ飛び出す。


 外にはいつもの友人が二人、待っていてくれた。


 一人は男の子、福島(ふくしま)大久(たく)、通称タッくん。名前が『たく』だからあだ名はタッくん。わかりやすい。


 タッくんはわたしよりちょっと勉強が出来る。

 まあ、わたしを基準にすると学校の7割くらいがこの『わたしより勉強が出来る』というカテゴリーにはいってしまうけど、そこは気にしない。



 もう一人は女の子、米川(よねかわ)(さき)、みんなには『ヨネちゃん』と呼ばれている。

 名字が『よねかわ』だから、ヨネちゃん、やはりわかりやすい。

 黒髪のロングの美人さんで、男子からは人気があるっぽい。

 性格は、ちょっとおっとりとしている。



 そしてわたし、霜沢(しもざわ)綾子(あやこ)はみんなからなんと呼ばれているか。あだ名は『エル子』。

 あやのだから、普通は『あやちん』『あやぴょん』とかじゃなかろうか?

 なぜ、名前を無視してエル子とか付けるんだろう?

 ええ、わかってますエルフだからエル子でしょうね。全てはこの耳のせいですとも。



「おはようエル子」

 タッくんが相変わらず無愛想にあいさつをしてきた。


「エル子ちゃんおはよう」

 タッくんとはまるで違い、微笑みを浮かべながらヨネちゃんがあいさつをしてくる。

 さすがモテる女子、モテない男子とは大違いだ。


「おはよう。じゃあ行こうか」


 わたしもあいさつをすると、いつも通り学校へ向けて歩き出す。


挿絵(By みてみん)

※イラストはseimaセイマ氏に描いていただきました。

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