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付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~  作者: わんた
忘れられていた真実(仮)

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混戦

 兄さんを見送ってから、何もできないもどかしさを感じながら外を眺めていた。


 店にたどり着く前に追いつかれたアミーユお嬢様は、立ち止まるとヒラヒラと蝶のように舞って、襲い来る騎士を翻弄し、次々と避けながらもこちらに近づいている。


 普通に考えれば身体能力の劣る子供が大人に勝てるわけがないので、能力を向上させるような付与が施されているのは間違いないだろう。


「だとしても、よく動く」


 抱きかかえようとした騎士をしゃがんで躱してから足払いをする。前後から接近されると飛び跳ねて回避。僕は魔術しか教えていない。この身のこなしは別の人から教わったのだろう。洗練された動きに僕は魅了されていた。


 でもさすがに体力だけは、どうしようもなかったようだ。少しずつだけど確実に動きが鈍くなっている。それでも十数人に及ぶ騎士と対等以上に渡り合っているのだから末恐ろしい。


 けど、もう終わりか。左右から忍び寄った二人の騎士が、アミーユお嬢様の両腕を掴んだのだ。振りほどく前に他の騎士が殺到するだろう。


「ーー離せ!」


 お、兄さんが店から出てきたぞ。


 怒鳴り声を上げながら駆け寄り、アミーユお嬢様の元へたどり着いた。突然の侵入者に警戒した騎士は、逃がさないように兄さんを取り囲む。


 騎士標準の装備をしているので見ただけで仲間だとわかるはずだけど、対立する騎士の集団からはそんな雰囲気は感じられない。


 怒鳴り声が響き渡り、何人か鞘に収まっている剣に手をかけて、すぐに抜けるように警戒している。遠目からもわかるほど険悪な空気が漂っていた。


「ここから交渉か――ええ!?」


 金属音と共に兄さんを取り囲んでいた数名の騎士が吹き飛び、さらに兄さんの体を何かが貫いた。


 囲まれたせいで周辺の視界が狭くなり、避けられなかったのだろう。力が抜けたように倒れてしまった。


 いや! 今は冷静に観察している場合じゃない!


 僕はとっさに全身に刻み込まれた刺青に魔力を通して、身体能力を軽く強化する。窓の枠に手をかけると二階から飛び降りた。


「アミーユお嬢様! 兄さんっ!」


 衝撃を逃がすために着地と同時に転がった僕が目にしたのは、乱戦状態の戦場だった。


 敵の動きを観察する。


 フード付きマントで全身を隠した集団が、騎士に襲いかかっている。剣や弓だけではなく、少ないながらも魔術も放たれている。明らかに素人ではない動きをしているけど、決して強くはない。騎士が押し負けることはないだろう。混乱から立ち直れば必ず勝てる。


 それにアミーユお嬢様の周囲には、騎士が三人いる。状況を優位に進めているので、僕が助力しなくても守り切れそうだ。


 であれば、僕のやることは一つだ。

 混戦状態の戦場に向かって走り出した。


 僕に狙いを定めた襲撃者を殴りつける。軽く強化しただけとはいえ常人の筋力を上回っている。相手の鳩尾に入ると、数メートル吹き飛び動かなくなった。


 仲間が倒されたのに気づいた他の襲撃者が僕に殺到する。流石に数が多い。走りながらでは倒せないだろう。


 迎え撃つために立ち止まると≪睡眠≫の魔術を発動させる。するとこっちに向かっていた襲撃者は立ち止まり、意識を失って倒れてしまった。


 再び走り出すとようやく兄さんの元にたどり着いた。


「ひどいケガ……」


 兄さんのお腹には直径数センチほどの穴が空いていた。焼け焦げた匂いがしているので、矢ではなく魔術で貫かれたみたいだ。そのおかげで出血が少ないのは不幸中の幸いというやつだろうか。


「ク、クリスか。俺より……お嬢ちゃんを守れ」

「兄さんのケガを治したらね。今、回復用のポーションを使うから!」


 ニコライじいちゃんのお店で買ったポーションをポーチから取り出し、お腹に振りかけた。


「ウッ!」


 急速に治る痛みに兄さんの顔が歪んだ。


 ポーションは回復と引き換えに痛みが伴う。完治してもすぐに戦える状態にはならないだろう。だから兄さんは、このまま戦線離脱したままだ。


「これからアミーユお嬢様のところに行くよ」

「……そうしろ。傷さえ治ればなんとかなる」

「死なないでね」

「クリスもな」


 お互いにうなずき合うと、僕は立ち上がってアミーユお嬢様の方を見る。


 状況は変わっていない。騎士が周囲を警戒しながら、しっかりと守っている。連れ戻すよりも先に襲撃者から守ろうとしている姿勢は、公爵家を守る騎士としては正しい姿だ。派閥争いをしていても本来の目的を忘れていないことに、僕は安心した。


 だからといって不安がないわけでもない。直接剣を交えている襲撃者のレベルは高くないけど、戦闘になれた魔術師が控えている可能性が高い。魔術を防ぐためにも僕が合流する必要があるだろ。


「えっ!?」


 そう考えて一歩踏み出すと、アミーユお嬢様を囲んでいた三人の騎士の頭が一斉に破裂した。血液が飛び散り、お嬢様の服を赤く染める。先ほどまで生きていた人間が次の瞬間には物言わぬ死体になった。


 その事実を受け止められないアミーユお嬢様は、小刻みに震えるだけで悲鳴を上げることすら出来ないようだ。


「マズイ!!」


 ゆっくりとと倒れる騎士の間を縫って、一つの黒い影がアミーシュお嬢様に近づいている。


 襲撃者の行動を阻止するべく全力で走っているけど、間に合わなかった。黒いマントとフードをかぶった襲撃者は、恐怖で動けないアミーユお嬢様を抱きかかえている。


「逃がさない!」


 僕は素早く≪拘束≫の魔術文字を空中に書く。効果はすぐに発揮されて、襲撃者の足下から光の紐が出現して絡みつく。けど、ほんの一秒にも満たない時間で消えてしまった。


「対抗された!?」


 ≪拘束≫や≪睡眠≫といった対象に直接作用する魔術は、体内の魔力を高めて操作することによって、対抗することが可能だ。もちろん素人にはできない。魔術に抵抗できるということは、熟練の魔術師という証だ。


 考えが甘かったっ! 素人に近い集団に、こんな人物がいるとは思わなかった。


 アミーユお嬢様を巻き込む可能性があるので、攻撃の魔術を放つわけにはいかない。後手に回ってしまうのは仕方がない。相手の出方を待つか。


 周囲を警戒しながらアミーユお嬢様を抱えている黒い襲撃者を観察する。すぐに逃げ出すと思っていたけど、動く気配がなかった。顔は見えないけど、僕の方をじっと見ているような視線を感じる。


「女の子を解放してくれたら、会話ぐらい付き合ってあげるよ」

「それは出来ない」


 無駄だと思いつつも話しかけたら、意外なことに反応があった。


「なぜ?」

「都合が良いからだ」

「なんの?」

「……それは、答えられない」


 そう答えた瞬間、風が吹いてマントがめくれる。


「片腕が……ない?」


 マントで隠れて外からは分からなかったけど、敵の魔術師の腕はアミーユお嬢様を抱えている一本しかなかった。聞き慣れた声と、片腕で魔術が得意な人物。僕に一人だけ心当たりがある。


「もしかしてあなたは、ルッツさんですか?」


 名前を出したことで襲撃者はフードを取る。

 僕の予想通り、ヘルセ奪還のために両親と一緒に行動して、そして幸運にも生き残った魔術師ルッツだった。

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