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付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~  作者: わんた
忘れられていた真実(仮)

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護衛の依頼

 翌日。冷たい水で顔を洗い、気持ちをリセットした僕は、ハンターギルドに向かっていた。旅に付き合ってくれる人を探すためだ。


 モンスターが跋扈するこの世界において一人旅は危険で、最低でも2人で行動したい。さらにお金が稼げれば完璧だ。


 ということで僕は今、ヘルセに行く護衛依頼を探している。


 ハンターギルド内には黒板のようなものが、いくつもあり、隙間がないほど依頼が書き込まれている。


 ハンターは、依頼番号、概要、期限、条件を確認して、引き受けるのであれば近くの職員に伝えるといった方法で運用されていた。


「モンスターの討伐依頼が増えている」


 それも誰が見ても分かるほどだ。僕がいる首都カイルですら襲われているんだから、推して知るべしってことなんだろう。


 ただ今回はそのおかげで、護衛依頼も溢れかえっていた。破壊され尽くしたヘルセの護衛依頼まである。最悪、最寄りの町まで護衛依頼があればいいやと思っていたから、嬉しい誤算だ。


「153番の依頼を受けたいんですが」


 掲示板の隣に立っている男性の職員に声をかけ、ハンターギルドの会員カードを渡す。


 昔、兄さんに連れまわされた時にハンターギルドの会員になり、作っていたのだ。そこには僕が戦闘向けの魔術が使えること、達成した依頼数などが記載されている。


「クリスさんですね。条件に当てはまっているので問題ありません。本日出発となりますが大丈夫ですか?」

「はい。この通り」


 背負っている荷袋を見せて準備が終わっているとアピールする。

 それを見て納得した職員は「よろしいでしょう」とつぶやき、今後の説明を始める。


「今回の依頼は行商人のコテルさんの護衛ですね。依頼を引き受けたハンターは一名います。二人でヘルセまで護衛してください。食費は自腹、報酬の銀貨10枚は現地に到着してから支払われます」


 定員二名の護衛で経費は自分持ち、さらに報酬は最低値に近い。


 こんな条件で飛びつく物好きなハンターが、もう一人いるとは驚きだ。僕と同じように、少しでも安全して移動できれば赤字でも良いと思っているのだろうか?


 まぁ今、考えても意味は無いか。移動に三日はかかるんだ。その時にゆっくり聞こう。


「大丈夫です」

「それでは奥に行って下さい。待合室12番でコテルさんが待っています」


 事務的な説明を聞いた僕は、掲示板に群がるハンターをすり抜け、待ち受け室と書かれたドアを開く。その先には細長い木製の通路があり、左右に番号が振り分けられているドアがあった。


 僕はコツコツと音を鳴らしながら歩き、12番と書かれたドアの前に立つ。


「コンコン」


 ノックをしてしばらく待つとドアが開き、短い金髪の若い女性が出てきた。全体的に幼い顔つきをしているが、目つきだけは鋭い。


 依頼人の名前はコテルだから男性だと思っていたけど、女性なのか?

 いや、一人で行商するには若すぎる。まだ師匠の元で経験を積む年齢に見えるぞ。


「パパー。護衛の人が来たよ」


 ん? パパってことは娘!? 依頼内容に娘の護衛は含まれてなかった!


 仕事が始まる前からトラブルなんてツイてない。まだ正式に引き受けたわけじゃないし、断ったほうが良いかな?


「私はハンターのレーネ。あなたと同じ護衛」


 混乱している僕を気にすることなく、警戒しているような雰囲気をまといながら、レーネと名乗った女性が挨拶をした。


「僕はクリス。付与と魔術を使います」


 なるほど、そういうことか。コルネさんの娘がレーネで、彼女が護衛を引き受けたハンターなら依頼通りだ。家族が護衛をするの珍しいが、たまに見かける光景だ。これなら問題ないだろう。


「付与に魔術? そんな人間がハンターをしているの?」


 付与や魔術を使える人は、安全な場所から後方支援するタイプだと思われている。当然、ハンターのようにモンスターと直接戦う人間は少ない。もしそんなヤツがいるとしたら、それは訳ありの可能性が非常に高い。


 レーネが、さらに警戒心を露わにするのも無理はないか。


「兄さんもハンターでね。昔から兄弟でモンスターを狩っていたんです。つい最近も、ここら辺で暴れていた特殊個体のオーガーの討伐に参加しました。嘘だと思うならハンターの職員に確認して下さい」


 ハンターの戦闘履歴といった実績はギルドが管理している。もちろん全てとはいかないけど、主だった実績程度ならすぐに教えてもらえる。


 もちろんそれは依頼人だから可能であって、ハンター同士で実績を教えてもらうことはできない。


「へぇー。お兄さんと一緒にねぇ……」

「なんなら実力を試してみます?」

「…………ううん。後で職員に確認はとるけど、今はクリスさんのことを信じる」

「うん。それがいいと思う。逆の立場だったら同じことをしていますしね」


 職員に確認を取るといっても僕が動揺しなかったことで、完全に信用してくれたみたいだ。

 鋭い目つきが少しだけ柔らかくなった。


「こんなショボい依頼を引き受けるなんて、どんなハンターかと思ったけど……まともそうな人で良かった。パパに紹介するから中に入って」


 自分からショボいって言っちゃうのか。仲良くなると、意外にフランクになるタイプなのかもしれない。


 そんな無駄なことを考えながら、ドアを抑えているレーネを通り抜けて待ち受け室に入った。


 部屋にはテーブルと椅子が四脚あり、一番奥にヒゲを生やした中年の男性が座っている。体格はよく、ハンターだと紹介されても違和感はない。


「ハンターのクリスです。護衛を引き受けました」


 出だしが肝心だ。彼が依頼人だと判断した僕は、相手が立ち上がると同時に挨拶をした。


「私は行商人のコテル。さっきの話はここまで聞こえたよ。よく依頼を引き受けてくれた。ありがとう」


 そういうとコテルさんが右手を差し出したので、手を取り握手をする。

 すると腕を上下に振られてしまった。


「筋肉も付いているし、体幹もしっかりしてそうだ。流石、実戦派だね」

「試したんですか?」

「商人が物や人を観察して評価するのは、癖みたいなものだ。悪く思わないでくれ」


 そう言われてしまえば、反論する気は起きない。そもそも相手は依頼人なのだ。僕が試される側なのは当たり前だろう。


「気にしていません」

「ならよかった!」


 口を大きく開き、豪快に笑う。屈託のない表情は、悪巧みできない善人だと勘違いしてしまいそうだった。


 なるほど。商人という職業は、コテルさんにとって天職なのかもしれない。


「さて、自己紹介も終わったことだし、そろそろ出発しようか! 時間は金貨より貴重だからね!」

「パパー。その口癖、直したほうがいいんじゃない? 落ち着きのない人に思われるよ」

「思われたって構わない! なんせ事実だからね!」


 仲の良い親子だ。この依頼、金銭的にはハズレだけど、それ以外は当たりの部類に入るかもしれない。


「私の準備は終わっています。手続きを終わらせましょう」


 そう言って僕らは受付部屋を出てギルドの受付に向かい、依頼の手続きを終わらせる。


 これで正式に引き受けたことになる。コテルさんを無事に送り届けたら、依頼料はギルドからもらえる。


「よし、出発だ! クリスくん。よろしくね」

「はい。任せてください」


 裏に止めていた荷馬車にコテルさんとレーネが乗り込むと、首都カイルを出てヘルセへと旅立った。

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