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付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~  作者: わんた
アミーユお嬢様の家庭教師

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家庭教師になる

 僕は今、リア公爵夫人の前に座っている。なぜかって? 家庭教師の話を受けたからに決まっている。兄さんの話を信じれば、依頼を断ったほうが危険だ。そう考えたからだった。


「そんなに怖がらなくても大丈夫よ?」


 金と白で装飾されたイスに優雅に座るリア公爵夫人が笑っている。きっと、僕が縮こまっているからだろう。でも僕にも理由がある。こんな美人の前にいるのが初めてなんだ! どうしても緊張してしまうんだよ!


「私は、無理難題を言うつもりはありません。娘に教えるのがイヤになったら、家庭教師を辞めても構いません。ですから、そんなに緊張なさらないで」


 別の理由で緊張していると勘違いしているみたいだ。立ち上がって、こちらに近づいてくる。


「あっ……」


 リア公爵夫人の手が、僕のほほに添えられた。あまりの驚きに小さな声を上げてしまった。なんとなく、顔が赤くなっているような気もする。


 それにしても美人だ。子供がいるとは思えないほどだよ。ほんと、旦那さんが羨ましい! ちがった、妬ましい!


「これから娘を呼ぶから、少し待っててね」


 リア公爵夫人が立ち上がり、そばにいたメイドに声をかけてから数分後。ノック音がしたかと思うと、一人の少女が入ってきた。


「お母さま。家庭教師の件でおはなしがあるとか……あら? もしかして、この方が?」


 青い髪は長く、大きい緑色の瞳。幼さが残る顔立ちをしているが、僕に笑いかけてくれた表情は、大人の女性のようにも見えた。


 僕は慌てて立ち上がると、目の前の少女に頭を下げる。


「名誉なことに家庭教師に選ばれた、クリスです」

「ご丁寧にありがとうございます。私はアミーユです」

「それでは、これからアミーユお嬢様と呼ばせていただきます」


 僕の呼び方が気に入ったのが、満足そうにうなずいている。


「お母さまが選ばれたのであれば、さぞ優秀なのでしょう。これからが楽しみです!」


 嫌味ではなく、純粋に楽しそうな声をしていた。兄さんが調べてくれた通りの性格をしてそうだ。


「顔を上げてください。私、クリスさんの事が知りたいの。教えてもらえないかしら?」

「アミーユ。それなら椅子に座りなさい」

「はーい」

「それとお茶を1つ追加して」


 リア公爵夫人の指示でアミーユお嬢様とメイドが動く。さすがの貫禄ってところかな?


「この子はね、魔術全般に興味があるの。だから、戦場にも出て、付与魔術も出来る人を探していたんだけど、なかなか見つからなかったのよね」

「付与魔術師は、魔術師より上の人間だと思っている人が多いですし、そのせいで戦場に出るのは、野蛮だと考えているようですから」

「ホントこまったものねぇ……」


 平民の僕に声をかけた理由が分かった。確かに戦うための魔術と付与魔術。この両方を学ぶのであれば、立場が上の人間ほど数は少ないのは間違いない。


 それにしても珍しい考え方だ。貴族で、しかも地位が最高峰の公爵夫人の娘。それが、戦う技術を求めているとは……。


「お母さま! 私にも話をさせてください!」


 アミーユお嬢様が、ほほを可愛らしくふくらませていた。こんな態度をするなんて、実際の見た目より歳が低いのかな? と思ってしまう。


「アミーユは、まだまだ子供ね。いいわよ。好きなだけ聞きなさい」

「お母様。ありがとうございます!」


 手を合わせて、飛び跳ねるんじゃないかと思うほど喜んでいる。そんなに僕の話が聞きたいのか? いや、僕というよりかは、魔術師全般に興味があるのだろう。


「クリスさん! この前のオーガー退治に参加されたと聞いたのですが、その、怖くなかったんですか?」


 やっぱり僕じゃなくて魔術師として聞いてきた。そりゃそうだよね。僕はアミーユお嬢様の家庭教師なんだから。


「そうですね。怖くないと言えばうそになりますが、それほどの恐怖は感じませんでした」

「勇敢なんですね!」

「アミーユお嬢様。それは違います」

「そうなんですか?」

「はい。恐怖をあまり感じなかったのは、私が勇敢だからではありません。私の前に立って、オーガーから身を守ってくれる前衛がいたからです。私一人だったら、戦場に出ることはなかったでしょう」

「信頼できる前衛がいるから、怖くなかった。そう、おっしゃるのでしょうか?」

「はい」


 兄さんが居なければ、絶対に戦わない。そう断言できる。


「魔術師が戦場に出るには、信頼できる前衛が必要不可欠です。もし、魔物と戦いたいと思っているのでしたら、技術を磨くのと同時に、信頼できる前衛を見つける必要があります」

「そうなんですね! クリス先生の初めての教え、このアミーユの心の中にしっかりと刻み込みました!」


 何が嬉しいのか僕には理解できないけど、不機嫌よりかは良い。それに、見た目通りと言っていいのか、素直でいい子だ。この感じなら、上手くやっていけそうな気がする。


「もっと、他のお話も聞かせてください!」


 リア公爵夫人が何も言わないということは、話せってことかな。きっとアミーユお嬢様は、泥臭い話より、英雄譚をご所望なのだと思うけど……それは兄さんの領分で僕じゃないんだよなぁ。


「魔術師は地味なお仕事が多いので、話を聞いたらがっかりするかもしれません。それでもよろしいですか?」

「はい! 私は、いろんな話がお聞きしたいのです!」


 そこまで言われたら断れないか。


「それでは、1年前にゴブリンの群れを壊滅させたお話をします。とはいっても、正面から戦ったわけではありません。罠を使ってまとめて倒した話になりますが」


 用意された紅茶を一口含んでから、あの地味で大変だった戦いについて話し出した。


◆◆◆


「アミーユ。そろそろ時間よ。戻りなさい」


 ゴブリンの話が終わり、ダンジョンのゴーレムとの戦いを話したところで、時間切れになったようだ。アミーユお嬢様が楽しそうに聞いてくれるから、僕も楽しい時間を過ごすことができた。これは、彼女の人徳なのだろう。


「もうそんな時間なんですね!」


 ぴょんとイスから飛び降りると、僕の方をみてスカートをつまんで挨拶をしてくれる。


「お話しとても参考になりました。明日からクリス先生に教えてもらえることを、心よりお待ちしております」

「私も楽しみにしています」


 身にまとう雰囲気が変わったことに驚き、僕は一言返すだけで精一杯だった。これが貴族モードなのだろうか?


 アミーユお嬢様がメイドを伴って退出すると、リア公爵夫人と2人きりになる。


「うちの娘は、どうだったかしら?」

「魔術の才能があり、強い興味を持っていると感じました。そして、知識欲も旺盛です。魔術を学ぶに適した性格だと思います」


 お世辞でもなんでもなく、これば僕の素直な感想だ。付け加えるのであれば、美少女と話せるのも嬉しい。


「それはよかったわ。それじゃ、明日のお昼過ぎにこちらに来てください。よろしくお願いしますね」


 面談も問題なかったということだろうか? ただ話していただけなのに? まぁ、僕が考えても仕方がないことか。


 僕は立ち上がると一礼をして、部屋を出る。アミーユお嬢様と話して、彼女の知識と技術は大体わかった。まずは、明日、教える内容を考えよう


 新しい出会いに新しい環境。なぜだか、身体からやる気が満ち溢れている。


 僕の止まった時間が、動き出したような気がした。


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