くちなしの花
甘い匂いのする夜です。
賑やかな蛙の声が聞こえてきます。
ゲッゲッゲッ、カカカカカッ、グェーグェー。
何をしているのでしょうか?
「ダンスに誘っているのね。ああ、今日はいい月夜。」
そうですね、ゆかこさん。さっきからお月様がこちらを見ているようです。
「あら、夜なのに誰かやって来るわ。」
神社の長い石段を、二人の影が登ってきます。
ぼそぼそと微かな話し声も聞こえてきます。
柏葉紫陽花の長細い真っ白い花が、月の光に照らされて二人の道案内をしています。
「僕は宅急便の仕事は、喜びを運ぶ仕事だと思ってるんだ。だから・・・辞めたくない。」
「そう思ってるのなら・・・続けるべきね。」
どうやら、男の人と女の人のようです。
「・・・でも、君と離れるのは嫌だ。」
「だって・・・。」
「ぼっ、僕と結婚してくれないかっ?!」
静かな夜の境内に、濃厚なくちなしの花の香りが満ちてきました。
・・・どうするんでしょう、ゆかこさん。
「しぃーっ、黙って聞いてましょう。」
「・・・あぁっ、言ってくれないかと思ってた。私、私っ、とっても幸せっ。」
「じゃあ、・・・。」
「ええ。私、貴方と結婚しますっ。結婚したい・・・ありがとう。」
「あーー、良かった! これからもよろしくなっ。」
良かったですね、ゆかこさん。
「うんうん。夜は洗練されてるわ。」
いったいどういう意味なんでしょう。
「さぁっ、優雅な夜はこれからよ。皆でダンスを踊りましょう。」
ゲッゲッゲッ、カカカカカッ、グェーグェー。
静かにしていた蛙たちも、また一斉に鳴きだしました。
境内の二つの影は、優しい月の光に包まれてそっと一つになりました。
今日は、花言葉でした。