師走
寒くなりました。
最近のゆかこさんは亀のようです。
軽いフリースの上着の上に薄手のダウンベストをつけて、その上に綿入れ半纏を羽織っています。
「おお、寒い。なかなかコタツから出られないわね。」
そうですね、ゆかこさん。一旦入ると誰をも捉えて離さない。それがコタツというものです。
ゆかこさんは、ボリボリと煎餅を食べ終わると、熱いほうじ茶をフーフー吹きながらズズッとすすって飲みました。
「ああ、美味しい。冬はコタツで煎餅ね。」
コタツで食べるのはミカンじゃないんですか?
「あら、それもこれから食べるのよ。」
そんなに食べるばかりしてると雪だるまみたいになっちゃいますよ。
「いいのいいの。後で外を走るから。」
今日は町のマラソン大会です。町の中心にある役所前広場には大勢の人たちが集まっていました。
「思ったより盛況のようね。」
そうですね、スタート地点にはもう選手が並んでいます。
「それじゃあ、私も行ってくるわ。」
ゆかこさんは大勢の選手と一緒に、号砲を合図に飛び出しました。
北風に応援を受けたゆかこさんはぐんぐんスピードを上げて前を走っている選手を追い抜いていきます。
「行けぇーーーー!」
「頑張れっ!!」
沿道では町の人たちが声を枯らして応援しています。子ども達も旗を振りながら過ぎ行くランナーに声を掛けます。
ゆかこさんはトップを走っている選手に追いつくと、一気にググッと抜き去って行きました。
「うふふ、このまま12月を迎えに行ってくるわね。」
町中の人たちの声援のエネルギーが大きな塊になってゆかこさんを包み込みます。
青く晴れ渡った空に向かってゆかこさんはぐんぐん登って行きました。
宇宙まで飛んで行ってクリスマスの星を捕まえたゆかこさんは、西の空がオレンジに染まる頃やっと神社に帰って来ました。
「やれやれ、遠出をしちゃったわ。」
星はどこにあるんですか? ゆかこさん。
「樅の木のてっぺんに引っかけといたの。」
そうですか。でも良かったですね、今年も師走がやって来ました。
「後一か月で今年もお終いか。」
大掃除も始まりますね。初詣の準備にも取り掛からないと。
「それはまた追々ね。」
ゆかこさんはそう言って、またごそごそとコタツに潜り込んでいきました。
冴え渡った空の上では星のイヤリングをつけたお月様が、しょうがないわねと笑っていましたよ。
炬燵は良いですね。




