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児島成得の後悔  作者: さき太
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終章

 成得(なるとく)は横たわる一寿(かずひさ)を呆然と眺めていた。自分が殺した。自分が殺さなければ他の誰かが殺していた。他の誰かに自分の敬愛する養父が殺されるなんて耐えられなかった。だからといって本当は殺したくなんてなかった。殺したくなんてなかったのに・・・。

 一寿と過ごした沢山の思い出が、彼から教わった沢山のことが頭の中を巡って、成得は何も解らなくなった。一緒に逃げようと言ったら逃げてくれただろうか?ふとそんなことを考えて、そんなことを言っても逃げてはくれなかっただろうなと思った。

 「お前の目指そうとしている道は容易じゃない。綺麗事だけじゃどうにもできない。強く生きろよ、成得。もし途中で背負いきれずに耐えきれなくなったら、その時は自分を殺してくれる誰かを見つけることだ。」

 そう言った一寿の姿が脳裏に鮮明に思い出されて、成得は声にならない声で叫んだ。ただ苦しかった。ただ辛かった。何かに押しつぶされそうな感覚に支配されて、ただ叫んていだ。辛いのに、苦しいのに、酷く悲しいはずなのに、涙は一滴も出なかった。

 そしてただ呆然とその場を後にし、進んだその先に(かえで)裕次郎(ゆうじろう)が立っていた。二人の姿を見た瞬間、成得は二人を強く抱きしめていた。

 「お前達だけはずっと俺の傍にいてくれ。いや、傍にいてくれなくていい。俺が間違えたときはお前達が俺を殺してくれ。」

 泣きそうな声でそう言いながら、成得は二人を抱きしめていた。ただ二人を強く抱きしめていた。暫くそのままでいて、そして、成得は二人から離れて二人の頭を撫でた。

 「二人とも、今言ったことは忘れてくれ。」

 そう言って成得は笑った。人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべていた。


 目が覚めて、成得は頭を抑えた。

 「俺、本当にバカだな。」

 そう呟いて、布団に顔を埋める。俺はなんつうもんを二人に背負わせちまったんだろうな。ずっと自分の傍にいてくれた、何があっても自分から離れずにいてくれた二人の部下の姿を思い出して、成得は胸が締め付けられた。

 暫くそのまま布団に顔を埋めていて、気を取り直して成得は顔を上げた。

 身支度をして出勤する。情報司令部隊の詰所で二人の姿を見つけて、成得は小さく笑った。

 「楓、裕次郎、ちょっと俺の執務室まで来い。」

 そう言って成得は背を向けた。自分について二人が執務室に入って扉を閉めたのを確認して、成得は二人を纏めて強く抱きしめた。

 「隊長?」

 戸惑った裕次郎の声が聞こえて成得は二人から離れて彼の頭を撫でた。

 「ずっと無理させて悪かったな。」

 そう言われ言葉を詰まらす裕次郎の代わりに、楓が、無理なんてしてませんよとしれっと言った。

 「無理はしていません。ただ少々あなたを見ているのが辛かっただけです。」

 そう言われて成得は楓の頭も撫でる。

 「二人とも本当に悪かった。それでもずっと俺の傍にいてくれてありがとう。」

 そう言って笑う成得を見て、二人も微笑んだ。

 「おかえりなさい。」

 「まったく、あなたという人は本当に世話が焼けます。」

  それぞれにそう言う二人をまた抱きしめて成得は満面の笑みを浮かべた。

 「今までよく頑張ってくれたな。お前等は俺の自慢の子供達だ。」

 そう言われて嬉しそうにしている裕次郎の横で楓は、勝手に人のことをあなたの子供にしないでくださいと言い放った。

 「裕次郎は知りませんが、わたしがあなたと出会ったのは成人した後なのに子供扱いされるのは心外です。あなたが父親だとか本当に気持ち悪い。いったい今までこちらがどれだけ迷惑をかけられたと思っているんですか。あなたの援護をするのにわたし達は本当に苦労したんですよ。子供にこんなに負担をかける父親なんて存在しなくて構いません。死ねばいいのに。」

 いつも通りを崩さずそう言う楓に成得は、楓ちゃん酷いと言ってうなだれるふりをしてみる。

 「本当に二人ともありがとう。二人ともさ、これからも俺のこと支えて、今度は一緒に頑張ってくれる?」

 そう言うと二人が各々当たり前だという趣旨の答えを返してきて、成得は笑って二人の頭を撫でた。


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