-tryal and error-
俺は今日も走る。動きに無駄はないか?まだ工夫は出来ないか?試行錯誤する。
俺は、この試行錯誤-tryal and eler-という言葉が大好きだ。好きすぎて、中学校の時に至るところにtryal and elerと書いていた。当時は多分、英語書ける俺かっけぇ・・・とかの気の方が多かったろうけど。
なぜ好きなのかと言われると、これといった理由はない。ただ、小学校6年生の時に足のおそさで馬鹿にされ(当時50m走8.6秒)、見返してやる!と考えて行動して、失敗して、また考えて・・・の繰り返しをかなり行ったからか、中学1年生で6.9秒にまでした。俺がしてきたそれを、ピッタリとした形で言葉に表しているから、なにか親近感が湧いているのかもしれない。あの時は本当に辛かったなぁ。それからなんとなく運動ができるようになった。
あの時の経験を活かす。すね毛の空気抵抗もなくす。出来るだけ地面に並行の状態で走る。1歩を大きく、早く回転させる。つま先で着地、斜め前ではなく、前に踏み切る。速く。速く・・・
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その頃の戦闘兵達は――
「だいぶ良くなってきたよ!だけど腰使いがまだだめ!もっと捻って!」
「ダメダメ!踏み込みが甘いよ!」
「そうそう!あぁー!そこは右下から切り込まなきゃ!最小限の力で最大限のダメージを。これ忘れちゃダメだよ!」
先生ゴブリン大活躍。とても大変そうだ。そして、生徒ゴブリンの動きは、明らかに変化が出てきている。無駄が削ぎ落とされ、もともと速かったのが2.3倍も速くなっている。
まだ2ヵ月も経ってないんだぞ?覚えが速すぎる。
それは別の場所でもそうだった。
建築にて――
「そそ、そこの木はこう削ると挟みやすいよ」
「こうすればいいの?」
「よく出来てるね、もうアドバイスができないや。」
少人数だから、戦闘組よりも先に全てを伝授し終えたみたいだ。
農作業にて――
「この野菜は確か水気を少なくしなきゃダメなんだよね、肥料はコレが合う。」
「うんうん!」
「あれ、少し育ちが悪いな。ということは、土にリンがたりないから、この肥料加えなきゃ。」
「そうそう!」
医療にて――
「いててて!」
戦闘練習中に怪我をしたゴブリンが多く来ていた。それらを、医療ゴブリンたち全員でテキパキと治療していく。
「捻ってるね、冷やそうか。あまり動かさないで安静にしてて!」
「ねぇね、この場合何の薬使うべき?」
「深くえぐれちゃってるね、まずは水で汚れを落としてから、テェストフィアを塗ろう。その上からガーゼがいいかも!」
医療の道はまだ厳しいらしい。奥が深いからな、臨機応変さを求められるのもあるから、2ヵ月程度で習得できるものではないのだろう。
鍛冶にて――
「いいぞ、その調子でたたけ!」
「このくらいでいいかな?」
「もう少しタングステンを増やそうか。外装は固くなければ刃こぼれしやすいからな!」
「竈の熱あげて!」
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なかなかの距離を走り、よく走れたなと体力が上がったことを実感する。洞窟までここから近いが、少し休もう。とても疲れた。
「はぁー。喉乾いたなぁー。・・・え?」
木ってあんなボコボコしてる物なのか?
まるで足に出来る、蜂刺されほどの膨らみが2つほど、木の幹にある。
目が悪いためあまりはっきりと分からないのが残念だ。俺はあまり物音を立てず近づいた。
「(・・・これ擬態したイモムシじゃね?)」
俺の知ってる種ではないのは確かだ。というか、これ程でかいのは地球には存在しないはず。ただ、形、目の感じ、たまに移動する時の移動の仕方の感じ。完全にイモムシだ。
「おい。なにしてんだ?」
言葉が通じるのかどうかは知らないが、おどかす程度の気分で声をかける。当然のようにビクッと反応して、落ちてきた。
「はぁ!?お前だれだよ!なんでこんなとこいんだよ!」
「お前喋れるんか!気持ちわりぃな!」
まさか喋れるとは。なんでもありだな!
「クソッ、女王の鱗粉で擬態出来ていたはずなのに何故だ!?」
女王・・・?
「お前ら、目線的に洞窟の方を見ていたな。」
「!?・・・見てねーし。」
「うん。見てたな、お前ら来い。」
「やめろぉー!!」「はなせ!!」
直接触るのは勘弁。てことで、落ちていた葉っぱを介してつかんだ。しかしホントでかいな、人の顔ぐらいの大きさあるぞ。
洞窟に着くと、ゴブリンたちは俺の手に持っているイモムシを見て驚く。
「ん?どしたお前ら、こいつ知ってんの?」
「知ってるも何も!そいつ、俺らに戦争しかけてきたキャタピラーだよ!」
「しかけたとはなんだ!お前らが元々こそドロしたのが悪いんだろ!」
正論すぎて何も言えなかった。俺も、ゴブリンも。ゴンさん(前の族長。こそドロ犯)、あんたなかなかのバカだぜ。
俺はイモムシを木のかごに入れる。建築ゴブリンお手製の物だ。練習として作ったらしい。
「で?何してたんだ?」
「言うわけねーだろ!」「そーだ!あほ!」
「ほーう?お前ら今の状況わかってて俺にそんな口聞いてるわけ??え??」
きっと俺の今の顔は笑みを浮かべてるが、目は笑ってないだろう。
「こ、殺されるの?」「仕方が無い。ここまでだ。」
「お前らがちゃんと話せば殺さない。」
というか、殺せないんだよなぁ。殺してしまえば間違いなく戦争が起こる。人数もまだ増えてないし、戦力も整ってない中、戦争なんて起きたらおしまいだ。シャレにならない。だがもちろん、そんなことをこの虫たちには伝えない。
「話さないなら、ゆっくりと燃やしていく。」
「コイツ悪魔だっ!」「イッてるぞ頭!」
「ッるせぇボケ!早く話さんとまじ焦がすぞ!」
「うぅ・・・女王様、お許しを・・・」「お、俺達は、偵察隊だ。」
「ほぅ?キャタピラー王国のか?」
「そうだ。以前遠征中の仲間がゴブリンを見たと聞き、戦争で取り逃がした100匹程度のゴブリンではないか?とのことでここに来た。」
「なるほどなぁ。ていうかめっちゃ喋るな!w」
「うぐっ!?ホントだ、喋りすぎた。」
「まぁ喋らなきゃ殺すから。うん。それで、いつ帰る予定だったんだ?」
「予定はない。なにか重要な情報が掴めしだい戻るつもりだった。今日で3日目だ。」
ふむふむ。なるほどな。大体のことは分かった。あとはこいつらの後始末、まぁ逃せばいいかな。声音や態度からして嘘ついてなかったし。しかもあれが本当なら、女王への裏切りにもなる。もう、国に帰ることはこいつら自身がしないだろう。
「おら、帰れ帰れっ」
「え?」「帰ってええん?」
「なに、捕まってたかった?Mなの?」
「どちらかといえば・・って何言わすんだ変態!」「コイツヤベェぞ!」
「お前らが勝手に言ったんだろがアホ・・・」
乱暴にそのイモムシを外に放り投げる。そいつらはゆっくり地面を這いながら、森に消えていった。