大きな一歩
俺はリリィの家に戻る。
「リリィ、君たちを苦しめる元凶の命を途切れさせた。もう、8割なんて馬鹿げた税を払わなくていいよ。」
「ほ、本当!?」
「うん、いや、その、本当なんだけど、えーっと、何してるの?」
「あら、ごめんなさい!ゴブリンさんたちって面白い子達なのね!」
膝の上に5.6体のゴブリン、背中に3体がリリィに抱きついて遊んでいた。正直羨ましいと思った。ていうか、手伝わせるために置いたのになにあそんでるんだよ。
「うらやまし・・・」
「えっ?」
「あっいやなんでもない。」
「そ、そう。それよりも、本当に助けてくれたの?」
「あぁ。君たちはもう自由だ。」
そう言うと、リリィは笑顔で泣き出した。それはとても美しかった。キラキラした目。金色のさらさらの髪。桜色の唇。ほのかに赤みがかった頬。全てが完璧に見えた。
「ありがとう。本当にありがとう。私たちを、この村を救ってくれて。」
「何を言ってる。俺はちゃんとこの村の技術と交換条件で救ったまでだ。俺への感謝なんていらないよ、言うならこのゴブリンたちにだね。」
本当によく活躍してくれた。助けられた。
「あら、頑張ったの?偉いわね」
ニコニコしながら頭を撫でられるゴブリン。俺初めてゴブリンになりたいって思った。
「俺も撫でられたいな・・・」
「ほぇ?」
「あっいやなんでもないよ。」
まずい。撫でられたさすぎて無意識に口に出してしまうとか。
「そ、そーだリリィ!まだ君のお父さんを救えてない。牢屋はどこにあるんだ?一応鍵はあるんだが。」
ザイルのポケットに入っていた。
「たしか地下に作ったって門番兵の方が言ってたのを聞いたわ」
「分かった、じゃあまた向かうよ。」
「待って!私も行く。父と早く会いたいもの。お母さんに伝えてくるから待っていてね!」
どうやら母親は精神的ダメージが大きく寝込んでしまったらしい。早く治ることを祈るばかりだ。
そしてリリィとまたザイル宅へついた。そこにはたくさんの盗賊の部下らしきものがいた。やけに部下が少ないと思っていたら、山の本拠地に戻っていたようだ。たくさんの荷物がある。
「ザイル様がいない!なぜこんなに血が落ちている!」「ザイル様の身に何が・・・!?」「探せ!ザイル様を探すんだ!」
まずい。このままだと確実に殺される。どうしたものか。
「まぁ、いなくてもいいか。」「・・・だな。」「正直あんなのに付いていくのはもうゴメンだ。」「やっと解放されるのか。」「辛かったな。」
は?どうした?ザイルの悪口?
「誰だ!」
まずい、見つかったっ!
「そこで何をしている!」
クッ・・・
「俺はゴブリン族族長をしている者だ。すまないが、君たちの頭領を殺した。」
俺は覚悟を決めた。
「責任を取れというのならこの身をもって償う。ただ、後ろのゴブリンと娘は無事にしておいてくれ。」
まぁ、殺されちまうよなぁ。短かったが、楽しい人生だった。
「お前が・・・ザイル様を・・・」
「よく・・・」
「「「よくやってくれたなっっっ!!!」」」
「え?」
「いやぁーマジ感謝だわ!ほんっと!」
「でも本当にお前が!?よく倒せたな!」
「俺たちこき使われてイライラしてたんだよ!」
「でもザイル様,..いやっ、ザイルの野郎強くて勝てなかったんだ!」
「そ、そーなんだ、あは」
感謝された。普通激高するけどな。ていうか、安心したら腰の力抜けて倒れそうだ。
「いやーこの村の奴らにもひどいことしたしなぁ。」
「本当、悪いことしたよなぁー」
「俺らはもう帰ろうぜ。」「だな。」
少し話すと、彼らはひどいことをしていた自覚があり、悪いとさえ思っていたらしい。なんて善良な盗賊だろうか。また、これまで奪った作物をあるだけすべて返却し、すぐにこの村を去るとも言ってくれた。一件落着だ。
俺たちは牢屋に行き、捕まえられている人たちをすべて解放した。その中にはやはり、リリィの父親もいた。
「リリィ!!お前はリリィか!!」
「お父さん!やっと、やっと助けることができました!」
リリィと父親は抱き合って涙を流している。もう、リリィの目は真っ赤だ。透き通った涙は途切れることを知らず溢れ出ている。
「お父さん、こちらの方が、この村を救ってくれたのです!」
「この方が・・・?この村のものではないような気がするが・・・でも、助けてくれたのには変わりはない。本当にありがとう。助かったよ」
手を強く握ってきた。
「いやいやお父様、俺は条件付きで助けたのです。感謝されるようなことは何も。」
「条件?なんだい、言ってみなさい。私たちができることならば、なんでも致しますよ!」
「この村の技術を貰いに来ました。鍛冶屋での武器の製造法や、農作法、医療、なんでも構いません。」
「そんなことですか?そんなものいくらでも奪っていきなさい!」
「本当ですか?ありがとうございます!」
みんなで村に戻り、一軒一軒の家に一連の事を伝えて歩く。誰も皆涙を流さないものはいなかった。今夜は祭りとなるらしい。今日はここで泊まっていこうかな。
夜大きな火が立ち上り、村人はみんな笑顔で踊っていた。感謝の踊りらしい。皆俺の座る方を向いて踊っている。なんだか恥ずかしい。
「楽しんでくれていますか?」
「おっ!と、ビックリした、リリィか。」
「この村に1000年も伝わる感謝の踊りです。わたしも完璧に踊れるんですよ?」
そう言って、俺の前に立ち踊ってくれた。髪がなびく度に、いい香りが漂う。笑顔で、俺だけのために踊ってくれている。とても嬉しかった。
一連を踊り終えたのか、また俺の隣に来て、優しくキスをしてくれた。
「・・・!?」
「本当にありがとう。明日にはこの村を出るのでしょう?いつでも遊びに来てねっ」
顔を赤らめて、少し恥じらいながらお父さんたちの方に走っていった。
背後のゴブリンが妬いている。
「リリィちゃん俺にもちゅーしてくれないかな。」「お前にするわけないだろ!俺にするんだよ!」「なーにをー!俺だ俺!」「こんのぉ!」
コイツら酔ってるな。あんま飲むなって言ったのに・・・。
ただ、こんなに落ち着くのは久しぶりだ。今日ぐらい、気を抜いてもいいだろう・・・
翌日。
「盗賊の方が、税として取った作物を返してくれたんだが、かなりの量があって私らだけでは処理できず、大部分を捨ててしまうことになる。だから、持っていってくださいな」
そう言うと、リリィの父親、この村の頭領は俺にかなりの量の食料を与えてくれた。とても大型ゴブリンだけでは運びきれない量だ。
「本当にこんなにもらっていいんですか?それに、ゴブリンに様々な技術を教えてくれるなんて。」
「いいのだよ!もしあなた達ゴブリン族が来てくれてなかったらこの村は滅んでいた。今こうして生活出来ているなどの全ての幸せは、君がいなければ感じれなかった幸せ。あげれるものなら惜しむことなくあげる!それが唯一出来ることなのだから!」
鍛冶屋、医療、農作業、建築業だけでなく、剣術に関しても教授してもらえるらしい。この国は剣術で有名らしく、ザイルが使っていたスピード重視の動きはこの村のものだったようだ。それにスピード重視なら、うちのゴブリンたちにとっては最適な戦法だろう。
それぞれ1体のゴブリンをここに置き、3.4ヵ月かけて周りに教えれるレベルになってから洞窟に帰るよう指示した。残りのゴブリンは洞窟に戻って、色々しなければならない。ゴブリンは馬鹿だが、物覚えは早い。才能があるのにそれを伸ばそうとしないから、よくザコキャラ扱いされるのだろう。
「ありがとうございます。それではそろそろ旅立ちます。ゴブリンたちをよろしくお願いします。」
「はいよっ!」
5体のゴブリンを置いて、俺たちは食料を持って帰った。
これで、当分食に困ることは無いな。