善は急げ。
革袋。
洞窟の中に置いてあったものだ。聞くところによると、裏の森に現れる猪の皮を使っているらしい。耐久性もあるし、伸縮性もあって使い勝手がいい。
「ところで、皮剥いだ後の肉はどうしたんだ?」
「放置だよ」
うん・・・よく生きてこられたな。昔から食料を取りに行く係が決まっていて、食料の当てはそいつらしかなかったから何が食べれて何が食べれないのかもわからないという。
そんな雑談をしながら、洞窟の中で夜明けを待っていた。今日はよく動いたから疲れたはずなのに、なぜだか眠たくない。むしろまだ動きたい気分だ。きっとあまりにも悲惨な状況だから、早く何とかしたいと体が欲しているのだろう。ついさっきまで高校生だったのに、今ではすっかり族長気分だなんて、自分もなかなかの変わり者だ。
さて。今後の動きをどうするかなぁ。水は少しの貯蓄ができた。だが依然として食料は少ないし、水がそこをつくのも遅くはない。雨を活用したいが、まだいいアイデアも思い浮かばないし。ただ、食料はイノシシを狩ればいい、肉が食える。それで、大きく食は改善される。より細かいゴブリンの仕分けが必要だな。とりあえず今日はもう寝るか。一安心すると急に眠気が襲ってきた。俺は眠りにつく。
「よしっ、今日も張り切っていこーうっ!」
「族長近所迷惑。」
「族長朝からうるせぇ」
「バカだな。」
「おい誰だいまバカって言ったやつ、でてこい。鼻折るぞ!・・・ごほんっ、いいか、これからお前たちに役目を与える。まずは小型ゴブリン5体は、この水で水やりを。いいか?全体にまんべんなくかけるんだぞ?それだけだ。次に50体の小型ゴブリンで、森で狩りをしてもらう。大型ゴブリン3体は、倒したイノシシをできるだけ担いで運んでくれ。そして残りの40体の内30人ほどには、木を切ってもらう。1本の大きな木を切ってここまで運べ、重かったら放置していていい、みんなで運びに行くから。残りの10体程度のゴブリンは、ハーブを探してきてもらう。俺はこのハーブ刈りに同行する。どうせ何がハーブかもわからないだろうし。わかったな!今日は大変かもしれないが、頑張ればおれがご馳走作ってやる!」
『おー!!』
「飯のこととなると頑張るな・・・まぁいいや、とりあえず、かかれ!」
そう言って、俺は具体的な配属を言い渡し、ハーブ刈りに出かける。なんでハーブがいるのかって?ハーブの消臭効果を利用するためだ。おそらくイノシシの肉は臭くて食べられたもんじゃない。確実にあった方がいいだろう。木は、薪にするのもあるが、それ以外にありあまるくらいの用途がある。ないよりかはあった方がいいからな。イノシシ狩りも心配はないだろう、ゴブリンは戦闘能力に長けている。指示さえすれば、腰に携えた石の剣で倒せるはずだ。指示として、集団戦法にさせた。勝率はかなり高くなる。そして水やりも、俺があらかじめ最適な量の水をとって渡したから、普通にやれば大丈夫だ。まぁ普通にやれるのかどうか不安ではあるが。
それから5時間くらいだっただろうか。ハーブを見つけるのにかなり時間をくったが、なかなかの量が取れた。洞窟に戻ると、イノシシ隊と伐採隊はもういた。水やり隊ももちろん帰っていた。大きく目を引いたのが、大型ゴブリン1人1人が、7体ほどのイノシシを抱えていることだ。
「大漁じゃないか!すごいな!」
「最近は捕まえてなかったから、めっちゃいたよ!」
確かに、ハーブ刈りしている時もよく遭遇した。あいにく俺らは数が少ないため狩ろうとは思わなかったが。しかし、これで肉の貯蔵が多くできた。食が豊かになるな。木は、イノシシ隊が手伝って運んでくれたらしい。大木が5.6本倒れていた。仲間思いないい奴らだな、そんなことを思った。
「よし、想像以上の働きをしてくれたからな、ご馳走しなければ!」
まずは臭い消し。ゴブリンの石の剣を借りて、イノシシの首を切り落とし、血抜きをする。その間に薪に火をつけ、鍋を熱す。充分熱された後で、イノシシの肉を細切れにして鍋で焼く。硬いな。我慢するか。匂い消しとして、ハーブをしぼって出たエキスを鍋に入れる。いい匂いだ。味付けとして塩も加えて、簡素だが、イノシシの焼肉ができた。とても美味しそうだ。
それと、昨日作った雑草スープの貯蔵も加えて、いいお昼ご飯ができた。ゴブリン達は、焼肉の美味しさに涙を流しながら感動していたが、雑草スープを飲んだ瞬間苦虫をかみ潰したような顔に戻る。そんな不味かったか。
まぁ、これで幾分かは栄養が取れるだろう。タダでさえ筋肉質なゴブリン、栄養素を整えれば、火力だけで言うとなかなかにいいものになるかもしれない。戦闘能力的な面で。
「おっと、それで、芋の水やりはできたのか?」
「うん、ちゃんとしたよー!水かけたら、なんか芽が出たよ?」
「・・・え?」
いや、それはおかしいだろ。でもゴブリンは嘘をつくような高度なおつむを持っていない。本当に芽が出たのだろう。だとしたら、成長速度異常じゃないか・・・?土壌どんなけいいんだよ。詳しいことは知らないが、きっとpH数も完璧だったんだろう。気候も春で温暖だし、条件がよかったのかもな。にしても初日で発芽は異常だが・・・。いや待てよ?そういえばゴンさん、時間軸が違うと言っていたな、まさかこれに関係が・・・?
それで、午後はどうしようか。することがないことはないが、具体的な行動が思いつかない。あ、そうだ。
「なぁ、この近くに人間の住む街はないのか?」
「ないこともないけど」
「あるのか!それはいいことを聞いた。」
となれば、幾分か技術も発達しているはずだ。村の規模にもよるが、それほど軍事力がなかったら、少し技術を奪うことも出来るだろう。
「その村はでかいか?」
「でかいかな?」「普通じゃない?」「そんな大きくないよね」「今なんか大変らしいし。」
「なるほど。運がいいな。」
決めた、そこで色々調達しよう。ただ、手荒なことはしたくない。俺だって人間だ。方法を考えるのを午後にしよう。実行は明日だ。善は急げ、早速作戦会議だっ!
先程も言ったが、手荒なこと、つまり殺人はしたくない。ゴブリン曰く軍事力なんてなさそうだと言っていた、戦争とはならないことを願う。万が一のため戦闘準備をしていくが。
最も効率的で非暴力的な和解をするには、その村の頭領に話をつけるのが早い。ゴブリンの戦闘能力は人間を軽く凌駕する。飛び道具を使わない限り倒せないし、銃は高級品だから持ってるのは貴族ぐらいだと言う。勝機あり。
話がうまく行けば、そこの村の人には食料と水をどうにかしてもらおう。パンとかの製造も教えてもらったり、鍛冶屋で武器の作り方も学ばせようか。その他のゴブリンには戦闘に精を出してもらうことにする。
まぁ、上手く行けばの話なんだがなぁ。もし話が進まなければ本格的に雨の活用方法や様々なことを考えなければならない。
ゴブリンたちにこの計画を伝え、明日やることも伝える。こいつらは自分で考えることは出来ないが、やはり従順というか、言えば理解する。きっと大丈夫だろう。
翌日。俺はひとり早く起きて、料理をする。昨日と同じくイノシシの焼肉だが。
その匂いにつられたか、ゴブリンたちも起き上がる。朝食を食べて英気を養い、すぐに出発の準備をする。
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その頃の村では。
「おい!早く税を払わんか!」
「そんなこと言われましても、収穫の8割を払うなんてどうかしています!そんなに渡してしまっては生きていけません!」
「ええいっ!文句を言うのか!!」
男は剣を抜く。
「ひぃぃ!!わ、わかりましたよ、もう・・・」
女性は泣きながら、米俵を渡す。
「よろしい。また1週間後取り立てに来るからな。」
「い、1週間後・・・!?無理です、死んでいまいます!」
「頭領の命令だ。それが聞けないならこの村から出すしかないな。」
「そんな・・・なんでいきなり来た者が頭領なんかになって、私たちがこんなひどい目に合わなければ・・・」
女性は大きく泣き崩れ、その女性の娘、リリィは泣く母親の背中をさすり、慰めていた。




