プロローグ
_______広島市内_______
放課後、駅に入ってすぐにエレベーターへ行く。そこから少し歩いて4番ホーム、時刻は5時を少しすぎた頃。駅のホームはいつものように騒がしく、人の列も多くある。俺はその最後尾に並び、携帯をいじって時間潰しをしていた。
3.4分経っただろうか、ゲームに熱中していると、電車が来た。電車内の人は降車する。かなりの人数が降りたが、またかなりの人数も乗車するので均衡が保てている。
広島駅から出て40分後ほどに俺の住む街の駅につく。そこはなかなかの田舎で、降りる人は少ない。今日だって、降りたのは高校生らしき人が3.4人と、小柄な、フードを深くかぶった人だけだ。
・・・ん?・・・あのフードの人・・・鼻の色緑に見えたぞ・・・まぁ、気のせいか。
元々目が悪いのもあって、よく見間違いはする。肌の色を疑うのは流石に初めてだが、人で鼻が緑はありえないだろう。鼻だけ洗わず放置でもしていたら、コケが生えて緑になったってんならありえるけど。
俺は階段を登って改札を通り、今度はゴンドラみたいな乗り物にのる。このへんじゃ珍しいらしく、よく動画を撮る人も見かけるが、毎日乗り降りしていると流石に飽きる。小学校から今の高校生までに約10年間も使っているからな。
ゴンドラの改札を通り、車両に乗り込む。人が少ないから、左手前の端っこの席に座ることが出来た。ここは俺の特等席だ。
今日も疲れた。まだ月曜日か。なんて思いながら、目を瞑っていると、誰かが乗り込んできた。ふと気になって目を開けると、先程見かけた、フードを深くかぶった人だった。鼻は緑じゃないか確認したかったが、フードを手で抑えて、まるで隠すかのようにしていたので見ることはできなかった。にしても、小さいなぁ、小学生だろうか。
そしてゴンドラは発車する。2駅に止まるだけの短い運転だ。ちなみに俺は最奥の駅でおりる。それはフードを深くかぶった人も同じのようだ。
ゴンドラのドアが開き、俺は降りる。だが、フードの人は降りない。なぜだ?ここ終点だぞ?もしかして乗るの初めてなのか?仕方が無い。
「あのー、ここ終点なんで、降りないと。」
そう声をかけると、体をビクッと動かして、走っておりてきた。俺の前まで来ると、ペコリと頭を下げるだけで、また走って行った。
変な子だな。なんて思いながら俺は家に向かう。
俺の家は山の中にあって、時々動物が近づいてくるため、たくさんの罠が置いてある。でもそれは明らかに人間なら罠だと気づく、大型のものだから人間の被害は未だに1件もない。駅から10分ほどかけて家につき、自室へ向かってゲームをはじめる。
翌日。俺は朝6時に家を出る。山道を下って駅に向かおうとすると、罠に何かが引っかかっているのが見えた。興味を持ち、近づいてみる。そこには・・・
「き、昨日の子!?何してるの!?大丈夫!?」
フードの子がいた。服に変化が見られない。まさか昨日ひっかかったのか・・・!?
「今すぐ外すから!待ってて!」
フードの子の足に深く突き刺さった罠を外し、ひどい出血だから、すぐに救急車を呼ぼうとする。すると、フードの子は俺の携帯を持つ手を止め、首を振った。
その反動からか、フードがめくれた。現れたのは。
「え・・・?」
高くとんがった鼻に、シワだらけの顔。なんといっても、肌が緑色だった。どこからどう見ても、ファンタジー世界に登場する、ゴブリンだったんだ。
「助けてくれてありがとうございます・・・姿を見られてしまってはどうしようもありません。私の命ももうすぐ尽きてしまうのには変わりはないし・・・」
「な、何言ってるんだよ!大丈夫、確かにひどい傷だけど、死ぬことはないって!」
「傷自体はそうかもしれませんが、年を考えると・・・おっと、自己紹介が遅れましたね。信じてくれるかわかりませんが、私はゴブリン族族長のゴンと言います。見ての通り老いぼれで、今年で108になります。」
「108!?ゴブリンって意外と長生きなのか・・・」
「いえ、人間とそれほど変わりませんよ、ただ私が長生きだっただけです。・・・グハッ・・・」
ゴブリンのゴンは吐血する。
「大丈夫!?喋らなくていいから!とりあえず病院に行こうよっ!」
「いえ、ダメなのです。我々ゴブリンは人間界では未知な生物。見つかってはならない存在なのです。
く・・・時間がないな・・・すまない少年。君に頼み事がある。」
「なになに!?きくよ!」
「ゴブリン族を救ってはくれないか?」
「へ?」
「私はゴブリン族の族長。私が死ねば、新たな族長が必要となる。ただ、ここに来る前にゴブリン達と話をつけるのを忘れていたのだ。」
「いやいやいやいや!ごめん、俺もこっちの生活あるし!ていうかもう学校遅れそうだし!」
「心配はしなくていい。我々ゴブリンの住む世界は、地球と時間軸が大きく異なるのでな。地球でいう1秒は、私の世界では10年なのだよ。」
「そうなの!?すごいズレだな・・・でも、大丈夫なのかな、いきなり人間が族長なんて。」
「確かに動揺はするだろう。が、しかし。あやつらはとても忠実だ。族長となれば、種族を問わず従ってくれるだろう。」
「そ、そっかぁ。族長は本当にいいの?すごい血だよ?」
「先もいったが、どうせ年なのだ。それに、向こうの世界に飛ばすのはもう1人分しかできんしな。君を送れば最後、私は土にかえるとするよ。」
「う、うん。とっても不安だし、正直やりたくないよ、族長なんて。でも、ゴンさんの気持ち考えたら、俺よりもゴンさんのほうがつらいもんなぁ。うう・・・」
「ほれ、これをもっていきなさい。」
そう言って、首飾りを渡してきた。
「これは?」
「族長の証だ。これをもっていれば、ゴブリンは族長だとみなしてくれる。」
「わ、わかった。」
「準備はいいか?今すぐ飛ばさねば、命の方が先に尽きてしまいそうだ。」
「はぁ・・・やれるだけやってみるよ。」
「ありがとう。少年よ。」
すると、ゴンさんは俺に手をかざす。その手からは眩しいばかりの光が飛ぶ。寝起きの俺にとってそれはうっとうしいにもほどがあったが、自然と意識が薄れ、眠ったような感覚になった。
どれくらい経っただろう。鳥のさえずりが目覚ましとなり、目を開ける。
そこは、見慣れた広島の街ではなかった。