表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

Et Tunc Curat~大自然の加護~

引っ越しの準備も完了し、レジスタンスの本部への移動を開始した。いくら少数民族とはいえ一種族の大移動だ。いつ横腹を突かれるか分からないという警戒が故に出発前からかなりピリピリしていた。


出発直前に異世界人4名にイグナシオとルーから装備を渡された。ヒトラーは風の加護が入った弓と灰色の外套、カミーユは土の加護が入った籠手と黒いローブ、私は水の加護が入った槍と紫のライトアーマー、最後に春さんは力の加護が入った長十手と赤いスニーカーのような靴だ。身に纏うものは全て光の加護があるということだ。全て魔力を使えるようにならなければまともに使いこなせないが、非常にシンプルな自然物を利用しているため色々試行錯誤すれば「超」が付くほど強力な装備になるだろう。

ロカ族の皆とルーがアイディアを出して作ったらしい。本当にありがたい限りだ。もちろんロカ族が武器と防具を作り、ルーが装備を加工した。


維持できる限りの最高速度での行軍。森の中はロカ族の聖地故か軍以外と戦わなかったが、この平原には魔獣などもいて帝国軍だけでなくそちらも警戒しなければならない。そう考えている矢先に普通に考えたら有り得ないサイズの猪が現れた。「お、丁度いいところに現れたね。君たち、さっき渡された装備を早速使ってみよう!魔猪は修行にうってつけなんだよねー。戦ってよし、食ってよしの一石二鳥さ!」

確かに普通の猪がちょっとデカすぎるくらいならまだ納得もいった。しかし、魔猪と言えば英雄を返り討ちにするレベルの強さだ。それを戦闘は愚か狩りの素人にいきなりやらせるとは、やはりうちの師匠は頭のネジが数本外れている。とは言っても放っておいてもこちらに突撃されたらそれはそれで大問題。戦う以外の選択肢は初めから存在しなかった。

「腹を括り給え、東洋の友とフランスの雌豚!あんなでかい化け物見たことも無い。恐怖を感じるのは当然だ。もちろん私も怖い。ただでさえ老けて小便が近くなったのにそれを更に加速させたような尿意を今感じてる最中だ。だが、この先に待っているであろう試練に比べればあんなものは子ブタようなものよ!やるぞ、同志諸君!これは英雄への道の第一歩だ!!!」そう叫びながらヒトラーは矢を番え、飛ばした。勢いのいい飛び方をしていたが方向は明後日に向かっていた。

「あと3本で上手く合わせる。それまで3人で上手くやってくれ!」恐らく槍を装備した私を主力として戦わねばならないのだろう。今回も槍で本当に良かった。

後から幸の薄そうな女の「拳で戦えなどと…主よ、これも試練なのですかッ!?」という叫びは多分聞こえなかった。


私と春さんで最初に左右一緒に速攻を仕掛けた。そこでヒトラーの矢が1本飛んだ。近づいたその一瞬、更に猪を大きく感じたがもう下がれない。歯を食いしばって全力で突っ込んだ。春さんはその十手で左目を抉り、私は脇腹を狙った。されど、その巨壁は動かず。幸い目を穿つことには成功したが、春さんは相当吹き飛ばされた。幸い、当たりどころが良かったためすぐに起き上がれた。私の槍は分厚い毛皮に弾き返され、そのまま尻もちをついた。そこを2本目の矢が通る。まっすぐ皆の方向に向かう魔猪。ヒトラーにはその突進が、否、見える物全てがスローモーションになっていた。ヒトラーは心の中でこう呟いていた。「これからの相棒よ、風の加護入ってるんだろ?頼む、私はまだ死ねない。皆もそうだ。だから、この一矢、奴の頭に届けてくれ!」

放たれた矢は吸い込まれるように魔猪の眉間を貫き巨体はそのまま沈んだ。皆が叫んだ。空気が揺れるのを感じるほどに。私も珍しく声を荒らげていた。そうだ、こんな歓喜を、私は求めいたのだ。生前できなかったこと、あの鬱憤を、私はここで晴らそう。そう誓った瞬間だった。

「喜んでいるところ悪いけど、最後の悪足掻きがきそうだよ。」ルーは淡々と告げた。顔が青ざめながら後ろを振り向くと、黒いローブがまさに電光石火の如く魔猪に向かい、その拳を頭蓋に叩きつけた。

これがのちのロカ族に伝わる「鉄拳聖女伝説」に繋がることはまた別の話。


「うぅ…恐かったですぅ…」と座りこんでしまったカミーユを春さんが頭を撫でているが、その目の前には彼女の拳のあとが魔猪の頭蓋にくっきりと残っている。春さんの笑顔も明らかに引き攣っている。私とヒトラーは開いた口が塞がらない。それを見るお師匠様は肩をプルプルと震わせ、腹を抑えていた。

「タクミ、カミーユちゃんのインパクトが強かったのは事実だったが、何故彼女があれだけの力が出たか分かるかい?

彼女はドルイドではないが神官だ。そのため常々神という存在を意識する。恐らく彼女はあのパンチに神への祈りを捧げたんだろう。その思いに籠手が答えたんだ。さっきも言った通り彼女の籠手には土の加護がある。大地の加護と言い換えてもいい。神様は大地、大地は土、よって加護をフル稼働させた。まあ、そんなところだ。ハルちゃんとアドルフもよく聞いておきなさい。今身につけているものを起動させるには加護を意識することから始めなさい。風、水、力、光。特にハルちゃんの力は概念が曖昧だ。君たちの装備が持つそれぞれの個性に具体的な形を与えてあげるようにすると本領を発揮する。まあアドルフはさっきできてたけどね。」


「力って何?」と後から春さんに聞かれたが恐らくは物理の力学のようなものだろう。生憎、私の専門は生物、化学のため専門家レベルのことを問われると答えられない。だが、単純に考えても物理法則に干渉できると考えればこの力は強烈だ。


魔猪を解体し、持ち運べるようにして行軍を再開した。

道中、何度か魔獣が攻めてきたが各々一人で倒せた。一番最初が最強とは酷い話だが、恐怖心はだいぶ緩和された。

森を出てから3時間、遠くからこちらに向かってくる騎兵が2騎見えた。ヒトラーは矢を番えすぐにでも迎撃できるようにした。しかし向こう側は帝国旗と白旗を掲げて向かってきた。どうやらこちらの世界も白旗は共通認識らしい。


我々は警戒しながらも会合の席を設けた。我らが女王陛下とヒトラー、イグナシオがこちら側から出た。

二人のうちの一人が女王陛下を見るなり叫ぶように訴えた。


「お願いします!我が主君、シドゥリス様をお助け下さい!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ