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Vita Detestabilis~太陽は我らを照らした~

「ね、言ったでしょ。今のお前程度ではおいらに勝つなんて1000年間影の国で修行を受けても無理だ。」不遜な態度ではあるが言うだけのことはやっている。

「よくも我が主君からの賜り物を折ってくれたな。余程死にたいと見えるな、この凡骨!皇帝陛下に仕える尖兵は剣だけしか取り柄ではないぞ!しかと受けよ!我が矢を!」紅衣の騎士、マテオは矢を番え、ルーの眉間を正確に狙った。しかしその矢は一瞬で消えた。そう、消えたのだ。

「矢ならおいらの光で塵も残さずに焼き尽くさせてもらったよ。もうお前の芸は見飽きた。これでもまだ撤退しないというのなら君だけでなく、君の部下も犬死にするよ。それでもまだやるかな?」マテオは悔しさに顔を酷く歪ませていたが、そのまま撤退の指示を出した。


何とか危機は去った。撤退する帝国軍は長蛇の列だったが先の我々の作戦とルーの謎の投擲でかなりの兵士が手負いになっていた。それを尻目にルーは我々の方に歩を進めた。

我々の目の前に立つと急に寝転がった。何をするのかと不安に思っていたら「ご飯ちょうだい」とねだってきた。一瞬呆気に取られていたがすぐに気を取り戻し、春さんが元気に「私が作ってきます!」と言い走り出した。そしてそのまま勢い良く玄関の天井部に頭をぶつけた。それを見たルーは何故か頭を抱えていた。


食事を作っている間に私とイグナシオでルーを部屋まで運んだ。テーブルに着くと恐る恐る目の前の春さんお手製の食事に手を出した。ルーは初めて見る洋風の朝食みたいな食べ物に困惑していたのだろうか。しかし、一口食べたらそのままもしゃもしゃと勢い良く食べ始めた。

「旨いっ!君料理上手だね!いやー、最初はデヒテラと雰囲気が似ていたから凄い心配だったんだよ。彼女は健気で美人だから本当にいい女だけど飯だけは酷くてね…おっと、なんか寒気がしたが気のせいか?」クランの猛犬の母はどうやら料理があまり得意ではないようだ。


命の恩人(恩神?)に礼を伝え、我々も食事を済ませた。そして私は彼に直接何故ここにいるのかを訪ねた。

「悪い酒でも飲んで酔っ払ったからかね、目覚めた時にはおいら草原に大の字で寝てたんだよ。で、ここどこかなあと思って森にいるドルイドに聞こうと思ったら君たちがなんかコソコソやってたんだよ。で、奥に武装した集団がいたからそのまま戦を眺めることにしたんだ。そしたらタクミのあの戦い方を見てね、面白いって興奮しちゃったわけよ!いやー、おいらの母親の方の爺ちゃんなんかもそうだし、息子はもちろん、息子の周りの奴らも皆皆揃って脳筋戦闘集団だったからさ、君みたいに理知的に無茶な戦いをするやつなんて初めて見たんだよ!それでそのまま暫く眺めていたら今度はあの大軍が来たんだよ。さて、どうするのかなーと思ったら今度はデヒテラ似のお嬢ちゃんが出てきたからついつい助けちゃったんだよねー。君が死ぬ分には別にちょっと楽しみが減るくらいだから気にしなかったけど彼女が死んだら夢の中でデヒテラに殺される気がしたから…」

そうか、そうか。私だけなら他の皆が死んでいたと。なるほど。春さんには相当感謝しなければ。

飯の話のあたりから思っていたがデヒテラ様ってそんなにおっかないのだろうか。


今度は私の事情と少しばかりの春さんについてのことを彼に話した。するといきなり話が止まった。「待て、死んだだと?あ、思い出した!おいら昨晩酒なんか飲んでない!あのバカ野郎の所のクソガキ3人に後からぶっ刺されたんだ!ということはおいら死んでる?いや、生きてる?意味がわからん!」詳しく聞くとなんでも自分の奥さんが彼の盟友(神の王としてルーの後任に選ばれたダグザ)の息子が不倫をし、それに自ら誅を下したらその不倫した阿呆の息子たち3人に逆恨みされて殺されたということだ。やはり神様の世界にはろくな奴がいないのだろうか。デヒテラ様は彼に愛想を尽かしたのかと聞くと、彼女とはそれよりずっと前に色々あって破局したと答えが返ってきた。その目には何か恐ろしい物でも見たような感情が窺えた。深くは追及しないでおこう。


今度はルーの方から聞いてきた。「タクミはこの後どうやって戦うつもりなんだい?おいらの加勢があったとはいえこの少人数で奇跡的にもあの一個師団を撃退した。でも、この人数で国を倒せると思うほど君も自惚れてはいないだろう。ここからどう動かすつもりだい?」そして私はヒトラーの考えている戦略構想の一端と私個人で学びたいことを教えた。今は仲間を集めていると伝えると満足気だった。

「そうか、君は魔術を学びたいのか。ならこのサウィルダーナハ(百芸に通ずる者)と呼ばれたおいらに任せたまえ!」と胸を張って言ってきた。彼の光神から教えてもらえるなんて嬉しい限りだがここは少し神経図太く行かせてもらおう。「できればあなたの投擲技術を教えて頂きたい。不躾なお願いであることは承知しております。ですが、叶うならばあの技を使えるようになりたいのです。」そう言うと神様は少し驚いていた。彼の投擲技術「ブリューナク」は今まで他の誰にも注目されたことが無いらしい。ただかなりの距離を飛ぶだけの力任せの技と誤解されているとのことだ。そんなわけあるか。ブリューナクの特異性はなんと言っても下投げなのだ。たまに野球のピッチャーの中でいるが、あのアンダースローのように投げるのだ。遠くに投げようと思ったら槍投げ同様、上から投げるはずだ。威力にしても普通に考えれば上投げだ。ブリューナクは私のいた時代のスポーツ科学を全てぶっ壊すようなセオリーで投げられているのだ。

ルーは快諾してくれた。「セタンタにはスカサハが、タクミにはおいらが!やってやるぞ我が弟子よ!今日からお師匠様と呼びなさい!」という訳で弟子入りが決まった。


鍛錬は翌朝から始まった。私と話した後、春さんにも声を掛けたらしく彼女も同席していた。

ブリューナクをやるには結局魔術を出来なければ不可能らしくまずはそれの練習になった。


「君たちの話を聞くとどうやらおいらの時代から1500年くらい経った頃にはカガクとやらが発展し魔法や魔術と呼ばれるものが一切合切消えてしまい、お伽噺の中だけになってしまっているんだよね?ではまず、ケルト式の魔術体型を教えよう。

君たちはドルイドという奴らを知っているかい?彼らは所謂神官というやつで時たま為政者として人々を導く。おいらは太陽と光、おいらがちょいと世話になったマナナン・マクリールは海と言ったようにあの頃のブリトン人とガリア人は自然を神聖視するんだ。割と身近なものだと四葉のクローバーかな。そういうものを介して神へ祈りを捧げる。そういう慣例からおいらたちの魔術は自然の力を行使して発動する。あー、この新世界ではどうなるか分からんけど、人間から見て自然は神様なわけだから使うっていう感覚でやるともしかしたら発現できない。ドルイドたちは神の力拝借するとかって言ってたよ。まあこれは参考までに。

ではここからブリューナクのために必要な魔術を考えよう。自然のエネルギーで物体を飛ばすにはどうしたらいいかな?」

ノリノリで教鞭を取っている…

それに対して春さんは「風ですかね?ほら、ビュービュー吹きまくって飛ばす的な…」そう答えた彼女に対し、師は間違いではないと返した。しかし、風だけでやろうと思ったらいくらこのサウィルダーナハ(万能の天才)でもゲッソリ干からびるくらいには疲れるとのことだ。人間には疲れる云々言う前にそのレベルの出力に至る前に死ぬとのことだ。「ではでは、ササキ君。君に答えてもらおう。」私は火と答えた。爆発力で吹き飛ばす感覚で放てば案外行けるのではないかと考えた。そう答える新弟子2人に対して、師は助言を与えた。「今2人が言ったものは四大元素と呼ばれるものだ。だけど四大元素って意外とコントロールが繊細で、距離にもよるけど狙ったところにパーフェクトで当てるのはおいらでも難しい。だからもっと踏み込んだものを考えるんだ。手を離しても勝手にそこへ向かって動いてくれるようなものって何か思いつかない?」

口を開いたのは春さんだった。「まさか磁力なんてことないですよね?」親指を立てた拳を彼女に突き出して満面の笑みをしていた。


原始、地球が始まった頃から磁力というものは存在していた。しかし、我々人類はただの一度でも地球の磁力を感じことなどあるだろうか。事実、磁石そのものは鉄を引き寄せる特徴から古代ギリシアの頃から存在を確認されているが、その指北性に関しては16世紀にようやく確認されたものだ。ここで初めて地球そのものに磁力が存在していることが分かった。だが、ルーはその頃からおよそ1500年以上前の存在。神様とはいえその発想で1個の伝説に残る技を完成させてしまうとは本当に恐ろしい限りだ。


「いいかい、愛弟子たちよ。おいらの教える魔術は君たちが自然物として、近くにあることを認識していればそれに魔力を通してあげるだけでいい。例えば水なら水に魔力を通せばね… おらよっと。」目の前にいきなり水が大きな球体になって現れた。空気中の水蒸気を使ったのだろうか。気のせいかもしれないが、師がこれをやった瞬間、かなり空気が乾いた。

いかに多くのものを自然物として認識できるか、そして、それを発動するための魔力量というのがどれだけあるかで魔術師としての善し悪しが決まるということだ。


というわけでまず魔力を感じるところから始めよう。そう言われて今やっているのが…

ラ ン ニ ン グ

優雅さの欠片もなかったのでした。師曰く「走ってりゃそのうち分かるよ!ただおいらが止まれと言うまで足止めちゃダメよ。」

本当にもういい加減走らされてる。朝方からずっと走り続けて今はもう日が沈みそう。昼飯抜きで一体いつまでやるんだろうか。春さんはもういつ止まってもおかしくない様子だった。私も途中3時間程度の記憶が無い。


遂に日も沈みきって闇が広がる。暗い天には月もなく星だけが広がっていた。暫くすると身体が段々と軽くなるのを感じた。そのせいかどんどんペースが元の調子に戻り、気づいた頃には春さんも私の横に戻っていた。

その時、漸く「止めっ」と声が入った。お師匠様の声だった。「それが魔力の恩恵だよ。魔力が高まるのは月2回。満月の日の正午と新月の日の真夜中だ。魔術の練習初日が新月とは僥倖と言わざるを得ないね。さて、腹減って飯にしたいと思うかもしれないがまずは水分補給をしよう。いくら魔力で多少の回復はあってもそれは2人の脳の勘違いみたいなものだからね!」師は人肌程度の温度のお湯に砂糖と塩を混ぜたものを私と春さんに渡した。

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