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無限の有限

 目の前の体から、力が抜けていったのが解かる。微かな呼吸音。


 腕に針を刺し、麻酔が効いたことを確かめる。


「――いいな?」


 確認の声に、無言で頷く。


 ユキナガは死ぬ。


 俺たちが殺す。


 これは、俺たちにしか出来ない事だから。


「用意を」


 そう言われ、二人の手に槍状の道具と、手の平に納まるサイズの球体を渡した。予備も含め、多めに。


 部屋の中央に、ユキナガを横たえる。家具は全て、端の方に退かしてある。


「ユキナガ……」


 目を伏せて、別れを告げる。


 その体を囲むように、三人で佇む。


「トキ、ハル」


 セイの声に、槍を掲げる。刃先を、下に向けて――。


『Peaceful(安らかな) sleep(眠りを)』


 脳に。


 心臓に。


 内臓に。


 ――振り下ろした。




「――だれ?」


 背後からの声に、驚愕し、振り返る。


「何をしているんですか? 貴方たちは――…」


 その、言葉が途切れた。


「おい、こいつ」


「ユキナガの子供だ!」


「サハラ…」


 予想外の事態だ。愚図ついている暇はない。とっさに、槍から手を離し、サハラを捕えようとする。


 だが、その瞬間。


「父さんっ!?」


 ユキナガに駆け寄ろうとするサハラを、羽交い絞めにする。


「父さん! 父さん! 何だよお前ら、父さんに何してるんだ!!」


「――っ、セイ、トキ!」


 ここで、余計な時間を費やすことは出来ない。不老不死を殺すには、素早い行為が必要なのだ。


 俺の意思を汲み取った二人は、こちらに背を向け、槍を握りなおした。



 槍の、スイッチが入る。


 軽い、音。


 火薬の、臭い。


 血の、臭い。



「――ぁああああああああああああああ!!」


 サハラの絶叫が響く。


 信じられない程の力で暴れ、押さえ付けるのがやっとだ。



 ユキナガの頭に。


 胸に。


 下腹部に。


 ぽっかりと、赤黒い空洞が口をあける。


 セイとトキは、その空洞に素早く球体を投げ入れた。


 破裂。


 破裂。


 更に拡がる空洞に、繰り返し、繰り返し、破裂を起こす。



 充満する、火薬の臭い。


 鼻に衝く、血の臭い。


 溢れ、拡がる、赤い血溜まり。


 繰り返される、破裂音。


 飛び散る赤。


 飛び散る、破片。


 人の、破片。


 原型を失っていく、人間。


 真っ赤な、部屋。



 響く、絶叫――。



「やめろおおおおおおおおおおおお!!」



 殺人者は、表情もなく、唯、その行為を繰り返す。


 返り血を浴び。


 肉片を浴び。


 全身を血色に染め上げて。


 唯、繰り返す。


 再生する暇を与えないように。


 不老不死を殺す為に――。




 暴れるサハラに、麻酔薬を打ち込んだ。


 これ以上、妨げられる訳にはいかない。


 動きを弱めた体を部屋の隅にやり、防火剤を降りかけ、断熱シートを被せる。その上から、もう一度防火剤をかけておいた。


 サハラは、守らなければならない。




 ユキナガの体は…、カタチを失っていた。


 散らばる肉片。


 それが、今のユキナガ。



 部屋中に可燃誘発剤を散布する。


 ユキナガの欠片に。


 ユキナガの赤に。


 ユキナガの命に。




 そして、火を放つ――。




 部屋中に拡がった炎が、ユキナガを燃やしていく。


 チラチラと舐めるように、床を、壁を、天井を、浄火する、


 俺たちの体にも、炎は絡み付き、ユキナガの欠片を消していく。


 人の焼かれる臭いが、充満する。


 死の、臭い――。



「ユキナガ」


 炎の中に佇み、天を見上げる。


 死後の世界なんて、信じている訳じゃない。でも、もし、在るのだとしたら、きっと俺たちは、ユキナガと同じ所には行けないから。


 だから、最後に。



『さようなら』



 三人で黙祷を捧げた。




 弟のような、君に向けて――。


























 目が覚めると、そこは病院だった。



 警察の人間が、色んな事を聞いてきた。



 僕は、答えなかった。


 答えられなかった。


 何も、考えられなかった。


 何も、理解出来なかった。



 僕は、真っ白な部屋で、真っ白なベッドに横たわり、一言だけ、口にした。



「――わからない…」



 唯一つ、解かっていたのは。



 僕は、父さんを失ってしまったというコト――…。




 ボクハ、独リニナッタ。











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