シーン0
いつもの通学路を、僕は歩いていく。
今日は月曜日。
土日休みの間は、僕は家族の用事で遊びに行けなかった。
友達に会えなくて残念だったから、今日は目一杯話すんだ。
そして、土日明けの教室のドアをくぐった僕の耳に、隣の席の佐藤と、斜め後ろの新井田が話している声が入ってきた。
「そこは亀を助けないと進めないぜ」
「えー、いやだって、自力でサメを倒せれば、お金使わずに済むじゃん」
「いやいや、ドラゴン宮城で稼げばあれぐらいあっという間だって」
それは、僕もやっているゲームの話だった。
わくわくした。
つい先週まで、そんな話はしていなかったから、もしかしたらこの休日の間に買ったのかも。
僕はもっと先の攻略まで進んでいる。きっと攻略のヒントを与えてやることができるだろう。
「ねえ」
僕は話しかけた。
佐藤と新井田はこっちを向く。
そして――
「え、誰?」
ニヤニヤと笑う佐藤を見て、世界がひっくり返ったような気がした。
「知ってるか? 新井田」
「知らない。話しかけんなよ。きもい」
今ならわかる。
ただのいじめだ。
ただの悪ふざけにも似た。
彼らは何の罪悪感も感じていなかったのだろう。
新しいゲームを買ったみたいに、新しい面白いものを見つけたってだけ。
僕は叫ぶ。
「坂井! 坂井祐樹だってば!」
ニヤニヤと笑う彼らはそれでも「知らないなぁ」なんてかぶりを被っていて。
だから僕は決めたのだ。
「そっちが僕を知らないんだったら、僕もお前らなんか知らないよ!」
僕が人のことを覚えるのをやめたのは、この時からだ。
その小学校を卒業して、中学校では誰にも話しかけず、誰にも話しかけられずに過ごした。
たぶん、僕は壊れたんだろう。
高校生活に入ってからは、覚えようと思っても覚えられない。
まあ、不便はないんだけどさ。
だってお前らも、俺のことなんて知らないんだろう?