シーン3
教室に居場所がない僕の逃げ場所。
数年前に飛び降り自殺があったとかで、普段は施錠されているが実はちょっとしたコツで扉は開く。
ちょっと上に持ち上げて思い切り押す。それだけで簡単に鍵は外れて、僕は朴の逃げ場所である屋上へと出た。
学校の中には人がいない場所というのが大変少ない。これは僕みたいな孤独好きにとっては由々しき事態で、特にうちの高校みたいな都内の狭い敷地面積に無理やり多くの生徒を押し込めているような学校だと、一人になれる場所はトイレの個室くらいだった。
さすがに休み時間ごとにトイレにこもりたくない。
しかし、ダメ元で屋上の扉を開けようとして案外あっさり開いたことから、その悩みは完全に解消された。
なんせ屋上だ。屋上で授業をやるような教師はいないし、学校側が閉鎖していると言っているのだからお弁当を持って屋上でランチなんてことをやる生徒もいない。
つまりこのグラウンド、とまではいかないまでもその半分くらいあるこの空間が、丸ごとたった一人、僕だけの場所ということになるのだ。
嬉しさのあまり、人に自慢したくもなるが、誰かに知られてしまえば僕一人の場所じゃなくなってしまうし、なにより自慢する相手もいない。
結果としてはそれでよかったと思う。
僕に対してのクラスメイト達の感情が、以前までの無関心から西城美紀の死によって敵対に変わってしまったこの状況で、この場所まで取られてしまったらと考えると、それだけで嫌になる。
「さてと……」
一息ついて、僕は屋上にある掃除ロッカーを開ける。
閉鎖される前はこの屋上も毎日掃除されていたのだろう。しかし屋上を使い始めてからここを掃除している人を見たことがない。
人が来ない場所を掃除する意味もないんだろう。
そんな使われなくなってしまった掃除ロッカーに、僕は釣竿を隠してある。
僕の趣味だ。
別に屋上に釣り堀があるというわけではない。あるのは小さなため池のような場所で、すっかり濁ってしまって底どころか水の中がほとんど見えないのだけど、それでも魚はいないだろうなとなんとなくわかる。
そんな小さな水たまりとも呼べる場所に、僕は竿を垂らすのだ。
沈むはずのない浮きをじいっと見つめて、何も考えずに過ごす。
これが、一番心の休まるとき。
そしていつものように、思考が真っ黒に染まってきたころ、ふと後ろから声をかけられた。
「ねえねえ」




