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第一章【悪魔と少年】

この作品の内容は短めを予定しています。

楽しめて頂ければ幸いです。

《悪魔》



僕は壺に住む悪魔だ。僕は俗に言う、壺を擦ったら現れる、魔人みたいな物だと思ってくれればいい。その魔人なら、きっと壺を擦った主人の願いを、三つまで叶えたり、するだろう。


ただ、僕は魔人と違って、僕の壺には願い事の回数制限がない。その変わり願った者から、その願いに見合う『対価』を貰う。願いが小さければ、紙切れ一枚で済む事もあるけど、その願いが、大きかったら魂を貰う事もある。


なんせ僕は魔人じゃなくて、悪魔だからね。



 キュッキュッキュッ。

 


 おや? 呼ばれたみたいだ。


じゃあ、また願いを叶えないと。今回はどんな主人なのかな? 強欲な人かな? 頭のいい人かな? 聖職者とかも面白そうだなーー。


 まあ。何にせよ。楽しみだ。さあ、今回はいつぐらいに魂取れるかな♪


 人間は、必ず最後に、魂を対価に何かを願う。


なぜなら、人間とは、欲望を生み、欲望を愛し、欲望を満たすために存在している〝者〟なのだから。



■□■



 ぼんっ!



「よっこいしょっと。さて、お仕事お仕事と。ん? ここは?」


 壺から出て見ると、外は地獄の様な光景が広がっていた。実際には地獄では無いが、この光景は、地獄にある冷静な殺意に近い物を感じた。死体がそこら中に転がり、血は海の様に辺り一面にしたたり、建物は燃え続け、銃を持った者達が瀕死ながらも生きている者達の頭を打ち抜いている。状況から見るに、ここは戦場だったのだろう。


「あららら。また面倒なとこに出てきちゃったな~。……ん?」


 下を見下ろすと、体中血まみれでボロボロ少年が、歯を食いしばって、僕の方を見ている。


「はぁ、はぁ」


 大分息も上がっているようだ。だが目にはまだ生気が残っていた。そして手には僕の壺を、握りしめていた。


「僕を呼び出したのは君かな?」


 そう首を傾げて聞くと、少年は弱弱しくも頷いた。


「どうやら君は、その壺がどういう物か知ってて、僕を呼んだんだね?」


 そう聞くと少年は、また頷いた。僕はあくまで平静を装っていたが内心驚いていた。


(なんだか新しいパターンだね。まあ、これはこれで楽しそうだけど)


 そう思いながら、僕は気を取り直して少年に聞く。


「じゃあ、話は早い。そしたら、君の願いを聞こうかな?」


 少年は一言こう答えた。


「……生き……たい!」


 その願いを聞き、僕はこの少年が哀れに思えた。今、少年は死ぬ苦しみを恐れている。


 つまり彼はまだ知らないのだ。生きるという苦しみを。


 それを聞き、ため息をつこうとしたが、少年の目を見てやめる。少年の目に、恐れがなかったからだ。つくづく哀れだと思った。このまま数日だけ生きさせたのちに魂を抜いて終わらせるのは実に簡単だが、それではつまらない。だから僕は、もっと楽しめる様にする事に決めた。


「いいよ。分かった。その願い叶えよう。でもここじゃ、趣にかけるねぇ~。仕方ないサービスで場所を変えてあげるよ」


 そう言った後に、僕は指をパチンと鳴らす。

 しばらくすると、場所が変わり、草が生い茂る草原になる。


「さて、これでいいね。よし! じゃあ、君の願いを叶えよう」


 再び指をパチンと、鳴らす。その音が響きわたると少年の傷が、みるみる内に消えてなくなる。少年は完全に傷が治ると立ち上がり、僕の前に立つ。


「対価がいるんですよね?」


 少年は五体満足なのにも関わらずまだ弱弱しい声で聞いてくる。


 全くさっきの気概はどこへ行ったのかと思うほど弱弱しかったが、僕は興味が無いので気にしない。


「いるね~」


 ただ僕はふざけて返し、空中に浮き漂う。しかしその軽い雰囲気をぶち壊すセリフを、少年は言い放つ。


「覚悟は出来てます。僕から取れる物なら、好きなものを対価にして下さい」


「え?」


「た、魂は困りますけど、僕が渡せるものなら、なんでもどうぞ」


「君、本気で言ってるの?」


「は、はい」


「例えば、対価が君の右腕だったら?」


「仕方ないです。それで、生きられるなら、どうぞ」


「……参った。降参だよ。こんな事言う人間は初めてだ」


「え? 何が」


「まあ。いいから聞いてよ。僕ってのはさ。対価を望む悪魔なんだけど、相手がある程度必要で、その願いの対価に見合った物を貰うんだけど」


「はい」


「普通、人っていうのはね。対価を頂戴って言ったら、大体、無くても困らない物を差し出すんだよね。でも、僕は意地悪だから、その人が無くなって困るものを、いつも対価に貰っているんだ」


「え、そうなんですか?」


「そうなんだよ。でも君は、僕に、魂以外なら何を取ってもいいと言った。つまり君は、生きれるなら何も、無くていいことになる」


「ええ。まあ。決心はついてましたから」


「でもね。君が生きれる程度の願いじゃあ。腕一本は対価としては多すぎるんだ。でも、それじゃ、君の覚悟と対価が釣り合わないし、僕の主義に反するんだ。だから君から貰う対価は特別なものを貰う事ににするよ」


「え?」


 僕はそう言って少年の胸に手を当て、その手を沈みこませる。そして、何かを掴み、一気に引き出す。すると僕の手に、黒い球が現れる。


 少年は自分の体を障りまくるが変化は無い。


「それは何ですか?」


 少年は僕が持っている黒い球を見て聞いてくる。


「ん? 何って~、君の対価だよ?」


「だから、何を取ったんですか?」


「ん~? それはね。君の『死』だよ」


「詩?」


「いや。そっちの詩じゃなくて、死ぬ、『死』だよ」


「だから、どういう意味ですか?」


「ん~~? 簡単に言うと君は死なない人間になったんだよ。つまり君は『不死人間』ってところかな」


 さて、君は生きる苦しみを知った時、どういう願いをするのか、楽しみだ。


 少年は自分の取られた対価をしり、驚きとまどっていた。


だがこの少年は近い未来に、悪魔にとんでもない願いをすることは、まだ誰も知らなかった。

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