第2話 「ご飯は大盛りね」
リュミエール:エルトリア国の魔法使いで、異能者たちの集団クローバーのシュバリエ。
金髪蒼穹の眼の少女。
意地っ張り。
乃木坂 祐一(祐):不幸な少年。
リュミエールに罵られたり、銃で脅されたりする薄幸な少年。
主夫扱い。
アイオロス:天空と風を統治する霊獣『白銀なる瞬撃』を持つ、犬
意識を取り戻した祐は、アイオロスの背の上に居た。正確には、宙に浮かぶアイオロス背の上。祐は、見慣れやた情景に自分が帰ってきたことを知る。
街は、繁華街のネオンや広告の明かりが、迫り来る闇を知らせ、紅蓮の空は、藍色から漆黒に代わりつつある青に押され、遥か彼方まで後退を余儀無くされていた。
まだ意識がハッキリしていない祐一は、ぼーっと腕時計を見る。現在、午後5時前。白夢に包まれたのが、4時過ぎくらいであったから殆んど時間が立っていない。
「――あ。やっと目を覚ました。まったく、あんなので気絶するなんて、下等人種は本当に根性が無いわ。おかげで要らぬ心配をしちゃったじゃない」
アイオロスの背中で、ぶっ倒れていた祐を覗き込んできたリュミエールの顔が、目に入った。
「ご、ごめん・・・」
リュミエールは、だらだらとまだハッキリしない意識で起きだした祐を見て、「貧弱者」と付け加え、ふんっとそっぽを向く。
『心配』という言葉がリュミエールのさっきの言葉に入ってたところを見ると、そんなに凶暴って訳じゃなくて、けっこういいヤツかも知れない。そう、祐は感じた。
「まぁいいわ。それより、祐」
「何?」
「主人との受け応えには、『はい』でしょう」
「はい、ご主人様」
ムッとした祐が、皮肉を混ぜて言い換えて答える。
「いい子ね。このまま空に居るのは、祐もツライでしょうから、あなたの家まで案内しなさい。あと、しばらく厄介になるわ」
「はい!?」
「聞こえてないの? しばらく祐の家に泊まると言ってるのよ。サッサと案内しないと、撃つからね」
リュミエールがポケットに手を突っ込んだのを見た祐は、慌てて自宅がある小高い丘を指差した。
「はーっ。何か疲れた」
やっとの事で帰り着いた祐は、ぐったりとソファーに倒れこむ。今日一日、現実からぶっとんだ事ばっかりの連続で、心身ともにボロボロであった。
朝、電車でお婆さんに席を譲ったらとリュミエールに言った事が発端となって、銃で脅され、下僕にされて、しかも名前まで無理やり変えられて・・・。
なんか、人生で味わう不幸をフルコースで体験した気分だなぁ・・・。そう、漏らす祐は、軽く眠りに落ちた。
「祐、お茶を入れなさい。客人に、お茶一つも出せないなんて礼儀知らずな下僕ね」
夢の中に居た祐は、その言葉でたたき起こされる。
しばらく、興味津々に家のあちこちを散策していたリュミエールが、目の前に仁王立ちしている。
リュミエールは、ソファーで眠っていた祐を見て、自分を差置いて眠るなんて!下僕失格よ!と、ムッとし、イライラが溜まっていく。
「も、もうちょっと待っててくれないかな」
「だめよ。今すぐに」
「何処かの誰かに、銃で脅されたせいで疲れたから、お茶いれる体力がありませんー」
―ドスッ。
「ふぎゃ」
リュミエールの溜まったイライラが、その一言で溢れ出した。
その矛先は、もちろん祐に行く。
「命を救ってあげて、下僕にしてあげたのにその主人に盾突くなんて生意気よ!教育してあげないといけないわね!
そして、リュミエールは、のん気にソファーでグッタリしてる祐を蹴った。
それは、弧を描き、まるで初めから其処に到達するかのように綺麗に、祐のみぞおちへ吸い込まれていく。会心の一撃である。
祐は、キレたリュミエールの一撃を、みぞおちに喰らいう。
ぐぉぉっと叫び、その痛さにソファーから転げ落ち、床の絨毯の上でピクピクと悶えていた。
「いいこと! お前は、あの時に私と下僕となる契りを交わしたはずでしょ。主人の言うことが聞けないなんてダメでしょ!!」
床に転がった祐の頬に、小さい片足を乗せ、リュミエールはコレでもかと言わんばかりに、グリグリと踏みつける。
そして、コートのポケットから銃を取り出し、祐の顔に向け構える。
「お茶を早く出して頂けないかしら。下僕の祐さん?」
感情を感じられない笑みと、逆巻く腰まで伸びた金髪のリュミエールに、ダークなオーラが迸るのが祐には見えた。
「は、はい!ち、超特急で入れてきます」
ヤバッ。
死ぬ。
祐は、その漆黒のオーラに、本気の殺気を感じ、態度を変えざるをえなかった。
「よろしい」
そのオーラが消え、リュミエールは屈託の無い、無垢な笑顔を祐に向けた。
そして、祐がお茶を入れている間、ソファーのど真ん中にその小さな体を沈めると、その上で膝を抱える。
リモコンどこかな?あった!
リュミエールはTVのリモコンを、蒼い瞳をキョロキョロ動かし、目的の物をソファーの右端TVのリモコン入れで見つけ、その電源スイッチを押す。
ポチポチと、その細い指でチャンネルを回し始める。
その様子は、さもこの家の主人であるかの態度であった。
「何見てるの?」
「ジャパネット山田よ」
緑茶を湯呑に入れ、運んできた祐に「超特急にしては遅いわね」とリュミエールは苦言を言う。
リュミエールが見ている番組は、全国ネットの生放送の通販番組で、その会社の社長直々に商品を売り込むという、通常の通販番組には、「わーすごい」「安いー」「絶対買うわー」など、明らかに誰かから指示されたように反応するオバサンたちの観客を撤廃し、全力投球で売り込むという方法を取り、差別化を狙ったのである。
それが功を奏し、いまでは大人気番組の一つとなっている。
ちょうどその時は、バズーカ砲の破壊力にも耐え、深海6500メートルの水圧でも潰されない時計『Cショック ウルトラタフ10万円』の商品説明が行われていた。
「さて、実際にバズーカ砲に耐えれるか実証してみましょう!」
ジャパネット山田社長は、そう言うと何処から取り出したのか、バズーカ砲を構える。 そして、室内であるのに撃つ。
画面に広がる爆発と、スピーカーから聞こえる大音量の轟音。
しかし、あんなに激しい熱にも拘らず時計は、見事バズーカ砲の爆発による熱に耐え抜いたのであった。
本当に、バズーカ砲を撃って実証するとは、なんと過激な通販番組である。
「なな、なんて頑丈な時計なのかしら。こ、これは絶対に買いよね!買い! 祐もそう思うでしょう?」
「は、はぁ」
興奮するリュミエールを尻目に、祐は、「銃刀法違反じゃん」と冷静にツッコミを入れていた。
その次に、紹介されたのは、ダイヤだろうと、どんな厚い鉄板だろうとぶった切れるがコンニャクだけは切れないという弱点を持った包丁『斬鉄包丁』に『超万能スライサー』をセットにして、30万円の商品だった。
「すすすすす、凄いわ。あんなに分厚い鉄板が軽く切れるなんて」
リュミエールの目が、爛々と輝く。
山田社長が、暑さ30センチもあろうかという金庫の壁をぶった切るのを見たリュミエールはその、興奮の際頂点まで来ていた。
それに対して、祐は「いや、コンニャク切れなかったら包丁として駄目だろ」と、これまた冷静であった。
しかし、リュミエールの目の輝きは普通じゃない。
食い入るよう見る蒼い瞳が常軌を逸していた。
(もしかして、リュミエールってこの歳で、通販マニア?)
祐が、そう思うのも当然である。
さっきから、山田社長が、あらゆる金属をぶった切る様を、「きゃー」とか「わーすごい」「これで30万円はお得よね」と、まるで普通の通販番組に居る観客のオバサンのそれと変わらないからであった。
「祐、命令よ。主人に代わってあの包丁を今すぐ注文しなさい! 3セットよ。で、支払いは祐がするのよ」
「え、何で!?しかも、なぜ3セット?」
「当たり前でしょう、下僕のものは私のものなんだから祐のお金も私の物よ。3セットは、使う分に、何かあった時用に、保存用で3セットいるの! 早く注文してきなさい」
(い、いや3セットって・・・)
それは、まるで漫画などを収集する方々のアレのようであった。
祐は、命のピンチは防げたが、迫り来る家計の危機に立ち上がる。
つか、90万円なんて、絶対払えるわけが無い。
「いや、買わないよ包丁あるし。それに、あんな危なっかしい包丁なんて使えないよ。リュミエールが支払うなら代理で注文するけど」
祐は、正論を述べる。
「あのね山田社長が紹介する商品は、みんな実用度満点の物ばかりなのよ!。それを買わないって恥よ恥!!。下等人種以下だわ。それに、この人の喋りは達人の域に達してるのよ!馬鹿にしないでサッサと注文しなさい!」
「死んでも嫌だ!!そんな無駄使いできないよ」
祐が断るには、理由があった。
それは、自分の家の家計状況がよろしくないのと、今のリュミエールの食い入るように見る眼が、通販のやりすぎで破産した近所のオバサンとそっくりであったから。
それから、乃木坂家のリビングは、頑なに拒む祐と、電話の子機を、祐の頬に押し付け番号を無理やり押させようとするリュミエールとの熾烈な争いに巻き込まれていく。
「主人なんだぞぉ!祐の主人なんだぞぉ!」
「いだだだだだだだっ」
祐は、リュミエールから電話の子機を奪取し、使われないようにと死守する。
リュミエールは、自分から電話を奪った祐を、思いっきり蹴っ飛ばしたり、殴ったり、踏みつけて発砲寸前までヒートアップする。
リュミエールの目は、明らかに通販中毒者と同じであった。
「はぁはぁはぁ。い、いい加減に諦めて注文したらどうかしら。はいって言わないと撃つからね〜!!」
「駄目なものは駄目!」
銃を突きつけられてなお、拒む祐にリュミエールはついに、負けを認めたのか、「この下等人種!」とか「ばか!」と祐を罵り、む〜〜〜っと地団駄を踏んだ。
そして、ソファーの上で、ムッとしてジトーっと恨みの目で、その蒼い瞳で祐を睨む。(何よ。下等人種のくせして、主人に歯向かうなんて処刑よ処刑!あの時に撃っておけばよかったわ!)
銃で脅してみても、結局は撃てなかった。むしろ、リュミエールは撃つ気が無いのであった。ただの、脅しで使うだけ。
誰しも、銃を突き付けば従うというリュミエールの経験からである。そして、もし『玩具』だとか言われたら、祐のように威力を見せ付ければいい話であった。
祐も、次第に、リュミエールのことを理解し、順応していた。
撃つ気が無いというのも、分かって来たので、強行したのであった。
リュミエールは、主人に逆らった祐を、撃ち殺せなかった自分に、き〜〜〜〜っと。心の中で悔しがり、チャンネルを他局に変え、隣で年寄りのようにお茶を啜る祐を、気が済むまで、その華奢な足で蹴り続けた。
部屋に掛けられた時計が、午後6時を回ろうとしていた。
熾烈な戦いが、一応収束した乃木坂家は、リュミエールの敗北で幕を下ろした。
さて、負けたリュミエールは、ソファーの上でさっきからスネたままだった。祐を蹴り続けるのも飽きたようで、口をへの字に曲げてふて腐れていた。
―バカ下等人種め!今に見てなさい!このクローバーのシュバリエ、リュミエールを怒らせたことを、末代まで語らせてやるわ。ふっふっふっ―
そう、今にも暴れそうなドス黒いオーラを時折、体から見え出すリュミエールであったが、彼女は自分の体に異変が起こっている事に今だ気が付かないでいた・・・。
「お、もう6時か」
祐は、ちらりと時計に目をやり、食事の準備をしようと立ち上がった。
その時。
ビキニ環礁の核実験で生まれ、放射能火炎を吐き出す怪獣王のアノ雄たけびの様な音がリビングに響く。
「な、なんだ!?」
その音に、祐は驚愕する。
そして、何事かとあたりを見渡す。
視線が、ソファーの上で顔を若干うつむき、頬を赤く染めたリュミエールに向いた。
「リュミエール?」
祐の言葉に、リュミエールの肩が驚き馬の如く、びくんっと跳ね上がった。
「な、何よ」
「い、今あの怪獣王の雄たけびみたいなのが聞こえたんだけど。そ、そのリュミエールから」
「ししし、知るわけないじゃない」
再び、雄たけびのような音
リュミエールが、はぅっと漏らし、頭を抱えた。顔から耳まで紅蓮に更に染まった。
「あ、お腹減ってるんだね」
「べべべ、別にお腹が減ったわけじゃない! ここ、このボロソファーがきしんで鳴いたのよ。こ、これだから下等人種の家はオンボロで困るわ」
リュミエールは、両手をぶんぶん振り回し、違うと必死に否定。そして、音はソファーからだと訴えた。
その姿に、祐はさっきの仕返しを思いつく。
ニヤリと、心の中で笑みを浮かべる。
「やっぱり、お腹減ってるんでしょ。今日は、麻婆豆腐なんだけどな〜。しかも超おいしい」
「かかか、下等人種のた、食べ物なんて、こ、このクローバーの、ちゅばりえのリュミエールが、そんな物口に、いいい、入れるわけ無いじゃない」
激しく興奮するリュミエールの口は、言葉を噛みまくりだった。
しかし、そんな彼女を尻目に、お腹はまた、あの音を轟かせる。
リュミエールの顔は、爆発寸前の爆弾の如く、顔全体に首元まで照れ、手がわなわなと震えた。
「ほら、お腹は正直だよ」
祐は、ニッコリと笑みを浮かべた。
(勝った)
「ちち、違うわ。この私が、人前でそんな、お腹の虫を鳴らして、ご飯を乞うなんて。間違いよ!祐、命令よ今の音は聞かなかったことにしなさい。」
「・・・墓穴だな」
「はぅ」
「そんなに無理しなくてもいいじゃん、誰でもお腹は減るんだし。別に下等人種の食い物なんかお口にあわないとかだったら、別にいいけどさ」
リュミエールは、もう限界だった。
お腹が減っているのに、興奮して叫んだりしたせいでもはや限界だった。
フラフラ状態のリュミエールは、空腹には耐え切れず、ついに白旗を上げなくてはいけない。
このクローバーのシュバリエのこの私が、た、お腹が空いたくらいで・・・。
しかし、体は本当に正直であった。
お腹の虫の音が、さっきよりも短い間隔で、ぐーとかぐぉぉーとか、ギャースとか鳴き出し始めたからである。
「・・・・・・そそそ、そうね。祐が、ど、ど〜しても私が料理を食べないなら、祐も食べないと言うなら、考えなくてよ。下僕の健康を考えるのも主人としての大事な事ですし」
「なんだよそれ」
「いいいいいいから、は、早く作りなさいよ!せっかく、主人が食べてやろう言ってるんだから。わ、私の気が変わるでしょ!あと。そ、その祐。ご、ご飯は大盛りね。少なかったら怒るんだから」
「はいはい」
クスッと笑った祐は、そう言ってキッチンへ消えていった。
その後ろから「はいは一回でしょ下等人種!」とリュミエールが罵った。
祐が居なくなると、リュミエールは「お腹減ったー」と漏らし、ソファーにバタンと突っ伏した。
祐がキッチンで、食事の準備をしていると、リュミエールが「まだなの?」と聞きにきた。
祐は、「まだ」と告げると、彼女は「そう」と言ってリビングへ戻っていった。
そして、2分後とに同じ事を聞きにやってくるのである。
リュミエールが大盛りじゃないと怒ると言うので、祐は偶然材料があったので全部使って6人前を拵えている。
そのため、そう簡単には出来ない。
リュミエールの催促も、回数が増すことにイライラが増してきているようで、空腹の獅子の如くぶちキレ寸前であった。
人は空腹時は、イライラするものだがリュミエールの場合は、殺気を帯びているので余り待たせると、命の危険があった。
暇を持て余しているリュミエールを、何かほかの事に気を向かせ、どう命を守ろうか
と考えていた祐は、ある事を閃く。
「リュミエール」
リビングのドアがばーんっと勢いよく開く音、可愛い足音が廊下に響き、キッチンのドアを引き剥がすかのような力で空け、空腹な金髪蒼穹の眼の獅子が入ってくる。
「できたの?」
「まだ」
迸る殺気が、逆巻く金髪が、メラメラと炎を秘める蒼い瞳が、もう限界を語っている。「もちょっと、かかるからさ。その間にお風呂入ってきなよ。上がってくる前には出来てるから。ほら、いろいろあって汗とかかいてるだろうから」
そう祐に言われた、リュミエールはくんくんと、足首まで丈のある黒いコートと、蒼いワンピースを嗅ぐ。
「ん。それなら、先にお風呂入ってくる」
汗臭いのを感じたのか、リュミエールは祐に従う。
殺気立つリュミエールが、しばらく黙ってくれるので祐は、ほっとする。
(あんな催促されたら、ご飯がまずくなっちゃうよ)
「風呂場わかる?」
「ん。でも、下着はあるんだけどパジャマとか無いから何か貸してね」
「なんで?荷物とか持ってないの?」
「ギクッ」
リュミエールの額に汗が、たらーりと滴る。
絶対、絶対に!
祐に、アノことを話すわけ行かないわ。
そうよ、そんな事一言でも、漏らしたら、私の面目丸つぶれよ。
下僕の主人として、それだけはぜっ―――対に、気づかれるわけいかないわ。
「あ、あああの白夢の、とととと、時に、着替えとか入れたバックを落としたのよ。他はアイオロスが持っててくれたから、無事だったの」
セーフ。
これで、祐は、疑わないわ。
さすが、リュミエール。
もう、すっごい汗出ちゃった・・・。
「それなら、後で風呂場に持ってくるよ」
「お、お願いするわ」
(ふ、下等人種の下僕を誤魔化すのは、ちょろいわね。さてと、お風呂お風呂〜)
突然、祐の後ろでぱさっという音が聞こえた、それは布がすれる音のようだった。
(ん?)
音が気になって後ろを振り返ったその時、祐はぎょっとした。
そこには、蒼いワンピースの首元を両手で握り、よいしょと呟きながら、今にもそれを脱ごうとしているリュミエールの姿だった。
そして、リュミエールがワンピースを脱ぐと、長いリュミエールの髪がばさっと宙を舞った。
その髪は、とても細く穢れない金色を放ち。
そして、ふわりと柔らかい絹糸のようであった。
リュミエールは、上は透き通る純白のスリップに、下はこれまた白いパンツ姿になる。そして、そこからスリップを脱ぎ始める。
呆然とその光景を見る祐の目に、金髪にとろける上半身を露にした少女が現れる。
まだまだ熟していない凹凸の無い胸は、ゆるやかな川の流れのように流麗な曲線を描き汚れない白磁の中に、桜の花びらのようにほんのりと薄紅色に染まる肌が、清純を表していた。
そして、服の上からでもハッキリと分かる、リュミエールの華奢な手足が、余分な服が取り払われることでより一層と細く見える。
リュミエールの曇りの無い肢体は、まるで完璧な少女を模して作られたドールのようであった。
そして、リュミエールの手は、最後の白い布切れに手が伸びる。
(はっ!)
その光景に見とれていた祐は、正気を取り戻す。
そして、度数の高いアルコールでも飲み干したかのように顔を耳まで赤らめ、恥ずかしさのあまりリュミエールに背を向けた。
祐の体温が上がり、心臓が激しい鼓動を打ち鳴らす。
「ななななな、なんでこんな所で裸になってるんだよ」
「何よ。どこだって脱いでもいいでしょ。問題ないんだから」
(ある、大いにある)
そのまま黙りこくってしまった祐を尻目に、リュミエールは「変なの」と言う。
「あ、祐、洋服洗濯してね。それ下僕の仕事なんだから」
そう言って、リュミエールは、キッチンから出て行った。
「気持ちいぃ〜」
そう親父くさい台詞を零しながら、リュミエールは、お湯の温かさを体全体で楽しんでいた。
「――何処でも脱いだって私の自由じゃない」
不意に、祐の態度を思い出す。
リュミエールにとっては、脱衣所で脱ぐという考えがこれっぽちも無いのである。
悪意の無いこの行為ほど、より悪質であった。
「お腹減った――――」
お風呂のにリュミエールの声が響く。
そして、空腹に我慢しつつ、お湯に顔を沈めた。
お風呂から上がり、パジャマに着替える。それは、祐のものであるため、サイズが大きすぎていた。
リュミエールは、袖と裾を巻いたが、それでもタブタブであった。
そして、自慢の金髪を緑のヘアバンドでひとまとめにしたリュミエールをリビングで待っていたのは、テーブルの上に、ドドンっと置かれた超大盛りの麻婆豆腐の山であった。 その量6人前強。
リュミエールの注文で作ってみたものの、その量は乃木坂家のお皿の中でも一番大きいものを使っているにも関わらず、零れそうであった。
リュミエールの目が、確実にその山を捉えていた。
そりゃもう、見るどころか、直視していた。
獲物を涎流しながら狙う獅子がそこに居た。
「そんじゃ、食べようか」
「あい」
「いただきます!」
「ん」
「え?」
リュミエールが、空になった茶碗を祐に突き出す。
さっきまで、山盛りに盛り付けられていた、ご飯が消えていた。
「なかなか美味しいわね。おかわりをしてあげると主人が茶碗を出してるんだから。さっさとよそいなさいよ」
祐が黙っておかわりを渡すと、黙々と箸をすすめるリュミエール。
しかし、そのペースは祐の数倍あり、異常なまでに消えていく山盛りのご飯の姿がそこにあった。
「ん」
そして、また茶碗を突き出し、おかわりを要求するリュミエール。
そんな事がしばらく続いた。
「ごちそうさまでした」
満足そうに笑顔を見せるリュミエールの食欲に、戦慄の思いで祐は震えていた。
あれから、リュミエールは6回ご飯をおかわりし、6人前強あった麻婆豆腐があっという間に、口の中に消えていった。
その食いっぷりに圧されたのか、祐は自分の食事をすることを忘れ、リュミエールと炊飯器の間を行ったり来たりしていた。
結局、食いっぱぐれた祐は、仕方なく食器を片付けるためにキッチンにこもっていた。祐の姿は、主夫のようであった。
(・・・どんな、胃をしてるんだ)
至極真っ当な疑問である。
(あんなに食べてるのに、どこに栄養が行っているんだろう)
見事にぺったんこの胸に、その栄養が行ってるわけでも無く、華奢な手足にも行って無さそうであった。
不意に、ここで偶然見てしまったリュミエールの裸が浮かび上がり、祐は顔を紅に染める。14歳の祐も、そういうお年頃でった。
ぼーっと反芻しているうちに祐は、手を滑らし、自分の茶碗を割ってしまった。
ガシャンと、茶碗が割れた音がキッチンに響いた。
祐は、自宅3階の天文台にて、さっきの出来事を思い出していた。
リビングで、洗い物をしていると、リュミエールがキッチンに入ってきて「寝るわ」と告げて2階に階段を上り始めていた。
「寝るならちょっとまってて。母親の部屋を片付けるからそこで寝て」
「気遣いは無用だわ。いろいろ見て回ったらフカフカのベットを見つけたからそこで寝るわ」
「それって・・・」
「祐の部屋のようね」
「じゃぁ僕はどこで?」
「あなたは、ソファーがあるじゃない」
「なっ・・・」
そんなこんなで、祐は自室を奪われてしまった。そして、リュミエールが寝た後毎晩の日課である天体観測を行うため天文台に来たのであった。
乃木坂家の天文台は、父親の遺産である。
自宅3階が丸々、天文台となっており、白い巨大な天体望遠鏡が置かれている。
そして、そこには雨風や直射日光から天体望遠鏡を守る銀色ドームがそれを覆うように備え付けられていた。
天体望遠鏡で、赤褐色の地表が特徴の火星を眺めていた祐は、今日の出来事を思い返していた。
金髪蒼穹の目の少女は、エルトリア国という何処か知らない国の、クローバーという組織の騎士で、銃を振り回したり、祐を罵ったり蹴ったり殴ったりと、意地っ張りでわがままな少女。
でも、物凄い食欲で、時より見せる無垢な笑顔がとっても可愛くて・・・。
自分を無理やり下僕にして・・・。
「はぁー、僕はどうなるんだろう」
そうぼやきつつ、星を見入る祐だった。
夜も更け、日付が変わろうとしていたときドアが開き、毛布をまとったリュミエールが眠たそうに眼を擦りながら入ってきた。
「あ、起こしちゃった?」
「違うわ。眠れないの。下等人種のベットじゃぁどうもいけないわね」
(ほっとけ)
自分の部屋を占領したくせに。
「あら、何してるの?」
「天体望遠鏡で火星を見てるんだ」
「天体望遠鏡・・・?テレスコープのことかしら」
「・・・英語だとそうだね」
リュミエールは、その巨大で天に向いた白い筒を見上げる。
「祐、私を抱きなさい」
(!?)
そのリュミエールの一言に、ぽかーんと口を空ける祐がいた。
14歳といっても年頃の祐に、その意味が出来ないわけで訳ではない。
それを理解し、祐の顔が燃え上がる。
「ななななななな、何言ってるんだよ」
「変な下僕ね。私の背だと、その覗き口に眼が届かないから、私を抱いてと言ってるの」 そう言うと、リュミエールは、ズカズカとまだ顔を赤らめた祐の膝の上に、その小さな体を収める。
(ぁ、そういうことか)
意図を理解した祐は、何故かほっと胸をなでおろした。
「少し肌寒いわね」
「ごめん、天体観測をする時は、外と気温を同じにしないといけないんだ」
「祐、その毛布を着なさい。風邪を引くわ」
リュミエールは、まとっていた毛布を脱ぎ、それを祐に渡す。
祐は、それを上からかぶり、リュミエールを包み、そして密着する。
「すごいわ。マーズは、業火を意図すると星だと聞いたことあったけど、こんなに赤いなんて・・・」
「火星の赤い色は、地表に酸化鉄が含まれてるからなんだ。でも、元々はこの星と同じ水々しい星だったんだよ」
「お前は、物知りね」
リュミエールは、覗き口から眼を離し、自分の後ろで自分を優しく包んでいる祐を振り返る。
蒼穹の瞳に、祐の顔が映りこむ。
祐のタブタブのパジャマを着たリュミエールは、とんっと背中を祐の胸に預けた。
「・・・まだ寒いわ。祐、抱きしめて」
「い”」
「主人を風邪引かせるつもり?さっさとしなさい」
ドスっと、軽く肘が祐の腹に入った。
また喰らわされたらたまらんと、黙って祐は、恐る恐るリュミエールを抱きしめる。
優しく両の手を回し、よりリュミエールと密着した。
彼女は、とても暖かくて、祐の膝くらいまで垂れた金髪から、乃木坂家のシャンプーとリンスを使ったはずなのに、それとは比べ物にならないほどの甘い香りが鼻を刺激する。「あら?これは何」
リュミエールが、テーブルに置かれた1冊の英文の本を指差す。
祐はそれを手にとって、リュミエールへ渡した。
「プルートーン。ギリシア神話の冥府の王のことね。冥王星も見えるかしら?」
「待ってて」
そう言うと、祐はテーブルのパソコンのキーボードに何かを打ち込み始める。
入力を終えると、ドームと天体望遠鏡が動き出し、冥王星の方向へと向きを変えた。
「見てみて」
祐に促された、リュミエールはそれに従う。
「何も見えないわ」
リュミエールは、不満そうに祐を振り返る。
「真っ暗でしょ」
「何故?」
「冥王星は、この太陽系の惑星の中でも一番外にあるんだ。だから、もっと巨大なところじゃないと見えないんだよ」
「・・・この星は、さびしい星なのね」
祐から手渡された、本を捲り、太陽系の惑星の位置や、冥王星の写真を眺めていたリュミエールがそう呟いた。
「この星は、もうすぐ太陽系の惑星から外されるんだ。ただ、遠すぎて何が何だか分からないってだけでさ。折角、惑星の仲間入りできたのに・・・。学校の教科書からも消えていって、そして太陽系の惑星の一つだったということが忘れ去られて、そのうち冥王星という存在が消えていくんだろうなぁ・・・・・・」
そう言って祐は、星々が跋扈する漆黒の天空を眺めた。
「・・・・・・この星は幸せな星ね。人から忘れられた存在になれるなんて」」
「え?」
「だって、誰の記憶に残らない、すぐ其処に居ても誰からも存在を認められない、誰もその人が其処に居たなんて気づきもしないなら、どんなに辛い事も悲しいことも振りかぶってこないじゃない。人との関わりが無いなら、何かに縛り付けられることも無いわ。冥王星だって、幸せなはずよ。人間たちに勝手に太陽系の惑星だと、鎖で縛り付けられていたのに、それから開放されたんだもの。自由に輝き続けれるわ、冥王星という星や名前が知らなくても、星たちはそれを気にせず輝るの。・・・・・・私と同じように」」
前を向いているため、リュミエールの顔を見れないが、祐はいつもの彼女の声とは違うと感じた。寂しそうな声だと。
「・・・・・・・・・そ、そんなの間違ってる。存在が消えるって、そこに確かに存在た証が無いなんて、死んでいるのと同じじゃないか。そ、そんなの哀しすぎるよ」
「・・・・・・・・・・・・そうね、祐が正しいのかもしれないわ。それに、冥王星は誰からも存在が消滅することは無いわね。だって、祐が存在を覚えているんだから、寂しくはないわね。でも、私は、存在が無い者よ。初めから死んでいる者ね・・・」
リュミエールは、祐の膝の上で顔をうつむく。
泣いているのだろうかと、祐は思った。
あの意地っ張りですぐ人に銃を向けるあのリュミエールが。
自分を『存在の無い者』って、悲しい・・・。
リュミエールは、そんな悲しい事ばかりをずっと味わってきたのだろうか。
そんなに、クローバーの騎士という彼女の生き方は、辛いのだろうか・・・。
「・・・・・・」
「きゃっ」
祐は、ぎゅうっと少女を抱き寄せた。
「・・・じ、じゃぁ、僕がリュミエールのことをずっと覚えているよ。これなら存在が消えたりしないよ。これでリュミエールも冥王星と同じだ。だから、だからそんなこと言わないで・・・。ほ、ほら僕は君の下僕なんだし・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・か、下等人種に、し、しかそ、存在をお、おお、覚えられ、な、ないなんて、・・・・・・・く、屈辱・・・だわ」
祐の腕の中で、リュミエールが震え、紅蓮に染まった顔を毛布の中に埋めた。
日付が変わっても、リュミエールは、毛布の中に顔を隠したままだった。
祐は、急に抱きしめたせいで、怒ってるのかと不安になってしまった。
もしかしたら、撃たれるかもと・・・。
「ね、ねぇ。大丈夫?」
毛布の中が、もそもそと動く。
「だ、大丈夫よ」
「よ、よかった」
毛布から顔を出したリュミエールの声がいつもの様に戻っていた。
(元気になってくれたかな?)
なんだか、沈んだリュミエールを見ていると、とっても辛い。
「あ―。ところでさ。僕、いろいろと聞きたいことがすっ―――ごくあるんだ。ほ、ほら無能な下僕に教育するのも主人の勤めって言ってたよね」
「・・・ん。いいわ、答えてあげる」
「えっと、エルトリアって何処にあるの?」
「え―。そんな事も知らないの?」
「だから、そんな国聞いた事ないって」
「エルトリアは、イギリスにあるわ」
「え、イギリスってあのイギリス?それなら、エルトリアじゃなくてイギリスじゃないの?」
「あなた達の言葉で言うとイギリスよ。でも、こっちのイギリスというと違うわ」
「どういうこと?」
「いい? あなたが迷っていた『此処でもないが其処でもない場所』交差空間が、此処と其処を繋ぐ橋のようなモノだといったでしょ?この世界が此処なら其処は、他の世界よ。相対時空存在確率の法則で話が付くわね」
「え、ご、ごめんわかんない」
「もう、バカね。簡単にいうと全く姿形は同じなんだけど、異世界の地球が沢山あるのよ」
「へ――。じゃぁ、リュミエールは異世界の人で、リュミエールのいたところだと、イギリスがエルトリアなの?」
「そうよ。わかった?」
「うん。でも、そんな世界があるなんて驚きだよ。・・・あれ、じゃぁ交差空間っていくつもあるの?」
「沢山存在するわ。この街って濃霧が出るでしょ?あれが、ここの交差空間の入り口よ。ここの守護精霊が、交差空間の出入り口が出現すると、力無き者達が簡単に入れないように守ってくれてるの。イギリスは濃霧が有名でしょ?この街と同じなのよ。イギリスだと濃霧が出ているときにビックベンをくぐると、エルトリア側に出れるわ」
リュミエールは、難しい言葉を織り交ぜつつ、簡単に説明する。
祐は、そこまで覚えのよくない頭を鞭打って理解しようとした。
また別の異世界、それはこの世界と瓜二つだけど全然違う。
どんな所なんだろう。
どんな人が住んでいるんだろう。
好奇心が、ムクムクと膨れだす。
祐は、リュミエールが自らを『異能者』と言ってたのを思い出した。
魔法だとか、錬金術とか、おとぎ話に出てくるようなことも言ってたような・・・。
「あのさ、リュミエールは魔法使いなんだよね?」
「そうよ」
「どんな魔法?」
そう祐が言うと、「見せてあげる」と言って、リュミエールは毛布を奪って、祐の膝から飛び降りた。
そして、じっと眼を閉じ、開いていた右手をギュッと握り、そしてまた開いた。
手が開いた瞬間、金色の光が手のひらに中に現れた。
それは、一瞬であの白銀の銃を形取り、リュミエールの右手に顕現した。
「―――っすごい!一瞬で銃が!」
「えへへ。凄いでしょ。コレは、太古の異能者達によって作られた宝具なの。形状を記憶し続け、永遠に存在続ける形状記憶の魔法がかけられていて、私の意志で出したり消したりできるの」
リュミエールはそう言って、3〜4回ほど消したり出して祐に見せ付ける。
その度に、祐が拍手を好奇の声を上げた。
「うんで、私の魔法は、『全ての物質に干渉し、それの構成を色んな決まりごとを無視して消す』の。あの時のレンガの壁が撃ったときに、消えたように穴が開いたでしょ。それが魔法よ」
それから、調子に乗ったリュミエールは、魔法の構成とその性質を、聞いたことの無い横文字で、10分延々と熱弁した。
(おだてると、調子乗るんだな・・・)
内心、祐は、その話の7割も理解してなった。
しかし、分からないというと後が怖いので、うんうんと相打ちを打つだけであった。
「寒ぃぃ」
急に気温が下がった外気が、天文台内に吹き抜ける。それは、熱弁を振るっていたリュミエールの、熱を冷ます。そして、また定位置と化した、祐の太ももの上に、腰を下ろし毛布に包まれる。
祐にとってすれば、やっと魔法についての講義から開放されて、ほっとした。
(あのままだったら、朝空けてるよ・・・。とりあえず、魔法で何でも消せる消しゴムみたいなものか・・・)
あまり、物覚えが宜しくない祐であった。
そろそろ寝よう。そう思い、リュミエールにも寝たほうがいいよと、言おうとした時。
―く。
―く―く。
そんな可愛い寝息を立てて、既に寝ていたリュミエールが、毛布に涎を垂らして熟睡していた。
(お子様は寝る時間というやつですか・・・)
爆睡状態のリュミエールを無理やり退かし、起こすのも可哀想だと思った祐は、恥ずかしさで顔から火が出そうなのを、ぐっと堪えて、がばっと毛布でリュミエールを包み、左手をリュミエールの膝から通して、右手は背中に当てて抱きかかえる。所謂、お姫様抱っこの要領と同じ。
(うわっ軽っ)
体力の無い祐にも軽く持てる程であるからして、リュミエールの体重は相当軽い。
(まるで、羽とかそういうくらい軽い・・・。女の子ってこんなに軽いのか・・・)
祐の腕に、小さく収まった軽い少女の寝顔は、さっきまで銃をブンブン振り回したりしていた少女には見えない。
とても安心しきった、子供の純粋無垢の寝顔だった。
リュミエールを、元自分の部屋のベットに寝かした祐は、「さて風呂入って寝るか」と電気を消して部屋から出ようとしたとき、リュミエールの手が、上着を握っていた。
祐は、その小さな手を、彼女が起きないように慎重に1本1本外していった。
が、しかし。
親指と人差し指だけを残すだけとなったとき、強い力でぐっとリュミエールに引っ張られてしまい、バランスを崩してベットに倒れこむ。
その格好は、事情をまったく知らない人から見れば、押し倒したかの格好であった。
祐は、驚いて立ち上がろうとしたが、リュミエールの物凄い力で引っ張られ立つこともできなかった。
(う、うわっ)
寝息が、すぐ側に聞こえる。
ううんっと時折、寝返りを打つリュミエールに、祐の心臓が狂い馬のように急激に鼓動を上げた。
(この体制は、やばいよな・・・。絶対、確実に、でもどうする?どうしよう・・・)
祐の頭がグルグルと混乱していた。
しかし、神様は、不幸な事に祐を見放した。リュミエールの手が祐の胸倉を掴み、ぐいっと首が絞まるかと思うくらいの力でベットの中に引きずられた。
「り、リュミエール!?」
リュミエールは、ベットに無理やり引っ張り入れた侵入者を拒むことなく、抱き付いてきた。
(・・・・・・・・・)
祐は、唖然とした。
ベッタリと抱き付き、リュミエールの吐息が祐の首筋をくすぐる。
少女の暖かさが、トドメのように伝わった。
リュミエールは、祐の胸板に顔を沈め、抱き枕と同じように、華奢な両の手を祐でぎゅっと抱きしめる。
強く、
強く、
強く、
これでもかという力で締め付ける。
「いだだだだだだだだだだだだだだだっ。痛い、痛い。か、体が千切れる!!」
祐が、悶絶寸前で叫んでいるのに、リュミエールは「んー」と呟いて、より祐と密着し、更に締め付けの力を強くする。
(―柔らかくて、暖かくて、き、気持ちいけど。痛い!し、じぬ!!!!)
天国と地獄とはこのことであった。
祐は、失神寸前を行ったり来たりと繰り返し、なんとか意識を保っていた。
このまま、気絶すると、朝が来ない恐怖が祐を持ち堪えさせていた。
「ふみゅぅ」
祐の右足に、リュミエールの細い足が絡みつく感触。
もぞもぞと足を動かし、そしてリュミエールの両足が祐の膝を挟む。
そして、膝に絡みつき、じょじょに締め上げる。
締め付けと関節の2重技である。
リュミエールは、寝相が最悪だ。ということを、意識の中に沈み行く祐は、痛感した。
こうして、リュミエールと一匹を加え、寂しかった乃木坂家の一日が賑やかに終った。
( ゜∀゜)ノィョ―ゥ
ども、坂町若葉です。
第1話見ていただいてリピートしていただいた方ありがとうございます。
第2話からも見ていただいた方ありがとうございます。
今回は、コミカルでハートフル(謎)の感じのお話となりました。
しかし、通販マニアというのは、ちょっとどうよっと一部から突込みが(あぅあぅ)
作中に、斬鉄剣まがいや、ゴジラなど出ている気がしますが気のせいです。
まぁ、とりあえず。
斬鉄剣は、コンニャクが切れないということで。お許しください。
では、お後がよろしいようで。
今回見ていただいた方々に、無上の喜びもうしあげます。
では、また会う日までノシ