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3.  再任の儀   第一の騎士 ルクレシィア



 その呼び声に迷いない歩を出し進み出たのは、一目で人を惹き付ける蜜蝋のような黄水晶の瞳の高貴なる騎士。空気に溶けて消えてしまいそうなほど細くされた象牙のような髪を肩まで伸ばし、一部を後ろに結い留めている。その纏う気たるや眩いほど気高く、堂々たる姿は強く美しき騎士神の化身のような〝騎士の王〟と呼ばれる、完全なる者。

 直系王族が生まれし折に選ばれ、生涯一人の王族に忠誠を尽くし仕えることを誓う「守護騎士」である彼は、長身を高貴な騎士らしい銀の多くあしらわれ白を基調とした服装に包み、紺碧の長い外套を肩に巻き胸元で留めている。

 その外套を風に(さら)わせ、五歩、六歩と前進しラティフィーンの前に来ると、彼は真っ直ぐに主を見つめ、それから静かに(ひざまず)き深く頭を垂れた。


「我が君」


 その声に、万感の思いが込められていることを感じ取って、ラティフィーンは小さく頷いた。

はじめて出会った日が、まるで遥か遠い昔のように思える。寂しいような誇らしいような、よく分からない気持ちにラティフィーンはなった。


「その名の意味は、ルクレ・シイア〈永久(とわ)なる魂〉。貴方が私に(さず)ける言葉は何ですか」

「我が持てる全ての物と時と思いを、貴女(あなた)に捧げます」


 かつて彼が守護騎士として、真の誓いを立てた日と同じ言葉にラティフィーンは胸を(つか)まれた思いだった。


 ランサルンアでは、王の子が一歳になると一生の忠誠を誓う守護騎士が決められる。実質には王の子が三歳になる誕生日から、片時も離れず生涯傍に仕え続けるのが習わしとなっていた。そしてラティフィーンが一歳の誕生日を迎えた時、選ばれたのはランサルンア最大の貴族である()貴家(きけ)の片割れ、ファルシア家の五つになる長男、次期当主であったクレファド。


 当時前代未聞のその出来事に、貴族達は騒然となった。


 普通、守護騎士は二貴家の三男以下、または二貴家に次ぐ五大家の次男以下から選ばれる。さらにラティフィーンは本来ならばそれらの位の者が就くことさえ稀な、王位継承権の最も低い末子の王女。そのため、クレファド家を支持する貴族やその貴族に仕える役人から領民にいたるまでの反発は、並大抵のものではなかった。

 さらに幼い次期当主にはすでに、家の未来を間違いなく輝かしいものとする、当主としての器量や才能が(あらわ)れていたことも、躍起になって守護騎士になることを彼らが阻もうとする大きな一因となっていた。

 そんな中で出会った二人が、お互いを理解し信頼し合えるようになるのはほぼ不可能な事。

 それでも、これは王の命であり、さらにはルエン〈導き〉の名を持つ国一の夢見(ゆめみ)預言師(よげんし)である彼の正真正銘の「預言」であった。守護騎士選定への預言は、ここ数代の王の治世にもなかった稀なる神託(しんたく)

 

 それは誰にも、たとえ王であっても覆せない、世界の大きな流れの意志。


 その後は、運命の意志に逆らう禁忌に触れることへの畏怖によって、徐々に事態は沈静化した。それに習うように当事者の二人は、表面上差し障りのない振る舞いの守護騎士と王女として、時を過ごすことになる。

 しかしラティフィーンの母が亡くなってしばらく、彼女が七つになった頃に起こったある出来事が、二人を式でのみしか会わない疎遠な関係にしてしまった。

 それは、もはや周りの目から隠せない程のものであり、歴然たる〝不和〟として噂されることになった。

 元より無理な話だったのだと、口さがない者達はこぞって悪質な噂を述べラティフィーンの目の前で声を立てて嘲笑った。


 それから八年の時が流れ、それさえ噂にも上らなくなった約二年前。


 王宮内で偶然にも政治内情を他国へ売る内通者を発見したルクレシィアを目にとめ、一人密かに協力を申し出たのが、ラティフィーンだった。

そんなことは出来ないと断固として拒否したルクレシィアを無視して、第四王女は付き纏い、(かたくな)な守護騎士が折れざるを得ないほどの功績により彼を助けた。

 そしてたった十五になったばかりの少女が、自らの言葉通り、民のためにたった一人危地へ飛び出し命を懸けるその姿を目にして、ルクレシィアは驚愕した。

誰に知られずとも、命の危機に瀕しても、背に弱きをかばい気高く立つ小さな王女。

 その眼差しに貫かれた、その瞬間に。

この姫が在るのならば民を救えると、仮初の守護騎士は稲妻によりて天啓を受けたが如く、ただ確信した。


 眩暈がする程胸を震わす(まばゆ)い希望と、一生の茨となるだろう後悔と共に。

生涯、彼女をただ一人の存在とし、傍に仕え続けることを全身全霊を捧げて誓った。


 今彼は、誰よりも揺るがない力で彼女を支える、ラティフィーンにとってなくてはならない無二の存在。

 騎士の中の騎士だった。



「ルクレシィア。貴方には騎士団の「大剣」の称号を与えます。そして、この〈青き楽園〉より、リニエディエンの〈聖青花〉を贈ります。その証として、名と〈聖青花〉の花紋を刻んだ〈青銀器〉を共に」

 跪く彼のそばに寄り、ラティフィーンは上部の髪を結い留めていたかつての青銀器を取り外した。さらりと流れ落ちた髪をもう一度梳き上げて、そっと新しい証を着ける。ぱちりと、象牙色の髪に合うよういぶされた銀の髪留めが音を鳴らして、在るべき場所を誇らしげに飾った。


「〝貴方〟が選んだ聖青花は、私の〈聖青花〉でありこの〈青の楽園〉の象徴花、〝エディエン〟を助け支える紺碧(こんぺき)助勢(じょせい)()

 少し離れ円台に向くと、ラティフィーンは次に大剣を手にしてもう一度前に出る。跪いたまま、ルクレシィアが腕を上げてそれを厳かに受け取り、静かに告げた。


「私はこの剣の(とう)(しん)に、〈聖青花〉を深く刻みます。見えずともこの剣を支える刀心の如く、見えずともこの心の深きにいつも貴女を置き、その身を支えることを永久に我が君にお誓い申し上げる証にして」

 静かに述べられる声には、途方もない覚悟が溢れていた。


  彼が得た〈永久の魂〉を懸けて誓うこの言葉こそが、彼の真実。


 宣誓を終え、ルクレシィアはゆっくりと立ち上がると、刃を下にして(つか)を握り剣を胸元に掲げる。同じく覚悟をもって強く(うなず)き、ラティフィーンもそれに応えた。


(これ以上ない程、私は貴方に助けられて来たよ)


 騎士団を作り、民を守る事を夢見て走り出したあの日から。ずっと。

 深く深い感謝と共に目を閉じ、心から祈った。

「貴方に、ランサルンアの騎士の神と銀の乙女の加護を」

ラティフィーンのかけた言葉に一礼をして、ルクレシィアが剣を地に立てる。

それを見届けると、ラティフィーンは視線を移し、少し遠くに立つ新たな騎士を呼んだ。



 ここから、各騎士の紹介となります。

 本日中(私が起きている間)に書き終えたいと思っておりますので、

どうかお付き合いくださいませ。

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