2. 騎士の誓い
〈聖青花〉の花々が咲く〈青の楽園〉の主、ラティフィーンがこのランサルンア王国にその名を広く、そして深く広めるのは、その花園のためだけではなかった。〈聖青花〉が表すもう一つの意味は、ラティフィーンの六人の直属の騎士達。〈聖青花の騎士団〉を示していた。
ランサルンア最高の騎士と謳われる彼らを従え、大小問わず数々の功績を成し、民だけではなく国を救う姫としてその名を馳せる彼女は、今まさに式を執り行おうとしていた。
そしてその三時間前、この場所から騎士達を送り出す時、ラティフィーンはこんな話をしていた。
『三ヶ月くらい前、私がまだタトアントにいた頃、大陸で一二を争う職人さんに頼んで打って貰った武具が、今日届いたの』
それまで、ある行動に取り掛かるための作戦会議でしていた、王女としての毅然とした態度を崩して、ラティフィーンは笑った。
『新しい騎士も増えたことだし、ちょうどいいかなと思ったんだ。ついでに、銀器も新しくしてちょっと凝った物にしてもらいました』
まるで自らが贈り物を貰うように目を輝かせて、彼女は話す。
『私も、もう十八なんだな~と思ったら、何かしたくなったんだ。みんなに』
今この時があることを心から嬉しく思うからこそ、この「ありがとう」を、真っ直ぐに伝えたくて。
『私からみんなへの感謝の気持ちだと、思ってくれたら幸いです!』
その思いをしっかりと受け取ったことを、それぞれの騎士がそれぞれの態度で示すと、ラティフィーンはこれ以上ないほどの満面の笑みで応えた。
それから、少し赤みがさしている自覚のある頬を、ここまでの苦難を越えて一緒にいられる誇りで引き締める。これから、作戦の場に送り出すのだから。
『じゃあみんな、気をつけていってらっしゃい。帰ってきたら、私たちだけで式をしようね』
その言葉に、普通ならば半日はかかるだろう作戦実行のための事前準備と対策を約三時間で終わらせて騎士達は我先にと帰って来た。新しく用意された二つを受ける、この式のために。
国で最も有名な〈聖青花の騎士〉となる際には、青き姫から主たる三つの物が与えられ、それらが騎士の証となる。
一つは、〈聖青花〉。千に届く種の青花の中から、ラティフィーンがその者に合ったものを選び与え、その花の紋を自らの〝騎士紋〟として刻むことができる。
もう一つは、〈青銀器〉。
銀製の装飾品に、授けられた花紋が彫られており、その溝には青玉が埋められた物。
そして最後の一つは、苦しみの果てに己が人生で得た訓を捧げることを誓い、得る〈騎士名〉。
それら三つは騎士達が、己が誇りの形として心から大切にしている物だ。だからこそ、それらを再び与えるこの式には深い意味が在り、彼らにとって重要なものだった。
新たに用意された〈青銀器〉と花紋の彫られた武具を渡し、騎士との深い絆を喜ぶ「再任の儀」と、新たに忠誠を誓い騎士となる「着任の儀」が行われるのは、〈青の楽園〉の中央。
一面の青が円状に切り取ったように開かれ、豊かな緑の芝生が敷き詰められた空間の中心には、すべて真白の大理石で出来たさほど大きくはない建物がある。少し高めの床に、十二の柱を立てその上に一枚岩を乗せただけの、風通しはいいが雨風の強い日には使えない簡素な造りの物。
見渡す青の中で際立つそれは、〈青園の白花〉と呼ばれている。
その中心には、同じく純白の大理石でできた大きな円台と八つの椅子が置かれていた。
しかし、常ならばそこにあるはずの椅子は片付けられ、円台は、ぎりぎりまで大理石の床の端に寄せられていた。その上には武具と様々な形の〈青銀器〉が綺麗に並んでいる。
それらの最終確認を終えたラティフィーンは、小さく顎を引き、真っ直ぐに背を伸ばしてわずかな風に黒髪を揺らし、一段高い〈白花〉の床の上に立った。
振り返った目線の先、少し離れた芝生の上には式が行われる順に一列に並ぶ騎士達の姿。
「まずは再任の儀から行い、その順の規定は騎士団への正式な着任式が成された時を用います」
日常騎士達と接する時とは異なり、彼女のその口調と声には生まれながらに高貴な者の気迫がある。それはラティフィーンが、王女としての覚悟をもって式に臨んでいる表れだった。
彼女の右隣にある円台の一番右端にあった〈青銀器〉を手にし、ラティフィーンは騎士達の方へ体を向けた。
「私こと、現国王ルエン・ガオール・ランサルンア陛下が第四王女、ミナラセ・ラティフィーン・ランサルアーナの守護騎士であり、直属騎士団第一騎士兼長である、クレファド・ラン・ファルシア。私が与えし名は、我が騎士ルクレシィア。前へ」