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11. 個別作戦  豪騎士は、破壊魔。



 なだらかに弧を描く丘の頂に、ランサルンア王国の王城は建てられている。

しかしその周りには、城をぐるりと広範囲に渡って包み広がる庭園はあるものの、囲う壁は一切存在しない。

それは、神話において語られるランサルンアの建国をなした銀の乙女の時代から変わらないものとされている。人の位を隔てるための王位ではないことを長き時を経ても民に、そして王に刻むためのもの。

 数千年の時を越えて、内乱が起きた時代であっても時の王の固い意志により受けつがれてきた、王の、そして民の誇りとなっている。


 その庭園の端、広大な王城域の終わりには北と南に分かれて二大貴族の屋敷がそびえ立っている。そしてその地から後方へと、貴族が主に居住する地区〝(おう)()()〟となる。かつては王へ()せ参じるに()く、王に仇なす者から身を盾として守らんと貴族が集ったためにその名が付いたが、今では世襲制に胡坐をかいた貴族の地となっている。

 王徒区の屋敷は、一つひとつは豪奢で大きなものであるが、城下街全体として見たときには、それは大した規模ではない。ランサルンア最大の都市であるこの城下街の九割以上を占めるのは、均等な放射線状に十六の大通りが走り、その間をはしゃぐ子どもがつくったような小道が縦横無尽にはしる平民市街地。

 その規模といえば、地方の主だった都市をすべて集めても負けぬほどで、所狭しとありとあらゆる種の店がひしめき合い活気と喧騒と笑顔に溢れている。そのあまりの広さゆえに市街地は大通りにより十六区に分けられ、さらに内・外で二分化され呼ばれていた。



 そんなランサルンア城下街でも城に程近い、貴族屋敷と平民家屋が入り混じった、とある王徒区と市街地の境。

 建物の屋根や壁色、家の前に置かれた像などは、一つひとつを取って見れば美しいが、あまりに個々の美意識を主張しているため、もはや乱雑な印象を受けるその場所に、隠れるように存在する情報通の貴族もお忍びで利用する品の良い酒場がある。


 昼間から賑わうその店に、輝く金糸のような髪の男が入っていく。堂々とした歩みで、するすると人を除けて進み、どっかと最奥の一等高級なテーブルにつけられた椅子に腰をおろした。

「お~、注文頼むぜ。春鳥の姿焼きと兎肉のスープ、ちゃんと兎の尾っぽは切ってくれな」

「……畏まりました。では、御案内させていただきます。こちらにお越しくださいませ」

 無表情な店の娘の無機質な声での対応にも、クラーフェルドは機嫌よくにっと笑って立ち上がる。


 合言葉が〝尾のない兎〟ねえ。密輸で張ってんならもっと珍しいもんにしろよ。


 まあ、それくらいがお似合いかとつぶやいて、そのまま歩き出した娘の後ろに続き質素な荒い木目の二つの扉をくぐると、貴族でもめったに目にしないような硝子と金細工の豪奢な扉が現れた。

「では、私はこれで」

「おっ、ありがとさん。あ、それとな」

 突然瞬きすれば見えぬほどの早さで腕をつかまれた娘は、一瞬身を震わせ耐えるように押し黙る。その耳元に顔を寄せ、その近さでやっと聞こえるほどの声で言った。

「少し、騒ぐことになる。危なくなるから適当に逃げておけ」

 はっと顔を上げた娘に、クラーフェルドは優しく笑った。

「いいな?」

 ぎゅっと掌を握り締めただけの反応は意に介さず、クラーフェルドは扉へ向き直った。

「行け」

 一礼して去っていく娘を見えなくなるまで見送り、クラーフェルドは深く息をついた。大きな手で頭を掻きながら、もう片方の手を扉にかける。

 あの娘がクラーフェルドの侵入を店側に知らせることは、大いに在り得るのだ。


 前に確立は二分の一くらいだって言ったら、シュツに殴られたんだよな……気絶、もうしたくないぜ。


 はあーっと、もう一度大きくため息をつく。

「しゃあない、性分だ。とにかくさっさと片付けらあ」

 気を取り直して金のドアノックを握り、振り下ろす。密輸交渉のための合図は、4回だ。


  ガシャァアン!!


 金髪の大男がごく一般的な力を込めたドアノックが扉に当たった瞬間、見事に蝶番ちょうつがいが外れ精巧な硝子細工を無残に散らしながら大きな音と共に金の扉は地に倒れた。

 扉にかけていた手は、取れた金細工のドアノックを掴んだまま所在無さ気に宙に浮いて。

「あ…………ヤバ、」


 先程まで扉のあった木枠の先には、立ち上がったいかにもその道であろう五人の男が鋭い眼光をむけ、すでに剣を抜いて単独愚かな登場をした獲物を嘲笑っていた。

 が、そんなものは今の彼にはどうでもいい。



    またお姫に破壊魔だって怒られる……っ!



 がっくりと肩を落とし、同時に手から握っていたドアノブを落とすと、姫の溜息を想像して叱られた犬の耳のように、その金髪を垂らす。

「……交渉過程で情報も聞き出すはずだったんだけどなぁ。お姫、怒るかな。……呆れられたら、俺立ち直れねえ」

 己の力加減のせいというよりなぜかその物の寿命によく当たる不幸体質を嘆いてため息を吐くクラーフェルドを、半円を描くよう男たちが囲んだ。

 それをちらりと見やり、もう一度深く溜息を吐き出すと、クラーフェルドは肩に手を当てぐるぐると回す。

 そして暗かった表情を一転させ、にやっと、機嫌のいい獅子のような笑みを浮かべた。


「戦闘途中の事故、なら問題ねえよな。……すげえ派手にやろっと」




 それから十分の時を数える頃に、青空を割るように景気の良い鐘が二つ鳴った。



 彼が鳴らした作戦終了の合図の鐘は、二打目で綺麗に叩き割れました。

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