あやしい依頼書
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金持ち=英語では?
冒険者ギルドの掲示板の前がざわついている。
「金貨五百枚だってよ!」
「未攻略ダンジョンのボス討伐か。ずいぶん思い切った報酬だな」
「俺たちも挑戦してみるか?」
「馬鹿言え。昨日帰ってきた連中なんか、二階層入り口で引き返したらしいぞ」
何組もの冒険者たちが依頼書を眺めながら相談していた。
そんな中、ギルドの扉が開く。
「おはよう、リリアさん!」
「あら、ユウさん。皆さんもおはようございます!」
受付嬢リリア・フェルメルが笑顔で迎えた。
入ってきたのは、勇者ユウ・シャイニングを中心とする五人組の冒険者パーティだった。
剣聖サキ・スラッシュ。
バトルマスターのガイ・クラッシュ。
聖女アステリア・ルミエール。
そして、鑑定士のソフィア・クラウゼル。
「なんか今日は騒がしいね」
サキが掲示板を見た。
「高額な報酬の依頼が出たらしくて、朝から皆さん集まっているんです」
「ちょっと見てみようか」
ユウたちも掲示板へ向かった。
中央の依頼書には、ひときわ大きな文字で報酬額が記されている。
『未攻略ダンジョン最深部のボス討伐』
『成功報酬 金貨五百枚』
『依頼主 メチャ・カネアルーネ』
「五百枚!?」
サキが目を丸くした。
「これだけあれば、しばらく依頼を受けなくても暮らせそうよね」
目的地は王都から馬車で数時間の古代ダンジョン。未だ最深部まで到達した者はいないという。
「報酬が高い理由はわかった気がするな」
「情報が少ないので、準備も難しそうですね」
ソフィアが依頼書を覗き込む。
「ただ、古代ダンジョンなら貴重な魔道具が残っている可能性もあります。私は興味がありますね」
「私も行ってみたいかな。危なくなったら引き返せばいいし」
サキに続き、ガイも賛成した。
「せっかく五人揃ってるんだ。挑戦する価値はあるだろ」
アステリアも微笑んだ。
「皆さんが行くのでしたら、私もご一緒します。怪我の治療はお任せください」
「よし、それじゃ決まりですね!」
ユウは依頼書を外し、受付へ持っていった。
「リリアさん、これを受けたいんだけど」
「……本当に挑戦されるんですか?」
「うん。もちろん無理はしないよ」
「攻略の報告はまだありませんし、罠の情報もほとんどないんです。気をつけてください」
リリアは受付の処理を進めた。
「わかった。ありがとう、リリアさん!」
そう言ってユウたちはギルドを後にした。
その背中を見送ったリリアは、依頼書を片づけようとして手を止めた。
「……あら?」
手触りが妙だった。
羊皮紙にしては滑らかすぎるうえ、指先へ伝わる冷たさがいつまでも消えない。
他の依頼書と重ねてみても、明らかに紙質が違う。
リリアはしばらく考えた後、ギルドマスターの執務室へ向かった。
「ギルドマスター、少し気になることがあるんですけど……」
王都を出発して数時間後。
ユウたちは山の斜面に開いた巨大な洞窟へ到着した。
入口には崩れた石柱が並び、古代文字の刻まれた石材が散乱している。
「ここが目的のダンジョンか」
ガイが洞窟を見上げた。
「思ったより大きいね。これ、全部地下に続いてるのかな?」
「古い記録では、もともと地下神殿だったとも言われています」
ソフィアが手帳を開く。
「行ってみましょう!」
ユウを先頭に、五人はダンジョンへ入った。
内部は薄暗く、壁に残された魔法灯が青白く光っていた。
しばらく進むと、三方向に分かれた通路へ出る。
「さて、どっちへ行こうか」
「足跡は右側に多いですね」
ソフィアが床を調べる。
「右側に行ってみる?」
サキが言ったところで、ユウが左の通路へ目を向けた。
「あれ?向こう、少し風が流れてないですか?」
壁にかかった古い布が、わずかに揺れている。
「確かに。どこかへ通じているみたいですね」
アステリアが頷いた。
「じゃあ、左に行ってみませんか?」
五人は左の通路を選んだ。
途中、崩れた天井の下でガイが足を止めた。
「おっと、危ねえ」
「どうしたの?」
「悪い、靴紐が緩んでた」
ガイがしゃがみ込んだところで、ソフィアが前方の床に奇妙な模様を見つけた。
「ちょっと待ってください。そこから動かないで」
慎重に調べると、踏むことで発動する魔法罠だとわかった。
「危ねぇ、靴紐が緩んでてラッキーだったな」
「この模様を避ければ通れそうです。私が先に確認しますね」
ソフィアの案内で罠を通過した直後、ユウが小石を踏みそうになった。
「おっと、危ない」
とっさに壁へ手をつく。
カチリ。
小さな音がして、目の前の壁が横へ動き始めた。
「おお、隠し扉だ!」
ユウが嬉しそうに声を上げる。
「こんなところに仕掛けがあったんですね」
ソフィアが壁の奥を覗き込む。
「古い魔法文字が見えます。罠じゃなくて良かったですね!」
「いいものがあるといいね」
隠し通路の先には小さな宝物庫があり、三つの宝箱が並んでいた。
「ははは、宝箱だ!」
ガイが笑う。
「開ける前に確認しましょう」
ソフィアが順番に鑑定する。
「左と右には罠です。真ん中は大丈夫そうですね」
ユウが真ん中を開けると、青い宝石のついた腕輪と古代金貨が入っていた。
「この腕輪、かなりいいですね。魔力の回復を早める効果がありそうです」
「アステリアにちょうどよさそうだね」
サキが言った。
「私が使ってもいいんですか?」
「もちろん。回復魔法を使ってもらうことも多いし」
「ありがとうございます。大切に使いますね」
アステリアは嬉しそうに腕輪を受け取った。
その後も探索は順調だった。
サキが休憩場所を探して見つけた小部屋には魔道具が残され、ガイが崩れかけた橋を避けて選んだ道は地下広間へ通じていた。
ユウが何気なく覗いた壁のくぼみからも、珍しい魔石が見つかった。
「思った以上に収穫がありますね」
ソフィアが収納鞄へ魔石をしまう。
「この調子なら、依頼の報酬以外にもかなり稼げそうですね!」
「帰ったら何かおいしいものでも食べようよ!」
「それなら、俺は肉がいいな!」
「ガイはいつもそれじゃない」
サキが笑う。
そんな会話の途中、前方から硬いものが床を擦る音が聞こえてきた。
現れたのは、巨大な甲殻を持つ魔物だった。
「アーマースコーピオン!」
ソフィアが声を上げる。
「尾に毒があります、気をつけてください!」
「了解!」
ユウが剣を抜き、サキも片手剣を構える。ガイは背中の大斧を握った。
アーマースコーピオンが鋭い尾を振り上げた。
ユウが迎え撃とうとした瞬間、身体が勝手に横へ傾く。
片手を床につき、妙な姿勢でくるりと回転した。
魔物の尾が頭上を通り過ぎ、回転した足が床の古い兜を蹴り飛ばす。
ガンッ!
兜が魔物の顔面に直撃した。
「ギシャアッ!」
「ユウさん、お見事です!」
アステリアが声を上げる。
「ああ!避けたらちょうど兜があったから、蹴り飛ばしたんだ!」
ユウは剣を構え直した。
「今のうちに攻めよう!」
サキが魔物の側面へ回り込む。
しかし、別のアーマースコーピオンが横穴から飛び出してきた。
「二体目!?」
迎え撃とうとしたサキは、突然軽やかなステップを踏み始めた。
足が勝手に動き、右へ左へと身体が揺れる。
魔物が尾を突き出すものの、絶妙なタイミングでかわしていく。
「サキさん、すごい!」
ソフィアが感心した。
「足を温めておきたかったの!これくらい動いておけば、次の攻撃にもすぐ対応できるでしょ!」
「さすがサキさん、剣聖は動きが違いますね!」
サキは最後のステップから踏み込み、甲殻の隙間へ剣を突き立てた。
「ギシャアアッ!」
一体が倒れる。
残ったアーマースコーピオンがガイへ向きを変えた。
「よし、次は俺の番だな!」
ガイが大斧を振り上げる。
ところが、踏み込む直前に突然大きく息を吸い込んだ。
「おおおおおおお~♪おれのぉぉぉ~♪おのがぁぁぁ~♪」
通路いっぱいに、とんでもなく音程の外れた歌声が響き渡る。
ユウとサキは一瞬だけ顔を見合わせた。
「うおおおおお~♪てきをぉぉぉ~♪たおすぅぅぅ~♪」
アーマースコーピオンが動きを止め、巨大な鋏を持ち上げたまま左右へふらついた。
「魔物の動きが鈍っています!」
アステリアが杖を構える。
「敵の平衡感覚を狂わせたんだ!今なら狙いやすい!」
歌い終えたガイが大斧を振り下ろす。
甲殻に大きな亀裂が走った。
「《ホーリーランス》!」
アステリアの光の槍が、その亀裂へ突き刺さる。
魔物は最後の力で鋏を振り回したが、ユウの剣が弾き、ガイの斧がとどめを刺した。
「ふぅ、終わったな」
ガイが汗を拭う。
「先ほどの声を使った攻撃、かなり効果的でしたね」
アステリアが感心した。
「ままま、まあな。相手によっては剣や斧以外の攻撃も必要だ!」
「バトルマスターの奥深さを感じます」
ソフィアが言った。
ガイは大斧を背負い直した。
「さあ、先へ進もうぜ。まだまだ奥がありそうだ」
五人は魔物の素材を回収し、探索を再開した。
その頃、冒険者ギルドでは、リリアがギルドマスターから報告を受けていた。
「依頼主の身元がわかったぞ」
「本当ですか?」
「ああ。隣国のギルドへ照会したところ、メチャ・カネアルーネという人物は実在した。大変な資産家だそうだ」
「それなら、報酬の支払いも……」
「いや、それがおかしいんだ」
ギルドマスターは書類を机に置いた。
「そいつは約一年前、例のダンジョンへ入ったきり行方不明になっている」
「一年前……?」
「そして、これを見てくれ」
机に広げられた依頼書には、すでに文字がほとんど残っていなかった。
「魔法鑑定をかけたところ、微弱な死霊術の痕跡があった。普通の人間が作成したものではない可能性が高い」
「そんな……!多くの冒険者たちは、もうダンジョンに向かっています!」
「近隣のギルドへは連絡を入れたが、間に合うかどうか……」
ギルドマスターは依頼書を見つめた。
「それと、最近あのダンジョンから帰還した冒険者の一人が、妙な証言をしている」
「妙な証言、ですか?」
「ここ数日間の記憶が曖昧らしい。本人は依頼書など知らないと言っているが、記録では、その男が代理人として持ち込んでいる」
「まさか……」
「何者かに一時的に操られていた可能性がある」
リリアは窓の外へ目を向けた。
「皆さん……どうか無事で……」
一方、ダンジョンの奥深く。
ユウたちは巨大な地下広間へ到着していた。
高い天井と壁には古代の神々を描いた彫刻が並び、中央の石像の背後には閉ざされた扉があった。
「ここ、ずいぶん立派だね」
サキが周囲を見回す。
「神殿の祭壇だった場所かもしれません。あの扉の向こうに重要な区画がありそうです」
ソフィアが扉を調べる。
「鍵穴がありませんね。魔法で封印されているのでしょうか」
「この石像が怪しいな」
ガイが近づいた。
石像は両手を前へ差し出し、手のひらには丸いくぼみがあった。
「何かを置く仕組みかな?」
ユウが覗き込んだとき、天井から小さな魔物が飛んできた。
「キィィッ!」
「うわっ!」
ユウが身を引くと、腰の収納袋から拾ったばかりの古代金貨がこぼれ落ちた。
「あっ、金貨がー……えっ?」
金貨は石像の腕を転がり、手のひらのくぼみへすっぽりとはまった。
ゴゴゴゴゴ……
石像の目が光り、背後の扉が開き始める。
「ええー!?」
「金貨が鍵だったんですね」
ソフィアが石像の古代文字を読み解いた。
「『黄金を捧げし者に道を開く』……確かにそう書いてあります」
「金貨一枚でいいなら、ずいぶん良心的だね」
サキが笑う。
「ここを通った冒険者は、誰も気づかなかったのかもしれませんね」
アステリアが扉の奥を見つめた。
「先ほどの魔物は逃げていきましたし、今のうちに進みましょう」
その先には長い階段が続いていた。
階段を下りきると、不気味な骸骨の紋章が刻まれた巨大な扉が現れた。
「ここが最深部……かな?」
ユウが扉へ手を伸ばす。
その向こうに広がっていたのは、巨大な地下墓所だった。
無数の石棺が並び、中央には黒い祭壇。そこには豪華な法衣をまとい、古びた王冠を載せた骸骨がいた。
眼窩には紫色の炎が揺らめいている。
「……よくぞ……ここまで……」
骸骨が低い声を響かせた。
「しゃ、喋った!?」
サキが剣を構える。
「リッチです!」
ソフィアが叫んだ。
「高位の死霊系魔物です!強力な魔法を使うので気をつけてください!」
「……我を……倒せ……」
リッチが片手を持ち上げる。
黒い霧が噴き上がり、無数の骸骨兵が現れた。
「おいおい、いきなり大歓迎だな!」
ガイが大斧を構える。
「皆さん、防御魔法を!」
アステリアの杖から光が広がり、五人を包み込んだ。
次の瞬間、骸骨兵たちが一斉に襲いかかってくる。
「行くぞ!」
ユウが先頭の骸骨兵を斬り倒し、サキも次々と敵を切り崩していく。
ガイの大斧が振り下ろされるたび、骨が飛び散った。
しかし、リッチが杖を振るうと、倒れた骸骨兵が再び立ち上がる。
「これじゃきりがない!」
サキが叫ぶ。
「リッチ本体を倒さないと!」
ユウは祭壇へ向かおうとした。
その瞬間、足が勝手に横へ滑り出す。
身体がぐるりと回転し、床に落ちていた銀の皿を拾い上げた。
ユウは勢いのまま、リッチへ投げつける。
カァンッ!
銀の皿が額に直撃した。
「……グォッ!?」
リッチの詠唱が途切れる。
「さすがです!」
アステリアが声を上げた。
「よし!詠唱を止めたらなんとかなるかと思ったんだ!」
ユウは剣を握り直し、リッチへ斬りかかる。
リッチは杖で剣を受け止め、反撃の魔法を放とうとした。
「ユウ、下がって!」
駆け込んだサキは、突然片足立ちになり、両腕を広げてくるりと回転した。
リッチの黒い魔弾が脇を通り抜ける。
回転の勢いで蹴り上げた燭台が、リッチの杖へ衝突した。
ガァンッ!
「……ヌゥッ!」
リッチがよろめく。
「サキさん、見事な連携技です!」
アステリアが杖を構え直す。
「攻撃を避けて、速攻!け、剣聖のなせる技よ」
サキは何事もなかったように剣を握り直した。
その間に、ガイがリッチへ接近する。
「今度こそ俺が決める!」
するとガイが再び歌い出した。
「おおおおおお~♪われらぁぁぁ~♪さいきょおおお~♪」
墓所いっぱいに響く強烈な歌声。
リッチの眼窩の炎が揺れた。
「……ナ、ナンダ……コノ……オトハ……!」
リッチは両手で頭を押さえ、苦しそうによろめく。
「効いてるぞ!」
ガイが歌いながら叫んだ。
「死霊系の魔物にも有効なんですね!」
ソフィアが驚いた。
アステリアはその隙を逃さなかった。
「皆さん、少し離れてください!」
杖を掲げると、天井から巨大な光の柱が降り注いだ。
「《セイクリッド・ジャッジメント》!」
神聖な光がリッチを包み込む。
「……ギャアアアアアアッ!」
身体が崩れ、胸元から一粒の紫色の宝石が浮かび上がった。
「……アリ……ガトウ……」
かすれた声が響く。
「……コレデ……ヤット……」
リッチは何かを言いかけたものの、光の中へ消えていった。
最後に残ったのは、王冠と紫色の宝石だけだった。
「……倒した、のかな?」
ユウが剣を下ろす。
「はい。魔力反応が完全に消えました」
ソフィアが周囲を確認した。
「ただ、最後の言葉が気になりますね。まるで、倒されることを望んでいたみたい」
「そういえば、最初にも『倒せ』って言ってたね」
サキが思い出した。
アステリアはリッチの消えた場所を見つめる。
「苦しそうでしたけれど……最後は、少し穏やかな声だった気がします」
ユウは紫色の宝石を拾い上げた。
「これ、何だろう?」
「私が鑑定してみます」
ソフィアが宝石へ手をかざし、内部に宿る魔力を探った。
しかし、複雑に絡み合う魔力の流れを読み解くことができない。
「……だめです。魔力の構造が複雑すぎて、性質が掴めません」
「ソフィアでも?」
「はい。おそらく、かなり高位の魔道具です」
「だったら、ミルドさんに見てもらおうよ」
ユウが言った。
「そうですね。祖父なら鑑定できるかも」
その後、五人は地下墓所を調べた。
祭壇の裏には宝物庫があり、古代金貨や貴重な魔道具が大量に残されていた。
リッチの王冠も珍しい魔力を帯びている。
「金貨五百枚の報酬もあるんでしょ?今回、ものすごい稼ぎになりそう!」
サキが嬉しそうに言った。
「それなら、帰りに少し贅沢してもよさそうですね」
アステリアも微笑んだ。
そして翌日。
「戻りましたー!」
ユウたちは冒険者ギルドへ戻ってきた。
「えっ、ユウさん!?」
リリアが勢いよく立ち上がる。
「皆さん、ご無事だったんですね!」
「うん!ボスも倒してきたよ!」
「……え?」
「はい、これ!」
ユウがリッチの王冠を受付台へ置いた。
リリアはしばらく動かなかった。
「ま、待ってください!本当に!?」
「大きな墓所があって、そこにリッチがいたんだ」
「リッチ……!?」
周囲の冒険者たちがざわめく。
「おい、今リッチって言ったか?」
リリアは慌ててギルドマスターを呼んだ。
王冠を確認した彼は、深く息を吐いた。
「……本物のようだな。無事で何よりだ」
「ありがとうございます!それじゃ、報酬の金貨五百枚を……」
「……そのことなんだが、実は依頼には問題があった」
「問題?」
「依頼主のメチャ・カネアルーネという人物は、一年前に死亡しているようなんだ。そして依頼書は怨念が作り出した偽物だった」
「……え?」
ユウが固まる。
「つまり……?」
「正式な依頼ではない以上、金貨五百枚の報酬を支払うことはできない」
「ええええええっ!?」
五人の声が重なった。
「ちょっと待ってよ!私、帰ったら新しい服を買おうと思ってたのに!」
「俺の斧はどうなるんだ!?」
「ガイさん、まだ買ってないじゃないですか」
ソフィアが落ち着いて返す。
「でも、五百枚がなくなるのは残念ですね……」
アステリアも肩を落とした。
ギルドマスターは頭を下げる。
「依頼書の確認が不十分だったことは、ギルド側の落ち度だ。申し訳ない」
「いや、ギルドマスターが悪いわけじゃないよ」
ユウは慌てて手を振った。
「でも、偽物の依頼書なんて作れるんだね」
「まだ調査中だが、ダンジョンから帰還した冒険者が何者かに操られ、依頼を持ち込んだ可能性がある」
ギルドマスターは王冠を見つめた。
「依頼主が何を望んでいたのかも、まだわからん」
ユウたちは顔を見合わせる。
「まあ、仕方ないか。お宝はいっぱい手に入ったしね」
サキが言った。
「そうだな!それを売れば新しい斧くらい買えるだろ!」
「そういえば、まだ全部見てもらってないね」
ユウがソフィアへ声をかける。
「収納鞄の中身を出してもらっていい?」
「はい。まずは換金できそうなものから並べますね」
ソフィアが収納鞄を開く。
古代金貨の袋や魔石、魔道具、宝石、珍しい鉱石が次々と受付台へ並べられた。
「……ちょ、ちょっと待ってください!まだあるんですか!?」
「はい。もう少しあります」
ソフィアはさらに品物を取り出し、受付台はあっという間にいっぱいになった。
「おいおい、何だあの量……」
「本当に未攻略ダンジョンを制覇したのか……」
「見たことない魔道具まであるぞ!」
冒険者たちが集まってくる。
ギルドマスターは呆然と宝物を見つめた。
「……よくこれだけ持ち帰れたな」
「途中で隠し部屋をいくつか見つけたんだ。最深部にも宝物庫があってさ」
ユウが答える。
「古代の仕掛けが残っていたので、調べながら進みました」
ソフィアが説明した。
ギルドマスターは何か言いかけたが、結局そのまま査定担当者を呼んだ。
査定にはかなりの時間がかかった。
「金貨五百枚には届きませんが、十分すぎる成果ですよ!」
リリアが査定結果を渡す。
「やったー!」
サキが両手を上げた。
「これなら、しばらく装備の心配はしなくて済みそうだな!」
「まだ鑑定できていない宝石もありますからね」
ソフィアが収納鞄へ目を向ける。
「そうだった!あれ、ミルドさんに見てもらわないと!」
ユウが思い出した。
数日後。
五人は王都にある鑑定士ミルド・クラウゼルの店を訪れていた。
「おじいちゃん、こんにちは!」
「おお、ソフィアか。皆もよく来たな」
ミルドが作業台から顔を上げる。
「今日はどうした?また何か珍しいものでも拾ってきたのか?」
「はい。私では鑑定できなかったものがあるんです」
ソフィアは布に包んだ紫色の宝石を取り出した。
それを見た瞬間、ミルドの表情が変わる。
「……ほう」
宝石を受け取り、専用の鑑定台へ置いた。
ミルドは眼鏡の位置を直し、宝石の内部に流れる魔力を慎重に探る。
魔力の層を一つずつ読み解き、刻まれた古代の術式を確かめていった。
やがて、小さく息を吐く。
「……これは驚いた」
「おじいちゃん、わかったんですか?」
「ああ。これは《魂魄の星晶石》という神話級の魔道具じゃ」
「神話級!?」
ソフィアが目を見開いた。
「そんなものが本当に存在するなんて……!」
「魂を宿す力を持つ、極めて珍しい宝石じゃ。古い文献には、肉体を失った魂を現世へ留めることができると記されておる」
「魂を留める……?」
アステリアが呟いた。
「私たち、この宝石をリッチが消えた場所で拾ったんです」
ユウが説明した。
「ほう。詳しく聞かせてもらえるかの?」
五人は高額報酬の依頼書、最深部にいたリッチ、倒されることを望んでいたような言葉、最後に残した感謝の声を話した。
ミルドは宝石を見つめながら考え込む。
「……なるほど。おそらく、そのリッチはこの宝石に魂を囚われていたのじゃろう」
「囚われていた?」
「うむ。死霊術によって肉体が変質し、魂が宝石に縛られた可能性がある。そうなれば、本人が望んでも簡単には消滅できん」
ミルドは宝石を持ち上げた。
「そして、そのリッチがメチャ・カネアルーネ本人だったとすれば、話がつながる」
「えっ!?」
ユウたちが驚く。
「つまり、依頼主が自分自身を倒してほしかったってこと?」
サキが尋ねた。
「おそらくな。自由に動けず、誰かに助けを求めるしかなかったのじゃろう。生還した冒険者に一時的に干渉し、依頼書を作らせたのかもしれん」
「でも、報酬は用意できなかったんですよね?」
ソフィアが言った。
「そうじゃな。すでに亡くなっておるのなら、財産を自由に動かすことも難しかろう」
「……そっか」
ユウは宝石を見つめる。
「だから、あんなに高い報酬を書いたのかな。誰かに来てもらうために」
「十分考えられることじゃ」
ミルドが頷く。
アステリアは静かに微笑んだ。
「それなら、最後の『ありがとう』は、私たちに向けた言葉だったのかもしれませんね」
「うん。そうだったらいいな」
ユウが答える。
サキは椅子の背もたれに寄りかかった。
「報酬はもらえなかったけど、誰かを助けられたなら悪くないね」
「しかも、こんな珍しい宝石まで手に入ったんだろ?」
ガイが笑う。
「俺たち、結局かなり得したんじゃないか?」
「そうですね。この宝石の価値は、金貨五百枚では到底収まらないでしょう」
ミルドが言うと、全員が目を丸くした。
「ええええっ!?」
「ただし、簡単に売買できる代物ではないぞ。扱いには十分注意せねばならん」
「だったら、しばらくソフィアに預けておこうか」
ユウが言った。
「はい。私が責任を持って保管します!」
ソフィアは宝石を布で包み直し、収納鞄へしまった。
五人はミルドへ礼を言い、店を後にした。
「さて、これからどうする?」
ユウが仲間たちへ尋ねる。
「私はお腹すいた!」
「俺もだ!今日は肉を食おうぜ!」
「またお肉ですか?」
ソフィアが笑った。
「それなら、皆さんで食事に行きましょう。私も少しお腹がすきました」
アステリアの提案に、全員が賛成した。
賑やかな声が遠ざかっていく。
店の窓からその姿を見送っていたミルドは、静かに笑みを浮かべた。
「……まったく、あやつらは相変わらずじゃのう」
机には、神話級の宝石について記した鑑定記録が置かれている。
「未攻略ダンジョンを踏破し、リッチを討伐したうえに、神話級の魔道具まで持ち帰るとは……」
ミルドは楽しそうに笑った。
「これから先、いったいどんな騒ぎを起こしてくれるのやら」
その頃、店を出たユウたちは夕食の相談を始めていた。
「今日は俺のおごりだ!」
ガイが胸を張る。
「えっ、いいの!?」
サキが振り返った。
「おう!好きなだけ食え!」
「それじゃあ、遠慮なく!」
「ガイさん、さっき受け取った報酬、全部使ってしまわないでくださいね」
ソフィアが忠告すると、ガイは豪快に笑った。
「心配するな!そこまで食うやつはいないだろ!」
ユウが少し考え込む。
「……じゃあ、せっかくだし、一番高い料理を頼んでみようかな」
「おい、ユウ!?」
ガイの声が通りに響き、サキとアステリアが楽しそうに笑った。
未攻略ダンジョンの制覇という大仕事も、彼らにとっては数ある冒険の一つにすぎない。
そして彼らは、まだ知らない。
これから先も、想像を超える出来事が次々と待ち受けていることを。
勇者ユウ・シャイニング。
剣聖サキ・スラッシュ。
バトルマスター、ガイ・クラッシュ。
聖女アステリア・ルミエール。
鑑定士、ソフィア・クラウゼル。
五人の冒険は、これからも続いていく。
――そのうち何人かが、とんでもない秘密を抱えたままーー
読んで頂きありがとうございます!
面白いと思って頂けたらコメント、評価や⭐︎を頂けると、とても喜びます。
よろしくお願い致します。




