妻を愛さない物語に転生したのは、百合を愛する悪妻
これが愛さない系物語の私なりのアンサーだ!!
内政はフレーバー程度なので悪しからず、さらっと読んでください。
「貴女たち!そこで何をしているんですか!!?」
二人分の寝息が小さく聞こえる部屋の中で男の驚愕した声が響き渡る。
男の視線の先には天蓋付きのベットがありシーツは“二人分“膨らみが確認できた。
「……うるさい朝ですこと、あら? おはようございます、旦那様」
男の声に反応した一人がゆっくりした動作で起き上がる。長く艶やかな黒髪はサラサラとシーツの上に広がり、上体を起こした彼女の裸体も覆い隠した。
女が衣服を纏っていない事にさらに驚愕した男は指し示す指をそのままにプルプル震え、嫌な結末を予感して体から嫌な汗が滲み出し男を不快にさせていた。
そんな男の様子など微塵も気にしてない女はあくびを隠すことなく披露し大きく腕を伸ばすと、隣で現在も眠っているであろうソレを優しく揺すって起床を促した。
「んっ……?あれ、もう朝ですか……?まだ、ねむい、です……」
完全に寝ぼけている声の持ち主は掠れ気味の小さな声で反応を示し、黒髪の女性に向かって手を伸ばすと彼女の体に抱き付きその豊満な胸の中に顔を埋めた。
ソレの積極的な甘えに女は蕩けるような笑みを浮かべると、よしよしっと頭を撫でて“ソレ“を存分に甘やかし、そのまま再びベットに沈もうとする。
蚊帳の外にいた男も女のその姿にハッとしてどうにか意識を取り戻すと、ベットの二人に向かって荒げた声を向けた。
「あ、貴女は私という夫がいるのにも関わらず、浮気をして、さらには夫婦のベットで淫らなことをしていたというのですか!?」
「──浮気?」
男の言葉にピクリと反応すると女は相手を抱えたまま再び上体を起こした。
騒ぎ立てる男を無表情で見つめた後、フッとバカにしたような笑みを向けながら抱えていた“ソレ“が誰なのか男に答えを見せつけた。
「全く、旦那様ったら心外ですわね。私は妻として夫が懇意にするお相手と“友好”を深めていただけですわ。そうでしょう、リリィ?」
「はい、お姉さま……」
リリィと呼ばれたソレもまた彼女のように裸体であり、儚げな見た目の少女でありながらその表情は情欲を完全に知った女の顔をしており同性である女に心酔している様子であった。
うっとりとした瞳は完全に女に向かっており、第三者である男の事など完全に忘れ果てていた。
「何故だ、リリィ……」
衝撃の大きさからその場に崩れ落ちた男と、甘える少女を片手間であやしながら女は男とのある夜を思い返した。
◇◇
「君を愛するつもりはない」
問一、もし初夜で夫となる男性から物語のテンプレートのような言葉を告げられた場合、妻である自分はどうするべき答えよ。
答え、脳内で勝利のファンファーレを響かせる。
そんなバカな問題と解答を瞬時に導き出しつつ、表情には出ないように黙っていると目の前にいた金髪碧眼のイケメンは部屋から出て行った。
「っっっつつしゃぁぁぁああ!!」
ガッツポーズ。とにかくガッツポーズだ。
体育会系な喜びで一通り喜んだ後、背面のままベットに倒れ夫婦用のベットで一人で大の字を決める。
「やった!ホントにテンプレ言ったよあの旦那様!いやマジでここって『真実の愛はキミと共に』の世界なんだな……」
〜真実の愛はキミと共に〜
整った顔のせいで女性トラブルの被害に遭い女嫌いになった伯爵家の長男であるダニエル・キャベンディッシュは二十歳を過ぎても婚約者どころか結婚すらしていなかった。
しかしお忍びで城下町を歩いている時、心優しい少女──リリィと出会う。
リリィとの交流でダニエルのすさんだ心は癒され、心惹かれるが彼女は平民。両片思いであるが身分差から告白できない男女にさらなる試練が襲い掛かる。
女嫌いを除けばイケメンで超裕福。次期当主間違いなしの優良物件を狙った社交界の毒花ローザリンデ・シュトラウスが侯爵という立場を利用してダニエルと電撃結婚。
ほぼ脅しのような結婚と過去に女嫌いの原因を思い出させるローザリンデの傲慢さに初夜にて牽制を込めた「愛さない」宣言。
リリィという結ばれない女性を胸に秘めつつ、仮初夫婦をしているダニエルの裏で実は高貴な人の隠し子だと判明するリリィ。
平民から貴族入りしたリリィと社交界で再び出会ったダニエル。それを良しとしないローザリンデの妨害。乗り越えるたびに深まるダニエルとリリィの恋。
ま、とにかく最終的に邪魔な女であるローザリンデの悪事がバレて表舞台から退場。ダニエルとリリィが幸せになる恋愛物語である。
物語だと自覚をしている時点で自分もテンプレになぞった物語を知っている”転生者”だ。
幼少期に前世の記憶を思い出し、自分が悪役のローズ──ローゼリンデ・シュトラウスだと自覚して酷く慌てたのを覚えている。
何故なら彼女の物語退場の悪事は幼少期から始まっており、まだ手を染めていないと判明してから落ち着いて高熱でぶっ倒れて家族を心配させるに至った。
「さて、と……」
思い出に浸かるのもほどほどに、ベットの端に座り直して枕元のテーブルに備え付けられていたベルを鳴らす。
その数分後、イケメンの旦那が出て行った扉から落ち着いた雰囲気を醸し出す妙齢の女性が現れる。
「お呼びでしょうか、お嬢様」
クラシカルなロング丈のスカートの給仕服に身を包みキリッとした表情とピンと伸びた背筋、茶髪に青い瞳のスレンダーな体型。クール系美女と呼んでも差し支えないこの女性はローズのメイドであり原作でローザリンデが初めて買った奴隷、そしてすぐに退場するはずだった名無しのモブである。
ローザリンデは奴隷を自身のストレス解消の道具として購入しては使い潰すという悪癖を重ね、その悪事がクライマックスでバレて退場する。なお娘を甘やかして奴隷購入を黙認していた侯爵家もついでに没落する。
そんな原作を知っている自分は幼少期のうちに解決に乗り出し、奴隷売買を逆に摘発。そして多くの奴隷を救出し善良な貴族として多くの福祉事業を運営し名声を轟かせ両親との健全な関係を構築。またモブで退場する初奴隷は自らの手で救いだし名付けて見習いメイドとして傍に置き続け、教育とマナーと愛情をたっぷり詰め込んだ。
一番信頼できる部下として育った彼女を実家から連れて来たのである。
「ねぇ、ノア……旦那様ったら『愛さない』と言った挙句、初夜を放り出して出て行ってしまったのよ……私が一体何をしたというのかしら」
「そんな⁉︎旦那様は一体何をお考えに……?恋愛結婚ではないと初めから理解した上でのご結婚のはずでしたのに、妻であるお嬢様に向かってなん発言を……‼︎」
手元の明かりはいい感じに俯いた自分の表情をメイドから隠した。
見下ろしている彼女からは悲しみで震えているように見えているだろうが、ただ単に喜びで震えて絶対に見せられない悪い顔をしているだけである。
「元を正せば、ダニエル様の将来を不安視した現当主であるダニエル様のお父様が侯爵家に頼み込んで、利害の一致で成立したご結婚のはずでは……?」
「ダメよノア。悪く言っては……誰が聞いているか分からないもの」
ハッとした後、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるメイドをチラ見で確認して満足する。
この優秀なメイドはちゃんと深読みして意図を汲み取ってくれたらしい。
女嫌いの主人が急に結婚しました。でも見るからに悪女そうな女です。でも初夜はすっぽかしました。
さて、その屋敷の従者たちに、特に女にバレたら──ねぇ?
「お嬢様……私は何があってもお嬢様の味方です」
「ありがとうノア……貴女だけが私の味方よ」
感動を装ってメイドに抱き付くと、メイドもまた抱き締め返し二人は強い絆を自覚しました──なんて、足りない。
「……私、以前風の噂で聞いたことがあるの、ダニエル様には“懇意にしている相手がいる“と」
「……!?まさかダニエル様は……‼︎」
「これは貴女にしか頼めないのだけれど……ノア、貴女にはその人を見つけて来て欲しいの」
秘密を打ち明けるような声音で、驚愕に震えるメイドの耳元でそっと呟く。
自分の声をとびっきり甘く艶やかに、彼女の頬をそっと撫でる。
「お、お嬢様……?」
異変だと悟られないうちにメイドの手を強引に引っ張ると、そのままベットの上に一緒に倒れる。
ベットの上に無防備に倒れ伏す主人と、まるで押し倒したかのように上に跨るメイド。
初夜としてメイキングされたベットは現在の自分の悪巧みの後押しするようで、完全に掴みはいい。後は──。
「まずは今日を、乗り越えるべきだと思うの……誰がどう見ても今夜“初夜“が行われた“証“が必要よ」
この雰囲気に完全に呑み込まれているメイドはゴクリと喉を鳴らした。
追い打ちをかけるかのように彼女の首に手を回すし、互いの顔の距離を縮める。
「無理強いはしないわ……フリでもいいの、お願いノア。今夜、私を──」
◇◇
──良かった、とにかく良かった。
あの日のメイドとの夜はかなり燃えた。
原作改変の時点でメイドにはかなり甘く優しく接していたのが、漸く実ったのだと自画自賛した。
原作のローザリンデが捨て去ったものを“自分“が拾い上げたってバチは当たらないよねーと、強気で挑んだ結果である。
その後、初夜は行われたと周囲に錯覚させることに成功し、リリィの捜索も数日も掛からなかった。
そりゃ原作を知っているから何処に向かえば会えるかなんて一発よ。
とにかく、夫婦仲を疑われる前の高貴な人物に発見される前にメイドによってリリィと対面して、現在リリィは自分の腕の中にいまーす。
あ、自分の旦那様も部屋に居まーす。泥沼だな?
「リリィ……」
もはや廃人のようにか細い声を出す旦那様に喝を入れるべく、自分が起き上がって不安そうな顔をするリリィをキスで可愛がり、ローブを纏って旦那様の元へ向かう。
旦那様如きが見ていい安い身体じゃないんでね、念の為。
「勘違いしないでくださいね旦那様?私、旦那様とリリィの恋事を応援しているのよ?」
「──はっ?」
絶望した顔から素っ頓狂な顔になってもイケメンはイケメンなのだと顔面偏差値を見せつけられた所で、旦那様に心の中で何度も練習したお遊戯を披露する。
「初夜での行動を顧みて私たちの子は養子か、あるいは私の離縁も考えていました……けれど聞くところによると旦那様には意中のお方がいる、とのこと!だから私考えました」
舞台女優のように大袈裟な声と表情、立ち振る舞いは完璧。そしてとっておきの台詞。
「旦那様の意中のお相手に“子を産んでもらえばいい“、と」
「なに、を……何を言っているんだ貴女は……」
一応は妻である自分に向ける旦那様の顔はまるで化け物に向けるそれと同様であり理解が出来ないと言った様子である。
そりゃまぁ、純粋純朴で育った坊ちゃんにはキツかろう。自分だってヤバい自覚はある。だが“目的“のために女優を演じ切らせてもらう。
「まずはリリィを私のメイドとして雇います。あ、教育係も資金も心配なさらないでこちらで用意いたしますので。婚姻の際に契約しましたよね?私の個人資産は私で管理、運用する、と。金銭的に余裕がある伯爵家もそれに納得したでしょう?」
原作通りだと強引に結婚したのはローザリンデ側だが、原作改変の結果。ダニエル側が頼み込んで結婚をしている。その際勿論バレない程度の優位箇所はねじこんだ。
身分は自分が上で頼み込まれた結婚だ、伯爵家も超裕福で共有資産なくても家を回していく財力はあるし。なら嫁に個人資産があってもいいだろ。
「き、貴族社会が、そんな真似を認めるわけないだろう!!
「あら?先に貴族のルールを違反していたのは旦那様でしょう?」
「……!!」
あらら、頑張って絞り出した言葉が即論破されてますます可哀想。でも先に喧嘩売ったの旦那様だし。それにリリィにも関係する話だし巻き込むか。
「ねぇ、リリィ?この人はどんな風に貴女と交流していたの?」
「ダニーは……いえ、ダニエル様は名前と身分を偽り私に何度も会いに来ました」
原作では下町で活動する際にダニエルは名前と身分を偽装してリリィとの逢瀬を楽しんでいたと、記載がある。しかしこの逢瀬の内容が非常によろしくない。
「最初は偶然でしたが、手を繋いだり……ハグをしたり……」
「肉体関係も結んでしまった?」
「い、いいえ!!誓ってダニエル様と肉体関係はなく……というか初めてはお姉さまで……その、き、キスはしました……」
いやホント酷いね。
いくら原作がダニエルとリリィの物語といえど、リリィの平民時代に既に軽度のふれあいした挙句、妻との結婚を機にけじめとしてリリィに最後の別れを告げるシーンがあるのだが勢い余って二人はキスをするのである。
んで心の中にはリリィが常にいて妻は冷遇し続けるんでしょ?完全に浮気やん。ま、最後だと別れた最愛の女は妻と寝ていたわけだが。
「ほら、やっぱり旦那様はリリィを愛している……私との初夜も放り投げるわけですわ」
「……」
青ざめて最早何も言えなくなったダニエルを別にいじめたいわけではないのでいい加減この話をまとめよう。
「もし産まれる子供がお二人の姿を受け継いでいても旦那様もリリィも金髪碧眼。旦那様に似たのだと私は主張しますし、もし疑うような人間がいれば黙らせてしまえばいいの。私たちにはそれが出来る権力も財力もあるでしょう?」
「……」
「それに私はリリィも生まれてくる子供たちも虐げることなく愛すると誓います。もし違反した場合、私の有責で離縁をするといった内容の誓約書だって書くつもりです」
「……どうしてそこまで献身的なんだ?」
疑いつつも希望を見出したような表情をする旦那様の姿に思わず笑みがこぼれそうになるのを必死に食い止め、様子を伺っていたリリィに明るく声をかける。
「ね!リリィも旦那様の子供を産みたいでしょ?」
「お姉様が望まれるのなら私はダニエル様の子を産んでみせます」
心から心酔しているような顔のリリィは完全にローズのイエスマンと化し、そんな彼女を切なそうに見つめるダニエル。場を仕切っているローズはダニエルに手を差し出す。
「リリィも納得してくれましたわ!さぁ旦那様もいつまでも座り込んでいないで立ち上がってください」
「……君は一体、何が目的なんだ?」
釈然としていないが手を確かに握り返した旦那様に等々、にいっと笑ってしまった。
「リリィに子供を産んで貰いたいと思っているだけですよ──俺は」
その後。
伯爵家では妻に似た特徴を持つ子供は一切産まれなかったが。
妻である夫人は子供たちを大層可愛がり、夫人の側には常に二人のメイドが彼女を支えたと言う。
当主となった旦那様仕事熱心ではあまり家に帰ることはなかったが誰も気に留めることはなかったのである。
蛇足話【とある異物の主張】と
登場人物の【裏設定】を活動報告に掲載してます。




