表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風葬のシルヴァ  作者:
ifストーリー
82/88

if第21話 魔道都市アストラ

 音が、先に戻ってきた。

 カチ、カチ、と規則的な駆動音。生き物の鼓動ではないが、どこか“脈”のようにも聞こえる不思議なリズムだった。

 その音に引き上げられるように、意識が浮かぶ。


「……起きた?」


 すぐ近くから声。シルヴァはゆっくりと目を開けた。


 視界に入ったのは白い天井。だがただの天井ではない。幾何学的な紋様が刻まれ、その溝の中を淡い魔力の光が流れている。建物そのものが“呼吸”しているようだった。


「……ここ……」


「魔道都市アストラ。医療区画よ」


 ティナが答える。ベッドの横に立ち、腕と脇腹には包帯。顔色はまだ悪いが、意識ははっきりしている。


 シルヴァは上体を起こす。鈍い痛みが走るが――動く。


「無理しないで」


「……どれくらい寝てた」


「四日」


 短い答え。


「他は」


「全員生きてる」


 それを聞いた瞬間、身体の力が少し抜けた。


 周囲を見渡す。青みがかった石の床、壁一面に刻まれた魔導陣。すべてに濃い魔力が流れている。外とは比べものにならない密度だった。


 そして――人がいない。


「……ほんとに、誰もいねぇな」


「当たり前でしょ。ここ、ミルスが作った都市なんだから」


「全部、あれってことか」


 視線の先で、人型の機構が動いている。白い外殻、滑らかな関節、目の代わりに灯る青い光。無言で、正確に、ベッドの間を行き来していた。


 一体がこちらに近づき、腕から細い光を伸ばす。


「生体状態確認。安定域」


 無機質な声。それだけ告げて離れていく。


「……便利すぎるだろ」


「便利っていうか、ちょっと怖いよね」


「分かる」


 機械は動き、魔力も流れている。それなのに、人の気配がない。どこか“止まっている都市”のようだった。


「お、起きた」


 入口からクジャの声。肩と脚に包帯を巻いたまま、いつも通りの顔で立っている。


「いやー、ほんと死ぬかと思った」


「軽いな」


「重く考えるとしんどいからね。僕、まだまともに動けないけど」


「見れば分かる」


 扉が開き、ミルスが入ってくる。杖をつき、全身に包帯。それでも背筋は崩れていない。


「全員、生存確認。問題なし」


 その一言で、場の空気がわずかに緩んだ。


 少しの沈黙のあと、シルヴァが言う。


「……負けたな」


「うん、完全にね」


 クジャがあっさり返す。


「ネメシス、あれは無理でしょ」


「……動けなかった」


 ティナが呟く。


「疲弊してたとはいえ、一方的すぎた」


 ミルスが頷く。


「ええ。力の差は明確だった」


 シルヴァは目を閉じる。影の刃、貫かれた感触、何もできなかった事実。


「……でもさ」


 クジャが言う。


「止まったよね、最後」


「……ああ」


「追ってこなかった」


「違うわ」


 ミルスが言う。


「追えなかったのよ」


 空気が少し変わる。


「第五の核。完全には馴染んでない。適応中よ」


「無理に動けば自壊する可能性がある……ってことか」


「そういうこと」


 クジャが息を吐く。


「なるほどね……じゃあ次会うときは?」


 ミルスは迷わなかった。


「完成してる」


 沈黙。


「……最悪じゃん」


「ええ、最悪よ」


 だが、シルヴァは拳を握る。


「関係ねぇ」


 短く言う。


「取り返す。第三も第五も」


 ティナが小さく笑う。


「だよね」


「僕も同意。このまま終わりはつまらないし」


 ミルスが頷く。


「なら鍛えるしかない。アストラの中枢を使う」


「時間圧縮か」


「ええ。ただし制限がある」


 全員が見る。


「さっきの転移で魔力炉に無理をさせた。長時間は維持できない」


「どれくらい?」


「外で数日。中で数ヶ月」


 クジャが苦笑する。


「いや、それでも十分おかしいよ」


「無理した分のツケよ。使うならこれが最後」


 沈黙。


 シルヴァは迷わなかった。


「やる」


「即答だね」


「他にない」


「私も行く」


「僕も」


 ミルスが小さく頷く。


「決まりね」


 シルヴァは拳を握る。まだ弱い。だが止まらない。


「ネメシス」


 小さく呟く。


「次は――倒す」


 誰も否定しなかった。


 魔導機構の駆動音だけが、静かに響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ