第79話 戦いの終わり
風が止んだ。
魔王リベリオン•ゼノアが消滅した瞬間、空間を覆っていた闇が嘘のように消えていく。
崩壊した玉座の間。
砕けた床。
倒れた柱。
瓦礫の中心で、シルヴァは剣を握ったまま立っていた。
風はもう荒れていない。
静かな空気だけが流れている。
やがて。
ティナがゆっくり近づいた。
「……終わった?」
シルヴァは空を見上げた。
黒かった空が、少しずつ晴れていく。
長い間この大陸を覆っていた闇が、霧のように消えていた。
「終わったな」
短く答える。
その声を聞いた瞬間。
ティナはその場に座り込んだ。
「はあ……」
大きく息を吐く。
「ほんと、やっとね」
クジャもゆっくり歩いてくる。
カードを一枚くるくると指で回しながら、苦笑した。
「ラスボス戦、ちゃんとラスボスだったね」
「軽いわよ」
ティナが呆れる。
「だって本当に死ぬかと思ったし」
クジャは肩をすくめる。
ミルスは壁にもたれたまま、静かに目を閉じていた。
重傷。
だが命に別状はない。
ティナが振り向く。
「ミルス、大丈夫?」
ミルスはゆっくり目を開けた。
「ええ」
少しだけ笑う。
「魔王が消えたなら、あとはどうにでもなる」
その言葉の直後。
ゴゴゴゴ……と低い音が響いた。
クジャが天井を見る。
「あ」
ティナも気づく。
「これ」
シルヴァが言う。
「城が崩れる」
一秒。
沈黙。
「早く言いなさいよ!!」
ティナが叫ぶ。
その瞬間。
魔王城が大きく揺れた。
柱が倒れる。
壁が崩れる。
天井が落ちる。
クジャが笑いながら叫ぶ。
「脱出タイム!」
シルヴァがミルスを肩に担ぐ。
「走るぞ」
ティナが先導する。
四人は崩れ落ちる城の中を駆け抜けた。
廊下が崩れる。
階段が落ちる。
瓦礫が落下する。
だが。
四人は止まらない。
そして。
最後の門を飛び出した。
その瞬間。
ドォォォォォォォォォン!!
背後で魔王城が崩壊した。
巨大な城が、音を立てて崩れ落ちる。
砂煙が夜空へ舞い上がる。
しばらく。
誰も何も言わなかった。
ただ、瓦礫の山を見つめている。
やがて。
クジャがぽつりと言った。
「終わったね」
ティナが頷く。
「ええ」
ミルスも小さく息を吐いた。
「長かったわね」
シルヴァは黙ったまま、空を見上げる。
夜空。
だが、闇はもう重くない。
風が静かに吹く。
遠くで、夜鳥が鳴いた。
世界は、確かに変わった。
魔王は消えた。
六魔王も消えた。
長い戦いが、ようやく終わったのだ。
ティナがシルヴァを見る。
「ねえ」
「何だ」
「これからどうするの?」
シルヴァは少しだけ考えた。
そして。
静かに言った。
「まだ分からん」
クジャが笑う。
「それっぽい主人公のセリフ」
ティナが呆れる。
「ほんとね」
ミルスも小さく笑った。
その時。
風が少しだけ強く吹いた。
まるで。
長い物語の終わりを祝うように。




