第61話 氷の王の終焉
魔王城――中央塔。
塔の中心を貫く巨大な円形広間。
黒い石の床に刻まれた魔法紋様が、鈍い紫色の光を放っている。
その中央に、一人の男が立っていた。
ラース。
白銀の髪。
冷たい瞳。
そして、圧倒的な魔力。
その体内には三つの核が宿っている。
第二魔王。
第五魔王。
そして第六魔王――ラース自身。
三つの魔王核が共鳴するたび、空気が凍りついた。
床に霜が走る。
ラースはゆっくりと剣を抜いた。
「出てこい」
低い声。
それだけで広間の温度が下がる。
数秒の沈黙。
そして。
空間が裂けた。
黒い亀裂。
そこから歩み出る男。
白髪。
黒衣。
冷たい瞳。
ジェネシス。
魔王軍参謀。
ラースは口の端を歪めた。
「やっと出てきたか」
ジェネシスは静かに答える。
「第六魔王ラース・ライズ」
「第二と第五の核を取り込んだ存在」
「回収に来た」
ラースが笑う。
「回収?」
剣を肩に担ぐ。
「寝言は寝て言え」
次の瞬間。
ラースが踏み込んだ。
ドォン!!
氷の衝撃波が広間を裂く。
振り下ろされる斬撃。
「氷獄断」
凍結した斬撃が空間を割る。
だが。
ジェネシスの前で空間が歪む。
斬撃が逸れる。
壁が破壊された。
ラースは止まらない。
次の踏み込み。
氷の連撃。
広間が凍りつく。
ジェネシスは空間を折り曲げながら攻撃を受け流す。
だが。
ラースはそれを読んでいた。
「そこだ」
剣が空間を斬る。
ザン!!
ジェネシスの頬が裂けた。
血が飛ぶ。
ジェネシスの目がわずかに細くなる。
ラースが笑う。
「避けきれねぇだろ」
その瞬間。
三つの核が共鳴した。
ドクン。
中央塔が震える。
ラースの背後に巨大な氷の翼が広がる。
「氷界」
広間全体が凍りついた。
床。
壁。
天井。
すべて氷の領域。
ジェネシスの足元にも氷が迫る。
「逃げ場はねぇ」
ラースが剣を掲げる。
「氷葬墜星」
天井に巨大な氷塊が現れる。
それが一斉に落下した。
ドォォォォォン!!
中央塔が大きく揺れる。
氷の嵐。
瓦礫。
衝撃。
広間の半分が崩壊する。
ラースは荒く息を吐いた。
「終わりだ」
だが。
氷の山が崩れる。
闇の魔力が爆発した。
ジェネシスが立っている。
肩から血を流しながら。
衣は裂け、身体にも氷の裂傷が刻まれている。
だが致命傷ではない。
ジェネシスは静かに言う。
「……想像以上だ」
次の瞬間。
空間が歪む。
ジェネシスが消える。
ラースの背後。
衝撃。
ドォン!!
ラースが柱を破壊して吹き飛ぶ。
それでも立つ。
剣を構える。
「まだだ」
三つの核がさらに共鳴する。
魔力が暴走する。
ラースの瞳が赤く染まる。
「終わらせる」
剣に氷と闇が混ざる。
「凍葬魔断」
世界を裂く一撃。
ジェネシスが空間を歪める。
だが完全には避けきれない。
ザァァァン!!
ジェネシスの胸が斬り裂かれる。
血が噴き出した。
ジェネシスが大きく後退する。
明らかに中傷。
ラースが笑う。
「どうした」
「魔王の犬」
だが。
次の瞬間。
ジェネシスの手がラースの胸に触れた。
「回収する」
ドン!!
空間が内側から爆ぜる。
ラースの身体が硬直する。
胸が光る。
三つの核。
第二。
第五。
第六。
ラースが叫ぶ。
「やめろ!!」
氷の嵐が爆発する。
中央塔の壁が崩れる。
それでも。
ジェネシスの手は止まらない。
「強かった」
ズズッ――
三つの核が引き抜かれる。
ラースの膝が崩れた。
剣が落ちる。
ジェネシスは血を流しながら三つの核を握る。
「これで三つ」
ラースは倒れた。
呼吸が浅い。
意識が遠のく。
その時。
中央塔へ近づく気配。
シルヴァ。
ティナ。
クジャ。
ミルス。
ラースの瞳がわずかに動く。
「……来たか」
もし。
このまま核を持ったまま進めていたら。
自分が王になれたのか。
魔王を超えられたのか。
ラースの拳が震える。
「……クソ」
脳裏に浮かぶ白い髪。
シルヴァ。
ラースは小さく笑った。
「……甘ぇんだよ」
だが。
その甘さでここまで来た。
仲間を守り。
魔王に立ち向かう。
ラースは小さく息を吐く。
「王……」
自分がなるべきだったのか。
それとも――
答えは出ない。
最後まで。
葛藤のまま。
ラースは笑った。
「……クソが」
そのまま。
ラース・ライズの瞳から光が消えた。
中央塔に静寂が落ちる。
ジェネシスは血を押さえながら呟く。
「だが」
闇の魔力が膨れ上がる。
「まだ終わりではない」
中央塔の入口が開く。
そこに立っていたのは――
シルヴァ達だった。




