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風葬のシルヴァ  作者:
第一章 風の少年
5/80

第5話 開幕

 翌朝。

 王都の空はよく晴れていた。


 だが、シルヴァは起きた瞬間に嫌な感覚を覚えた。

 風が騒がしい。街全体が、何かを待っているみたいに落ち着かない。


 宿の食堂へ降りると、ティナはもう起きていた。

 きっちり身支度を整え、朝食のパンを食べている。だが、いつもより静かだ。


「緊張してるのか」


「……ちょっとだけ」


「珍しいな」


「あなたはしてないの?」


「してるわけないだろ」


 そこへクジャが眠そうな顔で現れた。

 髪は少し跳ねているし、眼帯もいつもより雑につけられている。


「おはよ……」


「遅い」


「寝るのも才能だよ」


 クジャはパンを一つ咥えたまま椅子に座り、それからぼそりと呟いた。


「今日、絶対何かある」


 ティナが顔を上げる。


「根拠は?」


「夢見た」


「雑な根拠ね」


「でも当たるよ、こういうの」


 そう言いながらも、クジャの指先は無意識に眼帯に触れている。

 それを見て、シルヴァは何も言わず席を立った。


「行くぞ」


 闘技場は朝から満員だった。

 観客席を埋め尽くす人、人、人。

 歓声、賭け屋の声、実況席の拡声魔法。祭りの熱気は十分すぎるほどだ。


 三人は選手用通路へ案内され、それぞれ控室へ向かった。

 シルヴァの控室には既に何人かの参加者がいた。筋骨隆々の槍使い、斧を背負った大男、細身の双剣士――いずれも腕に覚えがあるのだろう。


 だが、シルヴァが入った瞬間、その空気が微妙に変わった。


「……白髪」

「噂の」

「風葬か」


 聞こえるような声量で囁くのが気に食わない。


「見せ物じゃねぇぞ」


 シルヴァが一言落とすと、男たちは目を逸らした。


 第一試合、第二試合が始まる。

 控室の上からも歓声が響く。いよいよ第三試合、シルヴァの出番だ。


 係員が扉を開けた。


「第三試合、シルヴァ・無所属。入場してください」


 シルヴァは立ち上がる。

 通路の先、眩しい光。その向こうには大歓声。


 土のフィールドに足を踏み入れた瞬間、実況の声が響いた。


『さぁ第三試合! 注目の新鋭、北方から現れた白髪の剣士――シルヴァァァァ!!』


 観客席が揺れる。


『対するは、南方連盟代表! “鉄槍”バルト!!』


 相手は長槍の男だった。三十近い。経験の差だけなら圧倒的に向こうが上だろう。


 だが、シルヴァは男の目を見た瞬間に分かった。

 濁っている。闇属性の気配が薄く混ざっている。


「……お前」


「喋るなガキ」


 男は槍を回す。

 その動きに無駄はない。だが、オーラの流れが不自然だ。誰かに底上げされている。


『始めッ!』


 合図と同時にバルトが突っ込んでくる。

 槍が伸びる。連突。速い。観客から歓声が上がる。


 シルヴァは半歩ずつずらしながら、その軌道だけを見ていた。


「……雑だな」


 四撃目の突きが来た瞬間、踏み込む。


「風脚」


 一気に間合いを潰す。

 槍使いにとって最悪の距離。


「なっ――」


「風刃」


 槍の柄が中ほどから裂ける。

 同時に柄を握る腕へ衝撃が走り、男は槍を取り落とした。


 シルヴァはそのまま鞘で腹を打つ。

 男の身体が浮き、地面へ転がった。


 静寂。


 次の瞬間、歓声が爆発する。


『は、速いぃぃぃ!! 一瞬! 一瞬で決まったァァァ!!』


 観客がざわめく。


「今の見たか?」

「槍を折ったぞ」

「風だ……!」

「風葬のシルヴァだ!」


 シルヴァは歓声に興味もなく、ただ上の席を見た。

 影の特別席。その奥に、確かに視線がある。


 見ている。

 値踏みしている。


 土の上に転がるバルトが、悔しげに呻いたその時だった。


 彼の胸元が黒く光った。


「……!」


 シルヴァが目を細める。

 次の瞬間、男の身体から闇が噴き出した。


 観客席が悲鳴に変わる。


『な、何だぁぁ!?』


 バルトの筋肉が膨れ上がり、血管が黒く浮く。理性が消えた目で、彼は四つん這いに立ち上がった。


「が、あぁぁぁ……!」


 暴走だ。

 魔導具による強化の副作用か、それとも最初からこれが狙いか。


「やっぱり仕込んでやがったか」


 シルヴァは剣の柄を握り直す。


 観客を巻き込む前に終わらせる。

 そう判断した瞬間、風が静かに彼の周りへ集まり始めた。

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