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風葬のシルヴァ  作者:
第四章 氷の牙
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第47話 終焉氷獄

氷の広間に、深い静寂が落ちた。


 シルヴァとラース。

 互いに傷を負いながら、なお剣を下ろさない。


 白い息だけが二人の間を流れ、床に落ちた血がじわりと凍っていく。


 ティナは唇を噛んだ。


「……まだ、上があるの」


 その問いに答えたのはミルスだった。


「あるわ」


 短いが重い返答。


 クジャが眼帯の上から前方を見つめる。


「嫌なやつ」


「何が見えてるの?」


 ティナが聞くと、クジャは珍しく笑わなかった。


「ラースの中の核が、もう一段深いところで開く」


「たぶん、次が本気」


 その時、ラースがゆっくりと剣を下ろした。


「シルヴァ」


「なんだ」


「ここまで来たなら、見せておくべきだな」


 ラースの周囲で、冷気が変質する。


 今までの氷とは違う。

 ただ凍らせるのではなく、“終わらせるための冷たさ”だと本能が理解した。


 床が白く染まる。

 壁も、天井も、広間そのものが青白い霜に覆われていく。


 ミルスの顔色が変わる。


「まずい」


「何が!?」


 ティナが叫ぶ。


「この空間ごと凍結する気よ」


 ラースが静かに言った。


「終焉氷獄」


 その名が落ちた瞬間、世界の音が消えた。


 冷気が“広がる”のではない。

 空間そのものが、終わりへ向かって凍り始める。


 ティナの足元から霜が這い上がる。


「っ、動きが……!」


 クジャも片膝をつく。


「これは……やばいね」


 ミルスが結界を展開する。


「二人とも下がって!」


 重力障壁が展開され、冷気の流れをわずかにずらす。

 それでも完全には防げない。肌が痛い。呼吸が白く砕けそうだった。


 一方、シルヴァは正面からそれを受けていた。


 風をまとっている。

 だが、押し返せない。


 ラースの氷は、出力だけなら今までの比ではなかった。第二魔王の核を取り込んだ力が、完全に開いている。


「これが今の俺だ」


 ラースの声は、どこまでも冷たい。


「お前は止められるか」


 シルヴァは答えず、ただ剣を強く握った。


 寒い。

 痛い。

 身体の芯まで凍るような冷たさ。


 だが、それ以上に腹が立つ。


「……上等だ」


 風が荒れた。


 いや、荒れたのではない。

 凍りつく空間の中で、シルヴァの風だけが逆に熱を帯びたように暴れ始める。


 ミルスが目を見開く。


「来る……!」


 ティナが息を呑む。


「シルヴァ……?」


 シルヴァは、凍りついた床を一歩踏み抜いた。


「蒼嵐じゃ足りねぇなら」


 もう一歩。


 風が集まる。

 足元だけじゃない。広間全体に散っていた空気が、彼の剣へ引き寄せられていく。


「もっと深く、掴む」


 ラースの瞳がわずかに揺れる。


「……それか」


 シルヴァの身体を、蒼い気流が包む。


 ただの風じゃない。

 刃でもない。

 意志を持った嵐そのものが、彼の周囲で形を取り始めていた。


「神風――」


 その言葉が、ティナの胸を打つ。


 神に作られた風。

 魔王を断つための風。


 シルヴァはまだ完全には掴めていない。

 それでも、今だけは確かに、その入口へ指先が届いた。


「来い、兄貴」


 ラースが、ほんの少しだけ笑った。


「上等だ」


 二人が同時に踏み込む。


 氷獄と神風。

 白と蒼が、真正面から衝突した。

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