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風葬のシルヴァ  作者:
第四章 氷の牙
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第46話 兄弟戦

 最初の一撃は、互いの呼吸を読むためのものだった。


 シルヴァが踏み込む。

 ラースが半歩だけずらす。

 刃がぶつかり、氷と風が弾ける。


 キィィィン――!


 その音だけで、ティナは背筋が粟立つのを感じた。


「昨日より重い……」


「本気だからね」


 クジャが低く言う。


 氷の広間は、ラースにとって完全な地の利があった。

 床も壁も天井も、全部が彼の魔力に共鳴している。ここでは一歩ごとに冷気が増し、一振りごとに氷の刃が生まれる。


 シルヴァはそれを分かっていながら、なお正面から踏み込んでいく。


「蒼嵐・残刃」


 蒼い軌跡が残る。

 ラースはそれを避けながら、遅れて走る刃の位置まで読んでいた。


「浅い」


 氷の剣が横薙ぎに来る。

 シルヴァは受けずに沈み込み、そのまま下から斬り上げた。


「風断!」


 ラースの外套が裂ける。

 今度は浅くない。


 ラースがすぐに距離を取る。


「……成長した」


「知ってる」


「言うようになったな」


「兄貴にだけだ」


 その短いやり取りだけで、ティナの胸が変にざわつく。

 殺し合いの一歩手前なのに、兄弟の会話でもある。だから余計に苦しい。


 ラースの周囲に氷の粒が浮かぶ。


「なら、もう一段見せてやる」


 剣を掲げる。

 次の瞬間、広間全体の空気が凍りついた。


「氷界」


 床一面から氷の柱が生える。

 それだけではない。天井にも、壁にも、無数の氷刃が浮かび上がり、シルヴァへ向かって一斉に降り注いだ。


「シルヴァ!」


 ティナが叫ぶ。


 だがシルヴァは逃げない。


 風を全身へまとい、足元だけでなく周囲の空気も巻き込む。


「蒼嵐」


 氷刃の間を縫う。

 切る。避ける。踏み込む。


 残された蒼い軌跡が、降り注ぐ氷を遅れて断ち切っていく。


 ラースの目が細くなる。


「そうだ」


「それでいい」


 シルヴァは一気に間合いへ入った。


 氷と風。

 白と蒼。

 何十合もの剣戟が、一瞬の中へ凝縮される。


 そして、シルヴァの刃が初めてラースの肩口を深く裂いた。


 赤が飛ぶ。


 ティナが息を呑む。


「当たった……!」


 だが次の瞬間、ラースの反撃も決まる。


 氷の拳圧がシルヴァの脇腹へ叩き込まれ、彼の身体が後方へ吹き飛ばされた。


「シルヴァ!」


 ティナが一歩出る。

 クジャもカードを構えた。


 だがミルスが腕を伸ばして二人を止める。


「まだ」


「でも!」


「これは、まだ二人の戦いよ」


 シルヴァは床に膝をつきながらも、すぐに立ち上がった。

 息は荒い。だが目は折れていない。


 ラースもまた、肩口の血を拭い、弟を見ていた。


「……いい顔だ」


「そっちもな」


「お前に言われるとは思わなかった」


「思っとけ」


 ティナは、自分でも気づかないうちに拳を握りしめていた。


 怖い。

 でも目を逸らせない。


 クジャは眼帯を押さえたまま、小さく呟く。


「まだ決まらない」


「ええ」


 ミルスの声も静かだ。


「ここから先が本番」


 氷の広間の奥で、冷気がさらに濃くなる。


 兄弟戦は、まだ前哨に過ぎなかった。

 ここから先、シルヴァはラースの“核を取り込んだ魔王としての本気”を見ることになる。

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