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風葬のシルヴァ  作者:
第四章 氷の牙
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第40話 吹雪の夜

 吹雪を避けて辿り着いたのは、山腹の裂け目のような洞窟だった。


 広くはない。

 だが奥行きはあり、入口から少し入れば風は弱まる。雪を凌ぐには十分だった。


 ティナが洞窟の壁にもたれ、そのまま座り込む。


「助かった……」


「まだ助かってないわよ」


 ミルスは入口へ簡易結界を張りながら言う。


「この吹雪、普通じゃない。夜の間じゅう続くかもしれない」


「最悪だね」


 クジャが火打ち石を弄りながら言う。


「でも、ちょっとだけ落ち着く」


 火が起こる。

 揺れる炎が洞窟の天井を赤く染めた。


 外では吹雪が吠えている。

 風の音が獣の唸り声みたいに聞こえた。


 シルヴァは入口近くの岩へ腰掛け、ずっと外を見ていた。


「……」


「気になる?」


 ミルスが問う。


「見られてる」


 シルヴァは短く答える。


「ラース?」


「たぶんな」


 ティナは火の前で手を擦り合わせながら、少しだけ眉を寄せた。


「ずっと監視してるのね」


「そういう男よ」


 ミルスは平然と言う。


「来るなら来ればいいのに」


 ティナの言葉に、クジャが苦笑する。


「それやると“待ち構えてました感”が出るからじゃない?」


「何よその理由」


「でもラースっぽい」


 シルヴァが小さく鼻を鳴らした。


「否定はできねぇ」


 簡単な食事を済ませたあと、四人は火を囲んでいた。

 吹雪の夜は長い。眠るにはまだ早いし、かといって訓練をするには狭すぎる。


 自然と、会話が落ちてくる。


 最初に口を開いたのはティナだった。


「ねえ」


「何だ」


「ラースって、昔からああだったの?」


 シルヴァは少しだけ考える。


「……いや」


「違った?」


「もっと喋ってた」


 その答えに、ティナとクジャが同時に目を丸くした。


「想像できない」

「全然できない」


 シルヴァは火を見ながら続ける。


「俺より五つ上で、何でもできた。剣も魔法も、頭も良かった」


「村じゃ誰も勝てなかった」


「じゃあ優秀なお兄ちゃんだったんだ」


「まあな」


「今も優秀ではあるけど」


 クジャが言う。


「方向性が最悪なだけで」


「否定できない」


 ティナが苦笑する。


 シルヴァはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと言った。


「でも、昔はもっと分かりやすかった」


「どういう意味?」


「守る時は守る、怒る時は怒る、笑う時は笑う」


「今は全部削ってる感じだな」


 洞窟の中に、吹雪の音が低く響く。


 ティナは火を見つめながら言う。


「それって、魔王の力を取り込んだから?」


「それだけじゃないわね」


 答えたのはミルスだった。


「ラースは、あの子なりにずっと“人間でいること”と“魔王になること”の間で削れてきたのよ」


「第三勢力なんて聞こえはいいけど、本当はどこにも立てない場所でもある」


「……」


 シルヴァは何も言わなかった。

 だがその横顔が、少しだけ硬くなったのをティナは見た。


「じゃあ、あの人を止めるのは」


 ティナの言葉の続きを、クジャが引き取る。


「シルヴァしかいないって感じ?」


 シルヴァは小さく息を吐いた。


「知らん」


「またそれ」


「でも、他にやる奴がいないならやるだけだ」


 その答えに、ティナは少しだけ笑う。


「やっぱりそう言うと思った」


 火は小さく揺れ続ける。

 外は吹雪。中は、束の間のぬくもり。


 そしてその夜、見張りの交代の時だった。


 シルヴァが洞窟の外へ一歩出た瞬間、吹雪の向こうに人影を見た。


 銀髪。

 黒い外套。


 ラース。


 距離はある。声は届かない。

 だが、彼は確かにそこに立っていた。


「……来たか」


 シルヴァが呟く。


 ラースは吹雪の中でほんの僅かに口元を動かし、そして、くるりと背を向けた。


 “追えるなら追ってこい”。


 そう言われた気がした。


 シルヴァが踏み出しかけた瞬間、背後からミルスの声が飛ぶ。


「行かない」


「……」


「今は向こうの土俵よ」


 ティナとクジャも起きてきていた。


「いたの?」


 ティナが聞く。


「ああ」


「追わなくていいの?」


「今は、ね」


 ミルスがきっぱりと言う。


「焦って乗ると、向こうの思う壺よ」


 シルヴァは唇を引き結んだまま、吹雪の向こうを見ていた。


 ラースは消えた。

 だが、次はもっと近くで来る。


 それだけは確信できた。

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