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風葬のシルヴァ  作者:
第四章 氷の牙
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第38話 前哨戦

 最初に動いたのはラースだった。


 氷の気配が一瞬だけ揺れたと思った瞬間には、彼の姿は目の前にあった。

 速い。以前よりさらに速い。


 シルヴァは風脚で踏み込みながら、それを真正面から受ける。


 キィィィン――!


 刃と刃がぶつかる。

 氷と風が弾け、白い霜と蒼い気流が周囲へ走る。


「っ……!」


 シルヴァの腕に重い衝撃が走る。

 以前より明らかに重い。第二の核を取り込んだ分、ラースの出力が一段上がっている。


「前よりマシだな」


 ラースが低く言う。


「そっちこそ」


 シルヴァが押し返す。


 風をまとって間合いをずらし、そのまま横薙ぎ。

 ラースは半歩退き、氷の刃で軌道を逸らす。


 その一瞬の応酬だけで、ティナは息を呑んだ。


「……速すぎる」


「前よりずっと噛み合ってる」


 クジャが目を細める。


「でもまだ、ラースの方が上かな」


 ミルスは無言で見ている。

 邪魔をするつもりはない。ここで必要なのは、シルヴァがラースとの差を“実感する”ことでもあるからだ。


 ラースが剣を振るう。

 氷の軌跡が地面を裂き、谷の岩肌まで凍らせた。


 シルヴァは飛び退く。だが避けきれず、肩口を浅く掠められる。


 ティナが思わず前に出かける。


「シルヴァ!」


「出るな」


 ミルスが短く制した。


 シルヴァは痛みに顔をしかめながらも、目だけは死んでいない。


「まだだ」


 風が足元に集まる。

 アストラで磨いた蒼い軌跡。その感覚を掴み直す。


 ラースの瞳がわずかに細くなった。


「来い」


 シルヴァが踏み込む。


「蒼嵐・残刃」


 一閃。

 蒼い軌跡が空間へ残る。


 ラースは避けた――はずだった。

 だが残された刃が遅れて彼の頬を浅く裂く。


 白い肌に、赤い線。


 ティナが小さく息を呑む。


「当たった……!」


 クジャの口元が上がる。


「いい感じ」


 ラースは指で血を拭い、その赤を見たあと、初めてほんの少しだけ笑った。


「面白い」


 それは挑発ではない。

 本当にそう思った時の顔だ。


「やっと牙が見えたな」


「元からある」


「いや、今までは爪だった」


 ラースの周囲で冷気が一段濃くなる。


 谷の地面が凍り、白い霜が一気に広がった。


 ミルスの表情が変わる。


「まずい」


「何が?」


 ティナが聞いた瞬間、ラースの剣が下ろされる。


「凍界」


 空間そのものが白く染まった。


 シルヴァの足元から巨大な氷の棘が突き上がる。

 避ける。だが次、また次。連続だ。


 風脚でも完全には捌ききれない。


 シルヴァは蒼嵐の軌跡で氷を切り裂く。

 だが、追いつかない。


「くっ……!」


 ラースが容赦なく間合いを詰める。


「これが今の差だ」


 剣が振り下ろされる。

 シルヴァは受ける。だが膝が沈む。


 その瞬間、光とカードが同時に飛んだ。


「そこまで!」

「ストップ!」


 ティナとクジャだ。


 ラースは二人の攻撃を一瞥し、後ろへ跳んだ。

 光を避け、カードを氷で弾く。


「……邪魔だ」


「こっちの台詞よ!」


 ティナが剣を向ける。


「やりすぎ!」


「まだだ」


 ラースは平然と言う。


 だがミルスが前へ出たことで、ようやくそれ以上は踏み込まなかった。


「今日はここまで」


 ミルスの声には、有無を言わせない冷たさがあった。


 ラースは数秒だけ沈黙し、それから剣を下ろす。


「そうか」


 シルヴァは肩で息をしながら立ち上がる。


「逃げるのか」


「違う」


 ラースは弟を見る。


「確認しに来ただけだ」


「お前がまだ、追う価値のある相手かどうか」


 ティナが眉をひそめる。


「最悪な言い方」


「事実だ」


 ラースはそれだけ言い残し、踵を返した。


「次はもっと奥だ」


 谷の先、白く霞む山脈の方へ視線を向ける。


「氷牙の中腹で待つ」


 そして最後に、シルヴァだけへ言った。


「今度は一人で来い」


 冷たい風が吹く。

 気づけば、銀髪の背は霧の中へ消えていた。


 静寂が戻る。


 ティナがすぐにシルヴァのところへ駆け寄る。


「大丈夫!?」


「……死んでねぇ」


「そういう問題じゃない」


 クジャも寄ってくる。


「やっぱり強いね」


「分かってたけどな」


 シルヴァは肩の傷を押さえながら、ラースが消えた方向を見ていた。


 差はまだある。

 でも、届かない距離じゃない。そう思えてしまったのが、一番厄介だった。


 ミルスが静かに言う。


「今のは前哨戦よ」


「本番はもっときつい」


「分かってる」


 シルヴァの返事は低い。

 だが、目は折れていなかった。


 氷牙山脈編が、ここから本格的に始まる。

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