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風葬のシルヴァ  作者:
第四章 氷の牙
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第37話 氷牙の入り口

 谷の奥、白い霧の向こうから、獣の気配が近づいてくる。


 シルヴァは剣を抜いた。

 ティナが光をまとい、クジャがカードを挟み、ミルスが杖を掲げる。


 次の瞬間、霧を裂いて飛び出してきたのは狼だった。


 ただし、普通の狼ではない。

 毛並みは氷の結晶みたいに青白く、牙からは冷気が漏れ、足が地面へ触れるたびに白い霜が広がっていく。


「凍狼……!」


 ミルスが低く言う。


「ラースの眷属よ」


「来た来た」


 クジャがカードを投げる。


 だが凍狼は素早い。

 札を避け、左右へ散り、同時に回り込んでくる。


「包囲してくる!」


 ティナが叫ぶ。


「前より賢いわね!」


「主が主だもの」


 ミルスの重力が一体を叩き潰す。

 シルヴァが風断で二体まとめて薙ぎ払う。


 だが数が多い。十体以上はいる。


「シルヴァ、右!」


 クジャの声。


 シルヴァが即座に踏み込み、風をまとって跳ぶ。

 右から来た凍狼の顎を刃で割った。


 そこへティナの光が重なる。


「聖光斬!」


 もう一体が霧散する。


 凍狼たちはただ突っ込んでくるだけではなかった。

 一定の距離を保ちつつ、シルヴァたちの立ち位置を崩そうとしている。連携だ。


「ラースが直接操ってる?」


 ティナが言う。


「半分くらいはそうね」


 ミルスが答える。


「完全な使い魔に近い」


「嫌な兄貴だな」


 シルヴァが舌打ちする。


 その時、谷の奥からさらに強い冷気が吹き下ろしてきた。


 凍狼たちの動きが、一斉に止まる。


「……え?」


 ティナが息を呑む。


 狼たちは道を開くように左右へ散った。

 白い霧の向こう、谷の入り口の高台に、一人の男が立っている。


 銀髪。

 黒い外套。

 氷のような瞳。


 ラース・ライズ。


 第三勢力。第六魔王。シルヴァの兄。


 彼は下を見下ろし、ほんの少しだけ口元を動かした。


「遅い」


 それが第一声だった。


 ティナが眉を寄せる。


「再会の言葉がそれなの?」


「十分だろ」


 ラースは無感情に返す。


「来るならもっと早いと思っていた」


 シルヴァが前へ出る。


「待ってたのか」


「核を二つ持った時点で、お前たちは来る」


「来ない理由がない」


 風と冷気がぶつかる。

 まだ戦ってもいないのに、空気だけで肌が痛い。


 クジャが眼帯を押さえながら小さく呟く。


「うわ、本当に前より強くなってる」


「第二のコアを取り込んだ影響ね」


 ミルスも表情を消していた。


 ラースは凍狼たちを一瞥すると、冷たく言った。


「下がれ」


 命令に従うように、眷属たちはすぐ谷の奥へ消えていく。


 ティナが剣を握り直す。


「……話し合いにはならなさそうね」


「ならなくていい」


 ラースが言う。


「シルヴァ」


 弟だけを見ている。


「どこまで強くなった」


「試してみるか」


「いいだろう」


 そのやり取りを聞きながら、ティナが小さく息を呑んだ。


 周囲の空気が張り詰めていく。

 これはただの兄弟喧嘩ではない。立場も思想も違う者同士の、確認だ。


「ここでやるの?」


 ティナが問う。


「止めてもやるだろうしね」


 クジャが肩をすくめる。


 ミルスは少しだけ目を細めてから、静かに言った。


「致命傷は避けなさい」


「どっちに言ってるのよ」


「両方」


 ラースは返事をしない。

 シルヴァもまた、何も言わず剣を構える。


 雪はまだ降っていない。

 なのに、谷の空気が白く染まり始めた。

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