第32話 地下中枢
アストラの地下中枢へ走るティナの足音が、石の回廊に反響していた。
魔力炉へ繋がる通路は複雑で、壁一面に古代魔導の紋様が走っている。
普段なら美しいと思える光景も、今は不気味にしか見えない。
「急いで……!」
ティナの後ろを、ミルスが追う。
「焦りすぎないで。足元を見なさい」
「分かってる!」
返事は強かったが、実際には焦っていた。
クジャを置いてきた。シルヴァは正面でネメシスと戦っている。ここで地下中枢まで壊されたら、アストラそのものが終わる。
回廊を曲がった先で、黒い霧が渦巻いていた。
「……いた!」
ネメシスの侵食影だ。
人型に近い。だが顔がなく、腕だけが異様に長い。壁に手を差し込み、魔力炉へ繋がる陣を汚している。
ミルスが即座に杖を振った。
「そこまでよ」
重力の杭が落ちる。
影が床へ縫い付けられる。
だが完全には止まらない。霧のように身体を散らしながら、なお侵食を続けている。
「しぶとい……!」
ティナが光を集める。
「聖光斬!」
斬撃が影を断つ。
今度は手応えがあった。侵食影が大きく崩れる。
けれど、その奥からまた別の影が湧き上がる。
「まだいるの!?」
「本体と繋がってる限り再生するわ」
ミルスの声が鋭い。
「ティナ、光を一点に集中しなさい! 散らすんじゃなく、核を焼くの!」
「核ってどこよ!」
その瞬間、ティナの耳にクジャの声が響いた気がした。
――胸の奥、少し左。
幻聴かもしれない。
でも、ティナは迷わなかった。
「……信じる」
剣を両手で握る。
深く息を吸う。
光を広げるのではなく、圧縮する。
守るための光ではなく、断つための光へ。
白い輝きが刃へ収束する。
「聖天閃光――!」
一閃。
侵食影の胸の少し左を、光が貫いた。
影が止まる。
次の瞬間、内部から白く焼け崩れた。
ドォォォン!!
回廊に張り付いていた黒い霧まで一気に消し飛ぶ。
ティナが大きく息を吐いた。
「……やった?」
ミルスはすぐに魔力炉を確認する。
「中枢は無事」
それからティナを振り返り、少しだけ目を見開いた。
「今の光」
「……何?」
「圧縮できてたわ」
ティナは自分の剣を見る。
まだ微かに白い残滓が残っている。
「これが……」
「ええ」
ミルスが頷く。
「あなたの覚醒の入口よ」
だが、その余韻に浸る暇はなかった。
上階から大きな衝撃音が響く。
シルヴァだ。
いや、シルヴァとネメシスの戦いが、一段上へ進んでいる。
「戻るわよ!」
「うん!」
ティナは剣を握り直し、ミルスと共に再び上を目指した。




