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風葬のシルヴァ  作者:
第三章 魔導の魔王
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第26話 銀の視線

 その夜、アストラの外れにある高塔へ、シルヴァは一人で上がった。


 風が読みやすい場所だった。

 都市全体を見渡せるし、外から近づく気配にもすぐ気づける。


 クジャの言う通りなら、ラースはどこかでこちらを見ている。

 なら、こっちから探すだけだ。


 夜のノクティス大陸は、どこまでも暗い。

 空も、地平も、風も。全部が黒い。


 だがその暗闇の中に、一点だけ、白く冷たい気配があった。


「……いた」


 遠い岩峰の上。


 人影が一つ。

 月明かりのような銀髪が、風に揺れている。


 ラース・ライズ。


 彼は本当に、ただ見ているだけだった。


 シルヴァが高塔の縁へ立つと、向こうもこちらへ視線を向ける。

 距離はある。声が届くはずもない。


 なのに、何を考えているのか分かる気がした。


 ――まだ弱い。


 そんな顔だった。


「むかつくな」


 シルヴァが小さく吐き捨てた時、背後で足音がした。


「いた」


 ティナだ。


「やっぱりここ」


「寝てろよ」


「寝られないのよ」


 ティナはシルヴァの隣まで来て、同じ方向を見る。


「……本当にいる」


「見えるのか」


「気配くらいは」


 少しの沈黙のあと、ティナが言う。


「行かないの?」


「今行っても勝てねぇ」


「冷静ね」


「勝てねぇ喧嘩は売らない」


「この前まで普通に売ってた気がするんだけど」


「少しは学んだ」


 ティナがふっと笑う。


「それ、ミルスのおかげ?」


「さあな」


 その時、もう一つの足音。


「二人で秘密会議?」


 クジャだった。

 夜風に髪を揺らしながら、いつもの笑みを浮かべている。


「お前もか」


「だって右目がうるさくて眠れないし」


 クジャは二人の間に割り込むように立ち、遠くのラースを見た。


「相変わらず綺麗に冷たいね」


「褒めてるのかけなしてるのか分からないわ」


「両方」


 クジャは眼帯を押さえる。


「でも、ラースって本当に第三勢力なんだなって分かるよ」


「どういう意味だ」


「僕たちにも、魔王軍にも、ネメシスにも寄ってない」


「ただ一人で、自分の道だけ見てる」


 シルヴァは黙る。

 それが兄の本質なのだろう。誰にも従わず、誰の正義も背負わない。


「……めんどくさい兄貴だな」


 思わず本音が零れた。


 ティナとクジャが、ほとんど同時に笑った。


「今さら?」

「今さらだね」


 高塔の上に、三人の笑い声が小さく広がる。


 遠くの岩峰で、ラースの気配がふっと薄れた。

 消えたのではない。去ったのだ。


「帰った」


 クジャが言う。


「そうか」


 シルヴァは夜空を見る。


 次に会う時は、きっともっと近い場所だ。

 魔王へ向かう道のどこかで、必ずまたぶつかる。


 その時に追いつけるよう、強くならなければいけない。


 ティナがゆっくり伸びをした。


「戻ろう」


「明日も地獄なんでしょ?」


「たぶんな」


「嫌だなぁ」


「でもやるよね」


 クジャの問いに、ティナは頷いた。


「やるわよ」


 シルヴァも短く言う。


「当然だ」


 三人は高塔を降りていく。

 その背中を、アストラの魔導灯が淡く照らしていた。


 修行の日々はまだ終わらない。

 だが確実に、彼らは次の戦いへ近づいている。

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