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風葬のシルヴァ  作者:
第三章 魔導の魔王
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第25話 右目の熱

 修行が進むにつれて、クジャの右目の不調は少しずつ増えていった。


 訓練そのものが原因なのか、第三魔王ネメシスが近くでこちらを見ているせいなのかは分からない。

 ただ、眼帯の下が熱を持つ回数が明らかに増えている。


 本人は軽く流そうとするが、ティナはもう誤魔化されない。


「また痛むの?」


 訓練後、食堂へ向かう途中でティナが聞くと、クジャは「ちょっとだけ」と笑った。


「ちょっとの回数が多いのよ」


「心配性だなぁ」


「誰のせいだと思ってるの」


 クジャは歩きながら、少しだけ視線を落とした。


「慣れてるんだよね、これ」


「慣れたくないことってあるでしょ」


「あるけど、慣れないとやってられないこともあるよ」


 その返しに、ティナは何も言えなかった。


 食堂の手前まで来たところで、シルヴァが壁にもたれて待っていた。


「遅い」


「遅くないわよ」


「クジャがふらついてた」


「見てたの!?」


「見える位置にいただけだ」


 シルヴァは平然と言う。

 ティナが呆れたようにため息をつく一方で、クジャは少しだけ目を丸くした。


「……見てたんだ」


「倒れられると面倒だ」


「素直じゃないなぁ」


 そう言いながらも、クジャの表情は悪くなかった。


 その日の訓練は、索敵と幻術対策だった。

 ミルスが都市の一角へ幻影迷路を展開し、その中から“本体”を見つけて脱出するというもの。


「どう考えても第三対策じゃない」


 ティナが言う。


「ええ、そうよ」


 ミルスはあっさり肯定した。


「ネメシスはまた来る」


「しかも今度は、もっとこちらに有利な場所ではないでしょうね」


「うわぁ」


 クジャが嫌そうな顔をした。


「じゃあ今のうちに慣れとこうってことか」


「そう」


 迷路に入ると、視界が一気に歪んだ。


 同じ石壁が続く。

 角を曲がっても、また同じ景色。

 しかも時折、誰かの声が聞こえる。


「シルヴァ」

「ティナ」

「こっちだよ」


 偽物だ。

 頭では分かる。だが、耳が反応してしまう。


 ティナは歯を食いしばった。


「いやらしい……!」


「落ち着け」


 シルヴァの声。


 振り向く。

 本物だ。


「今の、シルヴァの声も一瞬迷った」


「俺もお前の声が二つ聞こえた」


 クジャは少しだけ黙ってから、眼帯に触れた。


「……こっち」


「分かるの?」


「うん。ちょっとだけ、線が見える」


 クジャが先頭に立つ。

 彼女の指示に従って進むと、確かに空気の濁りが薄い道へ出る。


 ティナが感心したように言う。


「すごい」


「便利なんだよ、この目」


「代償がなければね」


「それはまあ」


 クジャの声がほんの少しだけ沈む。


 迷路の最奥には、“本体”代わりの魔導核が置かれていた。

 シルヴァがそれを風で断ち、幻影が一気に消える。


 外へ戻ると、ミルスが頷いた。


「悪くない」


「またその評価」


 ティナが顔をしかめる。


「でも本当に悪くなかった」


 ミルスの視線はクジャへ向いていた。


「右目を無理に開かず、必要なだけ使った」


「少しは加減を覚えたのね」


「僕、そんなに考えなし?」


 三人が同時に頷いた。


「ひど」


 だが、そのやり取りの最中だった。


 クジャの右目が、突然強く熱を持った。


「っ……!」


 眼帯の下で、魔王の欠片が脈打つ。

 同時に“見えた”。


 氷。

 白い息。

 遠くで剣を構える、銀髪の男。


 クジャの顔色が変わる。


「……ラース」


 シルヴァの目が鋭くなる。


「どこだ」


「アストラの外」


「来るのか」


 クジャは少し苦しそうに息を吐いた。


「いや……来るっていうか」


「見てる」


 ミルスが静かに言う。


「第三だけじゃないわけね」


「人気者だな、シルヴァ」


「嬉しくねぇ」


 だが、その言葉に嘘はなかった。


 ラースもまた動いている。

 ネメシスも動いている。

 魔王軍の隊長もいる。


 アストラでの修行は、決して安全圏の中ではない。

 ここは嵐の前の、短い静けさにすぎなかった。

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