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風葬のシルヴァ  作者:
第三章 魔導の魔王
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第24話 ティナの夢

 夜。

 訓練の疲れで、三人とも食後すぐに寝台へ転がり込んだ。


 それでも完全には眠れず、しばらくしてティナはそっと部屋を抜け出した。


 アストラの夜は静かだ。

 壊れた魔導都市のあちこちで灯りが揺れ、まるで星の中を歩いているみたいな気分になる。


「起きてたんだ」


 声をかけられて振り向くと、ミルスが塔の回廊に立っていた。


「……なんだか寝られなくて」


「顔に出てるわ」


「そんなに?」


「少しだけ」


 ミルスは回廊の縁へ歩き、外の景色を見下ろした。

 ティナも並ぶ。


 下には静かな都市。

 遠くには黒い空。

 そしてその先に、ノクティス大陸の暗い地平が広がっている。


「怖い?」


 ミルスの問いは、驚くほど真っ直ぐだった。


 ティナは少しだけ迷ってから頷く。


「……怖いわ」


「魔王も、隊長も、ラースも。クジャのことも心配だし、シルヴァは無茶するし」


「最後のが一番厄介ね」


 ティナは思わず笑った。


「そうかも」


 少しだけ気持ちが軽くなる。


「でもね」


 ティナは夜空を見上げた。


「怖いだけじゃないの」


「何かしたいって、思ってる」


「何を?」


「分からない。だけど……守られるだけは嫌」


 その言葉に、ミルスは静かに目を細めた。


「あなたは、誰かを守りたいのね」


「……うん」


「シルヴァを?」


 ティナは一瞬で顔を赤くした。


「ち、違っ……いや、違わないけど、そういう意味じゃなくて!」


「どういう意味かしら」


「からかわないで!」


 ミルスが小さく笑う。


「ごめんなさい」


 ティナはため息をついたあと、少し真面目な顔に戻った。


「でも本当に、あの人って危なっかしいのよ」


「平気な顔して前に出て、傷だらけになって、それでも止まらない」


「ええ」


「……昔から?」


「そうね」


 ミルスの声が、少しだけ遠くなる。


「昔から、“自分一人で終わらせればいい”って思ってる子だった」


「それが格好いいと思ってるわけじゃない。ただ、本気でそうするしかないと信じてる」


 ティナは黙る。


「だから」


 ミルスは彼女を見る。


「あなたみたいな人が必要なのよ」


「私?」


「ええ。あの子を引き戻せる人」


「そんな大層な……」


「大層でいいの」


 回廊に風が吹いた。

 熱も冷たさもない、ただ静かな夜風。


「あなたはあなたのままでいい」


 ミルスは言う。


「真面目で、お節介で、少し不器用で」


「それがきっと、誰かを守る力になる」


 ティナは照れくさそうに笑った。


「褒められてる気がしない」


「半分褒めてるわ」


「やっぱり半分なのね」


 二人は少しだけ笑う。


 その時、回廊の向こうから軽い足音がした。


「夜会?」


 クジャだった。

 髪をほどいたまま、目元を擦っている。


「起きてたの?」


「目が覚めた」


「また?」


「右目がたまに騒ぐんだよね」


 その言い方があまりにも軽くて、ティナの顔が曇る。


「クジャ……」


「大丈夫だよ」


 クジャはそう言って、二人の間に入り込む。


「でもさ」


「なに?」


 ティナが聞く。


 クジャはアストラの夜景を見ながら、ぽつりと言った。


「もし僕が、最後にちゃんと役に立てるなら」


「少しくらい壊れても、まあいいかなって思ってた」


 ティナはすぐに首を振った。


「良くない」


「即答」


「当たり前でしょ」


 ミルスも静かに言う。


「それは、あなたが一人で決めていいことじゃない」


 クジャは少しだけ困ったように笑った。


「怒られると思ってたけど、やっぱり怒られた」


「当然よ」


「でも」


 クジャは小さく続ける。


「ちょっと嬉しい」


 その本音は、ティナの胸に静かに落ちた。


 ただの仲間じゃない。

 この旅の中で、少しずつ、お互いが大事になっている。


 それを自覚するには十分な夜だった。

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