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風葬のシルヴァ  作者:
第三章 魔導の魔王
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第23話 積み重なる日々

 アストラでの修行は、単純なようでいて容赦がなかった。


 起きる。

 食べる。

 戦う。

 倒れる。

 少し眠る。

 また戦う。


 その繰り返しだ。


 最初の三日で、ティナは「もう無理」と十七回言い、クジャは「死ぬかも」と九回言い、シルヴァは一度も弱音を吐かなかった代わりに訓練場の壁を二回壊した。


「なんで壁が壊れるのよ!」


 ティナが叫ぶ。


「加減を間違えた」


「そういう問題じゃない!」


「え、シルヴァって加減とか考えるんだ」


 クジャが笑う。


「失礼だな」


「考えてるように見えないからね」


 そんな調子で、時間だけはどんどん過ぎていく。


 もっとも、外の世界ではほとんど進んでいないのだろう。

 ミルス曰く、アストラの中枢が生きている限り、この都市の内部時間は外界とずれて流れている。だからこそ、短期間で修行できる。


 それはつまり、休む言い訳が通じないということでもあった。


「次」


 ミルスの一言で、訓練体がまた動き出す。


 今日の訓練は、連携重視だった。

 単体で倒せる相手ではなく、役割を分けなければ崩せない魔導人形が八体。盾役、遠距離役、妨害役、回復補助役まで揃っている。嫌になるほど実戦的だ。


「右、来るよ」


 クジャの声に、ティナが反応する。


「分かってる!」


 光の剣が盾役の人形を押し返す。

 その背後へシルヴァが回り込む。


「風断」


 関節部を正確に裂く。

 だがその瞬間、後ろから矢のような魔力弾が飛んできた。


「シルヴァ!」


 ティナが割り込み、光の盾で弾く。


 クジャが舌を鳴らした。


「邪魔だな」


 カードが二枚、三枚。

 遠距離役の目元へ、わずかな誤差もなく突き刺さる。


 ミルスが腕を組んだまま言う。


「前よりマシね」


「前より、って何よ」


 ティナが息を切らしながら返す。


「最初は話にならなかったもの」


「厳しい!」


「事実よ」


 事実だった。


 最初の頃、三人はそれぞれが強くても、合わせると途端に隙だらけになっていた。

 シルヴァは前へ出すぎる。

 ティナは守りを優先しすぎる。

 クジャは一人で処理しようとしすぎる。


 だが今は少し違う。


 シルヴァが前へ出ても、ティナが後ろから合わせる。

 ティナが止めた一瞬を、クジャが切り裂く。

 クジャの癖のある動きを、シルヴァが一番自然に拾う。


「左、二拍後」


 クジャが言う。


「ああ」


 シルヴァがほとんど同時に動く。

 ティナの光が牽制し、シルヴァの風が本命を落とす。


 最後の一体を片付けた時、訓練場に静寂が戻った。


 ティナがその場に座り込む。


「はぁ……はぁ……」


「だいぶ息切れしなくなったね」


 クジャが言う。


「あなたもよ」


「僕は元から体力ないから」


「それでよくあんな動けるわね」


「要領だよ♠︎」


「その言い方、なんか腹立つ」


 シルヴァは剣を払いながら、ミルスを見る。


「次は何だ」


「休憩」


 意外な言葉だった。


 ティナが驚く。


「え、いいの?」


「顔に出てるわよ。もう限界だって」


「……否定できない」


 ミルスは少しだけ笑った。


「食堂へ行きなさい。今日は甘いものもあるわ」


「ほんと!?」


 ティナの目が分かりやすく輝く。


 クジャも身を乗り出した。


「最高じゃん」


「現金なやつらね」


 シルヴァだけがあまり反応しなかったが、ミルスはそれも見逃さない。


「シルヴァ」


「何だ」


「あなたの分は肉多めにしておいたわ」


「……それは早く言え」


 ティナとクジャが同時に吹き出した。


 食堂へ向かう道すがら、ティナがぽつりと呟く。


「最近ちょっとだけ楽しいのよね」


「修行が?」


 クジャが首を傾げる。


「修行は楽しくないわよ」


「じゃあ何が」


「こういうの」


 ティナは少し照れくさそうに笑う。


「みんなでご飯食べて、文句言って、訓練して」


 クジャは「へぇ」と言ってから、口元を緩めた。


「分かるかも」


 シルヴァは前を歩いたまま言う。


「平和ボケするなよ」


「してないわ」


「でも、こういう時間があるから頑張れるんでしょ」


 ティナの返しに、シルヴァは否定しなかった。


 アストラの食堂は、外の世界から切り取られたみたいに静かだった。

 古い石造りの部屋に、長い木の卓。浮遊光が柔らかく照らし、壁際には魔導端末たちが忙しなく動いている。


「おかえりなさいませ」

「本日の糖分はこちらです」

「疲労回復用に調整済みです」


 クジャが真っ先にデザートへ飛びつき、ティナが「子どもなの?」と言いながら自分も座る。

 シルヴァは肉の皿を取り、無言で食べ始めた。


 そんな何でもない時間が、確かに日常になり始めていた。

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