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風葬のシルヴァ  作者:
第三章 魔導の魔王
21/80

第21話 魔導都市アストラ

 灼炎砂漠を抜けた先に、都市の残骸があった。


 巨大な石柱。

 半ば崩れた円塔。

 宙に浮いたまま静止している砕けた橋。

 そして地面一面に描かれた、古代の魔導陣。


 普通の廃墟ではない。

 見ただけで分かる。ここは“壊れた”のではなく、“止まった”のだ。


「すごい……」


 ティナが思わず呟く。


「綺麗」


 クジャも珍しく素直な感想を漏らした。


 赤茶けた砂漠を越えてきたぶん、灰青色の石造都市は異様なほど静謐に見える。空気さえも、ここだけ少し違う。熱が薄く、代わりに魔力が濃い。


「ここがアストラ」


 ミルスの声が、いつもより少しだけ柔らかい。


「私が第四魔王になってから、拠点にしている場所」


「帰ってきた、って感じ?」


 ティナの問いに、ミルスは微かに笑う。


「そうね」


「でも故郷ではないわ」


 シルヴァは周囲を見回しながら言う。


「罠は?」


「ある」


「あるのかよ」


「私以外が入ると勝手に起動する類のものが少し」


「少しって言い方やめて」


 クジャが肩をすくめる。


 都市の中央には、ひときわ大きな円形の塔があった。

 上部は崩れているのに、下層の魔導機構だけはまだ生きているらしい。近づくにつれ、石壁の紋様が淡く発光し始めた。


 ミルスが杖を掲げる。


「解除」


 空気が震える。

 塔の扉が静かに開いた。


 内部は外見以上に広かった。

 吹き抜けの大空間に、何層もの足場が螺旋状に巡っている。中央には巨大な結晶柱が立ち、その中を青白い光が上へ流れていた。


「魔力炉よ」


 ミルスが説明する。


「都市全体の心臓みたいなもの」


「まだ動いてるの?」


「最低限だけね」


 ティナは感心したように結晶柱を見上げる。


「これ全部、あなたが管理してるの?」


「一人では無理」


「じゃあ誰が」


 ティナが聞いたところで、天井近くの足場から、小さな光がいくつも飛んできた。


「おかえりなさいませ、ミルス様」

「遅かったですね」

「そちらが新しい客人ですか?」


 光は人型に近い輪郭を持っていた。

 精霊でも人間でもない、小型の魔導端末――言うなれば意思を持った魔法機械だ。


 クジャが目を輝かせる。


「可愛い」


「触ると噛むわよ」


「怖い」


 そのやり取りのあと、ミルスは三人へ向き直った。


「ここでしばらく修行する」


「やっぱり」


 クジャが言う。


 ティナは観念したように息を吐いた。


「期間は?」


「外の時間なら数日」


「“外の時間なら”ってなによ」


「この都市の中枢は時間圧縮に近い魔導が生きてるの」


 ミルスはさらりと言う。


「内部で数ヶ月鍛えても、外では数日しか経たない」


 ティナとクジャが同時に目を丸くした。


「便利」

「怖い」


 感想が真逆だった。


 シルヴァはただ一言。


「やるなら早くしろ」


 ミルスの口元が少しだけ上がる。


「いいわ」


「まずは休みなさい。明日から地獄よ」


 夜、アストラの一室に案内された三人は、久しぶりにまともな寝床へ身体を沈めた。


 柔らかい。

 広い。

 そして何より、静かだ。


「生き返る……」


 ティナが寝台に倒れ込みながら言う。


「宿よりいいじゃん」


 クジャは窓辺に腰掛け、都市の夜景を眺めていた。

 壊れた魔導都市なのに、ところどころの灯りが星みたいに揺れている。


「綺麗だね」


「そうだな」


 シルヴァが短く返す。


 ティナは寝台の上から二人を見て、少しだけ笑った。


「こういう時間、増えたわよね」


「増えて悪いか」


「悪くない」


 クジャは窓の外を見たまま言う。


「でも、こういう時ほど気を抜くと怖い」


 シルヴァの視線が彼女へ向く。


「第三か」


「うん」


 クジャは眼帯に軽く触れた。


「まだ見てる」


 その一言で、部屋の空気が少しだけ張り詰めた。


 ミルスの言う通り、ここで強くなる必要がある。

 ラース。ネメシス。魔王軍の隊長。

 追いつくべき相手が多すぎる。


「……寝るぞ」


 シルヴァがそう言って剣を壁へ立てかけると、ティナが半分笑いながら言った。


「現実逃避みたいに寝るのやめてくれる?」


「考えても強くならねぇ」


「あなたらしいわね」


 だがその乱暴さが、今は少しだけ心地よかった。

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