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風葬のシルヴァ  作者:
第二章 ノクティス大陸
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第18話 炎の魔獣

 アグニス・バルドは、言葉を話さなかった。


 ただ咆哮し、砂漠の空気を震わせる。

 その一声だけで熱波が走り、シルヴァたちの頬を焼いた。


「何よ、これ……!」


 ティナが剣を握る手に力を込める。


 理性のない獣。

 それなのに、ただの魔物より遥かに“王”としての圧がある。


 ミルスが杖を構える。


「正面から来るわよ!」


 言葉通り、アグニスは真っ直ぐ突っ込んできた。

 巨体のくせに速い。砂漠を滑るように距離を詰め、その前足を振り下ろす。


「散れ!」


 シルヴァの声で全員が飛ぶ。

 次の瞬間、地面が爆ぜて砂が噴き上がる。そこへ炎が混ざり、爆発が連鎖した。


 クジャが空中で身を捻り、岩の上へ着地する。


「ちょっと、火力高すぎない?」


「魔王よ!」


 ティナが怒鳴り返す。


 ミルスの魔法陣が広がる。


「重力落下」


 上空から圧が叩きつけられ、アグニスの動きが一瞬だけ鈍る。

 その隙にシルヴァが懐へ潜り込んだ。


「風断!」


 首筋を狙った斬撃。

 だが、刃は炎を纏った皮膚の表面で弾かれた。


「っ……硬ぇ!」


 アグニスが振り向く。

 巨大な顎が開く。


「シルヴァ、下がって!」


 ティナの叫びと同時に、灼熱のブレスが吐き出された。


 シルヴァは風で身を逸らしたが、完全には避けきれない。

 熱が肩を焼く。焦げた匂い。


「くそ」


 そこへクジャのカードが飛ぶ。


「見てろよ化け物」


 カードはアグニスの目元を狙った。

 だが、炎の膜に弾かれる。


「うわ、あれズルい」


「弱音吐いてる場合じゃない!」


 ティナが光のオーラを剣へ集中する。


「聖十字斬!」


 二本の光が交差し、アグニスの胸元へ走る。

 今度は僅かに通った。魔王の身体がよろめく。


「効いた!」


 ティナが声を上げる。

 だが、アグニスは怒り狂ったように咆哮し、背中の亀裂から炎を噴き上げた。


 熱量が一段跳ね上がる。


 ミルスが険しい顔になる。


「まずい……暴走形態に入る」


「何それ!」


「本能だけで出力を上げる。理性がない獣型魔王の最悪の特徴よ」


 アグニスの前足が砂地を抉る。

 今度の動きはさらに速い。


 ティナが避けきれず、横腹を掠められた。


「っ!」


「ティナ!」


 シルヴァが間に飛び込む。

 風をまとって斬り上げるが、アグニスはその勢いのまま身体ごとぶつかってくる。


 ドォォォォン!!


 シルヴァの身体が砂へ叩きつけられた。


 クジャが眼帯に手を当てる。

 迷いがあった。


 ミルスがそれを見て、低く言う。


「まだ使うな」


「でもこのままだと」


「分かってる。けど早い」


 クジャの指が止まる。

 その一瞬で、アグニスが二度目のブレスを吐こうと頭をもたげた。


 ティナが血の滲む脇腹を押さえながら立ち上がる。


「シルヴァ!」


 シルヴァは砂の中から立ち上がった。

 肩と頬に火傷。だが、目は死んでいない。


「……まだだ」


 風が集まる。

 今までより深く、鋭く。


 ミルスがその気配に気づき、少しだけ目を見開いた。


「シルヴァ」


 彼は剣を握り直し、アグニスを真っ直ぐ見た。


「一回だけ、通す」


 ティナは即座に理解した。


「クジャ!」


「うん」


 クジャのカードがばら撒かれる。

 それは攻撃ではなく、視界を奪い、足元の砂を爆ぜさせ、アグニスの動きを一瞬だけ乱すための布石だ。


 ティナは光を集める。


「聖光縛!」


 白い光の鎖がアグニスの前足に絡みつく。

 完全には止まらない。だが、半拍だけ足りる。


 ミルスの魔法陣が重なる。


「圧縮」


 アグニスの頭部周辺の空間だけが、わずかに歪む。


 その一点へ、シルヴァが踏み込んだ。


「風葬」


 風が刃にまとわりつく。

 今までよりもさらに細く、鋭く、深く。


 アグニスの喉元に、蒼い一閃が走った。


 熱が弾け、砂が舞う。

 次の瞬間、魔王の巨体がゆっくりと傾き始めた。


 膝をつく。

 大地が揺れる。


 アグニス・バルドの喉から、黒赤い核が露出した。


「今!」


 ミルスが叫ぶ。


 だがその瞬間、クジャの眼帯の奥がちり、と痛んだ。


 嫌な気配。

 この場にいる四人以外の“何か”が、近づいてきている。


 クジャの顔から笑みが消える。


「……来る」


 シルヴァが振り向く。


「何が」


 クジャは眼帯の上から目元を押さえたまま、熱に揺らぐ地平線の向こうを見ていた。


「もっと嫌なやつ」


 その答えが何を意味するのか、まだ誰も知らなかった。

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