元婚約者の釈明①
違うんだ、違うんだ。
私は伯爵家の者たちに騙されていただけで。
彼女を蔑ろにするつもりはなかった。
むしろ私はあの女と同じ、伯爵家の被害者なんだよ。
公爵家から婚約の件で打診が来たときの私は、有頂天になっていた。
だがよくよく聞けば、それは伯爵家との縁談だったのだ。
あの公爵家を継ぐ人は、令嬢ではないし。
公爵家にひとりいるご令嬢も、すでに婚約を結んでいる。
それらのことは知っていたのだから、少し考えれば分かることだったのに。
それでも私の落胆は酷かった。
侯爵家も四男となれば、婿入り先には期待出来ない。
兄弟姉妹が多いことを、生まれてから何度恨んだか。
婿入り先として侯爵家との繋がりを望む下位貴族の家ならば、いくらでも見繕えたけれど、私は出来ればより高位の家に入りたかった。
兄弟姉妹たちに勝ちたかったのもある。
そんな私にとって、伯爵家は婿入り先としてはじめから対象外だったのだ。
せめて同位の侯爵家か、それ以上を探していた。
私は愚かではないから、もしもいい婿入り先が調達出来なかったときの保険もかけている。
自分で身を立てるためにと、勉学に力を入れて来たのだ。
すべては確実に良い未来を手にするため。
それが功を奏したと言っていいのか。
家庭教師から話が流れたようで、公爵家が是非にと私を指名した。
そんな声掛けがあったら、舞い上がってしまうのも、あとに落ち込んでしまうことだって、無理もない話だろう?
兄弟姉妹はしかし、私に同情するどころか、落ち込む私を嘲笑った。
おかげで私も冷静になって、状況をよく確認すれば。
最初に喜んだ通り、私は公爵家に選ばれた立場として変わりはないことが分かった。
婿入り先は伯爵家とはいえ、公爵家当主の末妹が嫁いだ先の伯爵家だったのだ。
つまり公爵家当主の姪との婚約である。
悪くないなと私は思った。
だからはじめて伯爵家を訪問した日には、令嬢に喜んでもらえることを一から十まで行ったさ。
身なりを一級品で整え訪問するのは当然のこと。
令嬢のドレスを褒め。アクセサリーを褒め。髪型を褒め。肌の美しさを褒めて。全身でまとまった美しさも、まるで詩人のように表現し言葉を贈ったとも。
大きな花束も渡したし、土産として持参した菓子だって王都で今一番人気の店のものを事前に買いに行かせていた。
なのに、令嬢から返って来たのは、淡々とした社交的な礼だけ。
表情も作られた薄い笑みから動かない。
女性には優しいと定評のある私でも、何だこの女?と思ったさ。




