私の開示②
あの家で次によく話し掛けてきた人が、妹だったわね。
私をいないものとしていた父や母と一緒にいたらいいのに、わざわざ近付いてきて怒るのよ。
だけど会話にもならなかった。
あの子が何を言いたいのか、私にはさっぱりと分からなくて。
懸命に私を追い出そうとしている様子は受け取れたけど。
追い出して?
それでどうするの?
あなたが仕事をするの?
そう聞いたら、怒りながら泣き出すのよ。
そして自分で満足したところで去っていく。
言葉が分からないから傷付くこともなかったわ。
何を言われていたかも思い出せないもの。
あとの人たち?
ほとんど知らない人たちよ。
この家がどういう状況にあるか。
幼いうちには気付いていたわ。
どうするか迷ったのは、私自身のためよ。
この身に公爵家の血が流れているのですもの。
家が無くなりました、あとは庶民としてご自由にどうぞ、なんて振舞いは許されない。
私はね、生まれた境遇を嘆き悲しんだり、酷い未来を想像して怯えたり、そんな理由で命を捨てられるような、儚く弱い女ではないの。
家が潰えては生きながらえない、庶民となる生き恥は晒せないなんて、貴族としての矜持もないわ。
領民のため、必死の想いでこの家を残そうとする正義も気概もない。
領主が変わっても領民は勝手に強く生きていくものだと思っているから、関われなくなってもひとつ役割を失うだけ。かえって気が楽になるのではないかしら。
あの人たちがどうなろうと、この家がなくなろうとも、伯爵領が誰のものでも、どうでもいいことだったけれど、私は生きるつもりだった。
出来れば表の世界でね。
ほら、好きに生きる道がないわけではないでしょう?
その場合は、子が出来ぬように処置をされたうえでの話になるでしょうし。
将来子が欲しい気持ちは別になかったけれど、あえて痛い想いはしたくなかった。
それに好きに生きると言ったって、そんな痛い想いをしてもなお、監視され続ける人生になるわ。
どうせ見られているなら、表で堂々と生きていきたいじゃない?
だから、伯父さまやお祖母さまには私を知っていただくことにした。
何もしなくたってよく知っていらしたでしょうけれど、私から知っていただけるように動いたということね。
なんだかおかしなことを言っているわね。
言葉って難しいわ。
通じている?
そう、良かったわ。
そうして知られても構わない私であれたから、今があるのよ。
祖父の妨害は多少はあったわ。
さすがはお祖母さまの孫だとあれだけ褒めてくださっていたのに、私がお祖母さまと会おうとするのは良く思っていなかったようね。伯父さまと会うことも、伯爵家の娘には必要のないことだと言って止められたわ。
祖父は伯爵家をどうする気だったのかしら?
孫と公爵家の関係を利用しようと思わない理由が今でも分からないままね。
上手に利用していたら、伯爵家が続く未来も選べたでしょうに。
私も未熟よね。
お祖母さまにはもっとお勉強するようにと言われているところよ。
えぇ、祖父のことなんか気にせずに会えていたわ。
別の仕事を理由にして外出すれば、祖父はそれが事実かどうかの確認もしなかったもの。
お手紙のやり取りにも気付いていなかったのではないかしら?
届けられた文書すべての確認も早いうちから私に任せていたのよ。
もしかしたら祖母は気付いていたかもしれないわね。
祖母にはお茶会のお誘いのお手紙が沢山届いていらしたから。
確認していた可能性はあったわ。
でも何も言われなかった。
私の父と母?
あの人たちには手紙の一通も届いていなかったわね。
当然妹にも何もなかったわ。
本当にあの家の人たちはいつも何をしていたのかしら?
ずっと疑問だったのは、それくらいよ。
あんなに役割を放棄して、暇を持て余してしまわないのか不思議だった。
だけどそういう人たちだから、これからだって何もせずに生きていけるのでしょう。
何の役割もいただけない人生なんて、私は嫌よ。