私の開示①
私があの人たちに心乱されたことが一度もないと言ったら、それは嘘になるわね。
物心ついた頃には、妹を可愛がる両親の姿を遠くから目にしていたわ。
泣きそうになる日が一日や二日で終わらなかったことも覚えているわね。
まだあの頃の私は幼かったもの。
私にだって可愛らしいときはあったのよ?
でも今となっては、もうどうでもいいの。
これは強がりではなく、本心だわ。
あの人たちは面白いことを言っていたそうね。
どれもこれも私には理解出来ない言葉だった。
幼いときから私とは目も合わせない母。
私を居ない者としてきた父。
私という存在のすべてが気に入らない妹。
後継者教育と称して、仕事のほとんどを押し付けてきた祖父。
何を考えているか分からない、出掛けてばかりの祖母。
この人たちに情を持たずに済んだことが、伯爵家に生まれて唯一良かったことかしら?
祖父への情が湧かなかったことが不思議に思える?
あの人たちが可愛がってきたと言っていたそれが誉め言葉のことなら、確かに沢山掛けていただいたわ。
外でもよく私を褒めて頂いていたことも聞いていたわね。
だけど褒めながら、仕事をくれるのよ。
ひとつ仕事を終えて褒められたって、それで終わった例がないわ。
出て来る誉め言葉に連鎖して、またひとつ、ふたつと、新しい仕事が増えていくの。
いくら子どもでもあれは喜べないわよ。
怒っているのではないの。
祖父に関しては、私が最初に対応を間違えたことに起因していることは分かっている。
祖父が教材として選んだ過去の書類から、私は不正を指摘してしまったのね。
それは教えを乞う身では、とても良くないことだった。
子ども相手に大人気のない祖父が悪かったと言ってくれるのね。
いいのよ、もう。
私の何が悪かったかを学ぶ機会になってくれたでしょう?
後からお祖母さまに色々と教わる機会を得られたことだって、あの祖父のことがあったからだと思っているわ。
それにどのみち、早いうちから私が仕事を引き継いでいたように思うもの。
当主として尊敬出来るような方ではなかったから。
煽てられれば、ろくに書類を読み込まず、通してしまう人よ。
あとあと大変になるのはこちらだもの。
早くに私に任せてくれて、結果これで良かったのよ。
最後の当主として責任だけは取って貰えるならそれでいいわ。