女侯爵の吐露②
我が父、先代の侯爵は、熱狂的な彼女のファンを公言し、どういわけか女公爵の再来を我が子に求めた。
これだって父が実際に持っていたのは好意ではなく、ただの嫉妬心であり、幼少時より優秀な女公爵と比較され育ってきたうえで抱えることになった彼女には負けたくないという強い気持ちからの言動だったと思うよ。
──あなたの子にそれは無理だ。諦めろ。
大人になっていれば、面と向かって伝えてやるところだが。
あの頃の幼い私にはなすすべもなく、弟妹は次々増えた。
あの男はね、本当は女公爵の二人の娘のうちのどちらかを妻に迎えたかったのさ。
そのためなら親が決めた正妻を排除してもいいとさえ思っていたあの男は、ついにそれが叶わないと悟ると、今度は片っ端から女を抱いていったのだよ。
あの姉妹が幼いうちから妻にと狙っていたのに。
私の祖父母でもあるあの男の両親は、公爵家に一言の打診さえしてくれなかった。
あの子らが成長した今からでも迎えるつもりがあること、彼女らを妻とするその利をいくら説こうとも、先方にその気があると知らせることもしてくれない。
いつまでも根に持って嘆く父は、本当に鬱陶しい男であったよ。
娘としては恥ずかしくてならなかったね。
祖父母がどうして打診をしなかったかも分からない。
まず年齢差を考えろとも言いたいがね。
あの当時の女公爵の娘など家に迎えていたら、今頃はどれだけ苦労していたか。
そういうことを微塵も想像出来ない男が侯爵だったのだから、我が家もなかなか危うい橋を渡ってきている。
あぁ、そうだね。
女公爵の次女の評判は耳にしていたよ。
彼女の少し下となる私たちの世代でも、知らない者はいないのではないかな?
私はただただその次女を不憫に思っていたね。
しかし父は都合よくこれを利用するようになった。
かの女公爵の元にも残念な子が生まれるのだから、逆も起り得る。
これもまた父の口癖だったよ。
本当に愚かな男だろう?
優秀な子を求めるためだといくら言ったところで、あの男は私たちにとっては、ただの女好きの、いくつになっても性欲に溺れる変態……酷い言い方をしたが、年頃の娘にはそうとしか思えなくてね。
悍ましいことに、祖父が亡くなり爵位を継いだあの男は別邸のすべてに妾を置くと、年中子を生ませるようなことをはじめていた。
それで我が家は、多過ぎる子の教育がままならなくなってしまってね。
想像してみて欲しい。
毎年幾人もの子が増えていくんだ。
いくら侯爵家だって、優秀な教育係の数には限りがある。
そうなればどの子を優先すると思う?
まずは後継となる第一子、そう私だね。
しかし私は祖父母が目を光らせてあの男の性分を少しは押さえ付けている間に、ある程度まで成長出来ていた。
次は誰かとなれば、同母の弟妹であろうが、母の子は私一人だ。
となると、悪いが優先するのは私の子らとなる。
そう、私に子がいなかった頃までに生まれた異母弟妹はまだ良かった。
問題はね、先も言った通り、祖父が亡くなり、あの男が爵位を継いでから出来た弟妹たちのことだったよ。
我が人生いつ振り返ったときも、正妻である母に、最も早くに子を産ませられたことが、あの男の唯一の功績だったね。
あの男が順序まで失態を犯していたら、今頃は高位貴族にありながら王家が定める整理対象家に選ばれていたかもしれないよ。
いやいや冗談ではなくてね。
盛大な後継争いが起きていたっておかしくはなかったのだから。
あぁ、私より以前については、祖父母が処理していた可能性は否定出来ないな。
するとあの男には何の功績もなかったことになろうが、しかしそれは今に議論しても仕方がないこと。
あの祖父母なら塵ひとつ残すような失態はしないよ。
どうしてそれであのような息子が出来上がってしまったかだって?
それは私も興味があるところだ。
かの女公爵と共通するものもあるかもしれないね。
まぁ、そういうわけで、そんな環境だったからね。
あの子もまた歪んで成長させてしまったのだろう。
そこは私の責任も多大にあろうな。