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どくはく  作者: 春風由実
13/22

元婚約者の釈明③


 気付けば私は妹とばかり話すようになっていた。


 それは仕方がないことだろう?

 私はしばらく伯爵家で客人として過ごさなければなかったのだ。


 婚約した女が予定した通りに会ってくれないならば、自然その家族と過ごすことになる。


 だからって妹との仲を深める必要はなかった?


 違うんだ、違うんだ。

 そういう風に仕向けたのが、あの人たちだったんだよ。


 本当は次女の方を後継者にしたかったのだと、わざわざ私に言ってきてな。


 私としてもそれが叶うならば有難い話だった。

 姉の方では、仕事に口を出さないよう言い聞かせることに酷く苦労することは、目に見えて分かっていたからな。


 乗っ取り?

 違う。そんな話ではない。


 出来る人間がそれをすると言っているだけのこと。

 そもそも私は公爵家にこの賢さを買われ、姪の婚約者にと選ばれた男だぞ?

 つまり公爵家も、当主となる女の代わりに私が仕事をしろと言って来たってことだ。


 ここまで言って、まだ分からないというのか?


 なぜそのように人の善意を悪意として捉えられる?

 心根が真に美しい人間は、そのように穿った見方をして人を疑わないものだと聞くぞ?


 善意を信じるだけではその立場は務まらないって?

 そうか、そうか。

 汚れたあなたの世界ではそうなのだろうな。


 だが一緒にしないでくれたまえ。

 あなたとは違って、善良なる私は、悪い人間との付き合いをしてこなかったんだよ。



 ならば伯爵家の者たちは善人だったかって?


 そんなことは言っていないだろう?


 私が善人だからこそ、彼らは私を騙したんだ。

 あれは私が初めて出会う極悪人の集まる家で、何も知らない私にはどうにもならないことだった。


 最初から言っているだろう?

 私は彼女を蔑ろにしたことはないし、公爵家が命じた通りに、伯爵家の役に立とうと尽力していただけ。


 その私がどうしてこうも責められねばならない?



 だいたいな、私には何の相談もしてくれなかった彼女も悪いと思わないか?

 あの短時間の触れ合いで、その家族との関係を察するなんて無理だろうよ。


 私を頼り、伯爵家で虐げられているのだと。

 一言でも伝えてくれていたならば。


 え?私に何が出来たって?


 何もかもだよ。

 公爵家のお力添えをいただいて、共に戦っていたとも。



 だから今は、最初からやり直してはどうだろうかと考えているところだ。


 私も気付けなかったことを反省しているが、彼女だって私に一言もなかったことを恥じ、悪かったと思っているはず。

 歩み寄らなかったのも、彼女の方だったからな。

 私の方は仲を深めようとはじめから努力していたことは話しただろう?


 それにこれは伯爵家の問題なのだ。

 他家から来た私は巻き込まれたという話で、そう考えると、伯爵家の当主となる予定の彼女にだって責任があると思わないか?


 あぁ、私は善人だよ。

 幼い頃から虐げられていた可哀想な女に責任を取れなんて酷いことは言わないとも。


 お互いに今までのことは水に流して。

 そうだな、一から関係を築き、今度こそ……は?なんだって?婚約の予定?

 まさかあの女、浮気していたのか?


 そうか、そうだったか。

 だから最初から私に冷たかったのだな?


 なんて最低な女なんだ。


 あぁ、それで。

 公爵家からの話なのに、たかだか伯爵令嬢のくせして、あの態度はおかしいと思ったんだよ。


 もしや最初から、公爵家の娘になることも決まっていたのではないか?

 そうか、そうだったのだな?


 皆で私を馬鹿にしていたと。


 伯爵家当主の婿になんかなれやしないのにって。

 侯爵家の四男如きが勘違いするなと、嘲笑っていたのだな?


 私を見下すことが、それほど楽しかったか。


 最っ低な女だっ!



 分かっただろう?

 私は被害者なんだよ。


 伯爵家に……あの女にも騙されていた!


 伯爵家全員に謀られた被害者が私だったっ!



 今ので覚悟を決めたよ。

 正式に侯爵家からも訴えることにする。


 今すぐに実家の姉を呼んで来てくれ。

 そうだよ、一番上の姉だよ。


 これで私は解放されるな?


 は?あいつが全部話したって?

 あの頭の足りない女がか?


 はぁ。

 やはり私はとことん運に見放された生まれらしいな。


 状況は理解したよ。


 まずは姉を呼んで来てくれ。

 これ以上の話はそれからだ。





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