祖母の確認①
あの女公爵のことなんて。
私の世代はみんな嫌いなんじゃないかしら?
少なくとも私のお友だちはそうね。
だって考えてみて。
ことあるごとに『女公爵のようにあれ』と叱られるのよ?
よく知らないおばさんと比較されて、貶されて。
そんなのはもう、嫌ってくださいと言われているのと同じでしょう。
私たち世代はそう受け止めて、だからみんな女公爵が嫌いなのよ。
そのうえ私たちの結婚相手となる少し年上の男性たちの多くが、女公爵の信望者だった。
あの人たち、女公爵が独身のうちは自分たちも婚約者も決めずに自由にして。
女公爵が結婚を発表したら、今度は競うように結婚を決めていったのよ。
あの世代の男性たち、本当に気持ちが悪かったわ。
残念ながら、うちの夫もその一人だった。
初めて顔を合わせたあの日も、『女公爵のようにあれ』と顔に書いてあるような会話ばかりして、気持ち悪かったわよ。
だけど嫌でも結婚させられるのが、貴族の娘。
私は嫌だったけど、私の意見なんて聞かれもせずに、結婚が決まったわね。
嫌なおじさんと一生添い遂げなきゃならないなんて。
あの頃は貴族なんて最悪だと思っていたわ。
ふふっ。若気の至り?そうかもしれない。
あれだけ大嫌いなおじさんだった夫でも、長く一緒にいれば情が湧いたわ。
昔の私が聞いたら、信じてくれないでしょうね。
あの人はあれで家のことだけは真剣に考えている人なのよ。
そんなあの人が、家のことより私を選んでくれたことがあったわ。
私はそのときにすっかりあの人に心を絆されてしまったのねぇ。
爵位を次代に繋ぐことが貴族の義務でしょう?
だから出来るだけ多くの子を産むべきだって分かっていたの。
でもね、一度目の出産が辛過ぎたわ。
妊娠中も酷い悪阻でほとんど寝込んでいたし、出産も難産で、それはもう時間が掛かって、痛くて痛くて、辛くて辛くて、気持ちが悪くて、もう苦しくて嫌で仕方がなくて。
出産後も体調はなかなか戻らずに、ほとんどをベッドで過ごす日々が続いたわ。
私はそれで、もう二度とこんな苦しい想いをしたくないと思ってしまったのね。
だから夫に次の子は好きな愛人に生ませてくださいって泣きながらお願いしてしまった。
そうしたらあの人、愛人を作る気はないとはっきり宣言してくれて。
それから子が一人でもいいと言ってくれたわ。
有難かったわねぇ。
私ったら嬉しくて泣いてしまったのよ。
あのときのことがあるから、私は夫を切り捨てられない。
どんなに嘘を吐かれても、どんなに見下されていてもね。
それに私が愚鈍なのは本当のことですもの。
息子には申し訳なく思っているわ。
私とそっくりに生まれてしまって。
せめて夫に似た責任感の強い子に生んであげられたら良かったわね。