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母の言い分①

新作です。

よろしくお願いします。


 私は恵まれていたの。


 貴族家に生まれたのですもの。

 当主である母が決めた相手と結婚することは、物心付いた頃には知っていたわ。


 だから将来の夫に何の希望も持っていなかったのよ。

 婚約相手が決まったと言われたときだって、興味は薄かったもの。


 ふーん、そう。決まったの。


 そんな感じだったわ。



 同じ貴族令嬢の中には、将来の結婚に期待で胸を膨らませている方が多くいらっしゃることも知っていたわよ。

 そういう彼女たちは恋愛小説を好んで読んでいるのよね。


 私だってお友だちに勧められて読んではみたのよ?

 だけど当時の私には楽しいところが何もなかった。


 だってねぇ?

 両親を見ていたら、何の期待もしなくなるわよ。


 公爵家当主の母、婿入りして母を支える立場に徹する父。

 二人の関係は常に主君と臣下のそれだった。


 兄と姉と私。

 三人も子どもがいれば、ご両親はさぞ仲睦まじい夫妻なのでしょうと私が言われることもよくあったけれど。


 ふふ。いつも笑いそうになっていたわよ。

 仲睦まじい姿なんて、娘の私でも見たことがなかったから。



 あの二人が常に気にしているのは、公爵領のことだけ。


 我が国は男女問わず爵位を継げるから、第一子が家を継ぐ場合が多いでしょう?

 もちろん能力を見て、第二子以降の子が継ぐことも稀にあることは知っているわ。

 健康上の理由でそうなることもあるのよね。


 だけど私の実家に関しては、そんな心配は要らなかった。


 兄は幼い頃からとても優秀で、将来を楽しみにされていたし。

 姉も兄程ではないけれど、令嬢としては優秀な部類に入るでしょう?


 二人がいれば、公爵家は安泰。


 それでは足りないと思うところが、母という人なのよね。

 政略の駒として母はあと何人か子どもが欲しかったみたいよ。


 結局私が最後の子になってしまったけれど。


 そうして三番目に生まれた私は、母の期待したような子ではなかった。

 上の二人に比べて、平凡な出来だったの。

 それで母は早々に私を他家に嫁がせることを決めたのね。


 私の婚約者が決まったのも、姉よりずっと早いときだった。



 何の期待もなかったわよ。

 期待されていない私に用意された縁談だもの。

 きっとろくでもない相手だと思っていたわ。


 だけど義務的に迎えた顔合わせの日。


 私は恋を知ったの。 



 それからは幸せな日々だった。

 顔を合わせるたびに溜息を吐く母のことも、やっと口を開けば上の二人を見習えとしか言わない父のことも、何にも気にならなくなって、私のすべてが婚約者のことでいっぱいだったわ。


 家を出るにしても公爵家の者であるという自覚を忘れるなとお小言ばかり告げてくる兄のことも。

 早くに将来を決められて羨ましい、お気楽な私が心底羨ましいと、嫌味ばかり伝えてきた姉のことも。

 どうでもいい人たちに変わっていた。




 ふふふ。公爵家を出て結婚したら、私はますます幸せになったわよ。

 もう毎日愛されて、愛して、あんな家に生まれたのにこんな日々が許されるなんて。

 私って本当に幸せ者ねって。

 あの冷たい母に感謝の気持ちさえ持っていたのよ?


 嫁いだ伯爵家の当主夫妻、つまり義両親ね。

 お二人もとても穏やかで優しくて。


 そんな夢のような幸せな日々に──こんな形でひびが入るなんて誰が予想出来たのよ。



 不安でいっぱいだった初めての妊娠中も。

 彼はとても優しくて、義両親も同じくらい優しくて。

 悪阻がいくら辛くても頑張ることが出来ていたのに。


 長い陣痛を乗り越えて。

 痛みに苦しみやっと産まれた我が子。


 抱いたときには愛おしさがこみあげて、涙を流したのよ?


 その顔、信じていないのでしょう?これは本当よ?



 なのに、なのに。


 目を開いてあの子が私を見た瞬間に、私は息を呑んでいたわ。




 ──どうしてその色なの?






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