プロローグ
昔の話だ。
人間種の住むアウトレア大陸には7つの大陸方程式が存在した。怨念の方程式、憤怒の方程式、絶望の方程式、貪欲の方程式、憎悪の方程式、怠惰の方程式、そして―――嫉妬の方程式だ。これら7つの悪感情方程式は意図的に他人の心に良くない感情を芽生えさせることができた。
これら7つの悪感情方程式が簡単に解けてしまうと世界は忽ち腐ってしまうのだと。偉い人がそう言った。だから古代七賢人はそれを書き換えていわゆる”未解決の7大魔術方程式”として封印した。ちなみに魔術方程式とは魔術を行使するときに計算するもので、これを解くのが早ければ早いほど魔術を発動させるまでの時間を短縮できる。封印後の大陸は物凄く平和だった。皆誰を恨むわけでも憎むわけでもない、幸せな大陸。そのことがいつしかアウトレア大陸の象徴となり、誇りとなるほどには。
しかしある時、一人の魔術数学者が”憎悪の方程式”を解けてしまった。あろうことか、世界に公表までしてしまったのだ。それからというもの、次々と大陸方程式は解かれ大陸は見違えるほどの腐敗が始まった。政治家の心には今までは使えなかった感情魔術〈怠惰〉を使って干渉することで自分勝手な政治をさせるように仕向け、軍隊には同じように感情魔術〈憎悪〉を使って大陸内の他国に対して憎悪を向けさせることで戦争に発展させた。
私、レイ・デストラクションはその首謀者だった。どうしてこんなことをしたかって?別に世界が嫌いだったからというわけでもなく。デストラクション家は代々悪行をすることで神の加護を受けていたからだ。少なくとも私が住んでいた当時の世界では神の存在は認められていた。我がデストラクション家は悪名高い家系だったのはそのためだ。まあだから私が悪さをしたのは「かてーのほーしん」ってやつである。たぶん。だからご愛嬌で許してほしいのだ。
たちまち首謀者を洗い出した人間たちが私を拘束し四肢を切断して魔術の詠唱ができない体にした。ちょーきょーされた(?)と言ってもいいだろう。その後はトントン拍子に事が進み私は大衆の面前で火炙りの刑に処される。
そして神の加護よろしく、私は神領域でいわゆる「嫉妬神」に就任。その後転生を果たした。なんでも10本神と呼ばれる10つの神のうちの一つで、他人の心から嫉妬心を吸収し続けることで平和の可能性を高めようとする神なんだとか。席が一つ空いていたからって平和とは真反対な私がそんなものに就いていいのかと思ったが、よくよく考えれば世界なんて神様のお遊びだ。そんなことに神経を使っていても無意味だという結論に至った私は思考を放棄した。
結局、私は嫉妬神ジェラシーとして二度目の人生を謳歌することになったのである。