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第2章 誤解は加速する。悪役令嬢、救世主扱いされる

数日後の昼休み。

クラリッサは、校庭で起きていた騒ぎを遠巻きに見つめていた。


平民の少年が、貴族生徒たちから魔法で水を浴びせられている。

その少年はびしょ濡れになりながらも、必死に反撃することなくじっと耐えていた。


周囲には、それを見て見ぬふりをする生徒たち。

誰もが関わりたくないという空気を漂わせていた。


「……くだらないわね」


冷たい声でつぶやき、クラリッサはその場へと歩を進めた。

その動きに気づいた生徒たちがざわめく。


「え、クラリッサ様がこっちに……?」

「まさか、助ける気……?」


貴族の少年たちが彼女に気づき、嫌な笑みを浮かべる。


「おや? クラリッサ様も見物かい?」

「平民の小僧に、ちょっと水の礼儀を教えてるだけさ」


クラリッサは眉をひそめた。

魔法によって水球を形成し、浮かべているその光景が、彼女には滑稽に映った。


(……こういう“弱い者いじめ”は、最も嫌いな類のものよ)


だが彼女は、正義の味方ではない。

自らに課した“悪役”という役割を忘れてはならない。


そこで、あえてこう言い放った。


「――無様ね。貴族とやらが、集団でたった一人を相手にして悦に入るなんて」


その声は、静かに、しかし確実に場の空気を変えた。


場の空気が凍りついた。


だがクラリッサは構わず、冷笑を浮かべ続ける。


「見ていて滑稽よ。まるで、品位のかけらもない野犬の群れ」


貴族たちは顔を真っ赤にし、言葉に詰まった。

周囲の生徒たちも、息を呑みながらそのやり取りを見守っていた。


「野犬……って……」

「クラリッサ様、言いすぎ……いや、あれって、本気の叱責……?」


やがて、生徒たちの間にざわめきが広がる。


「あれ……クラリッサ様、いじめを止めた……?」

「いや、あれは“貴族のあり方”を諫めてるんじゃ……?」

「しかも、あの口調……完全に教訓として発してたよな……」


その場で何も言い返せなかった貴族生徒たちは、やがてバツの悪そうにその場を立ち去った。

平民の少年は、ぽかんとした顔でクラリッサを見つめた。


「ありがとう……ございました?」


クラリッサはそれには応えず、くるりと背を向けて去っていった。

マントがひるがえり、その姿にまた拍手が起きる。


翌日、学園の掲示板にはこう書かれていた。


『貴族の矜持を説き、身分差別に一石を投じた令嬢、クラリッサ・ヴァンディール』


当人はその記事を見て、そっと顔を覆った。


(違うのよ……私は悪役令嬢なのに……!)


けれど学園では、彼女の“誤解英雄伝説”がまた一つ増える結果となった。


続く。

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